転職 Vol.518

「経営者の7割が副業に反対」の今、ロート製薬会長×ソニーの”パラレル女子”が語る「副業」のメリット/デメリット

賢者のカタリバ!
毎回テーマに合ったゲストを迎え、自身の経験談や仕事の裏エピソードを語っていただく特別対談『賢者のカタリバ!』。各界で活躍するビジネスパーソンにとっての転機とは?これまでに経験した挫折とは?そして今後の展望とは?今後のキャリアの道しるべになる、トップビジネスパーソンたちの言葉に耳を傾けていただきたい。※このコンテンツは、2017年にtypeメンバーズパークに掲載された動画を新たに記事化したものです。

近年耳にすることの多くなった「副業」というキーワード。働き方の多様化が進む中で注目も高まっている。そこで今回、時代に先駆けて副業を取り入れてきたお二人をゲストに、副業制度のリアルな側面を聞いた。

山田邦雄さんが代表取締役会長を務めるロート製薬は、2016年に副業を解禁。老舗企業の働き方改革に、当時は注目が集まった。もう一方のゲスト、正能茉優さんは、学生時代に創業したハピキラFACTORYとソニーを兼業する「副業女子」だ。

経営者として、自ら副業を実践するビジネスパーソンとして。二人は「副業」についてどう考えているのだろうか。

理想は「ビュッフェ」のように働き方を選べる時代

株式会社ハピキラFACTORY 代表取締役/ソニー株式会社 新規事業担当 正能茉優

——お二人に共通するキーワードといえば「副業」ですが、ロート製薬では2016年に副業を解禁したと聞きました。

山田:そうですね。特定の会社だけに属していると仕事の幅も限られてしまうので、「もっと経験を広げたい」「マルチな働き方がしたい」という社員の声も少なくありませんでした。私自身としても、これからの時代の働き方というものを考えていかねばと思い、副業制度を導入しました。

——副業解禁に至ったきっかけはあるんですか?

山田:東北の震災が一つの要因です。震災の復興活動に携わっていた時、自身の仕事と並行して現地での活動に取り組んでいる方の姿をたくさん目にしました。その方々の働き方、生き方が素晴らしいと感じて、社外での活動を推進するイメージが膨らんだんです。

——社外で活躍する方々のエネルギーを感じたことがきっかけだったんですね。一方で正能さんは、ご自身で立ち上げたハピキラFACTORYと大企業ソニーの両方に在籍していますよね。副業をしてみていかがですか?

正能:ハピキラFACTORYでは、なかなか世の中に気付いてもらえない「地方のもの」に別の何かを組み合わせることでもっと輝かせる、ということを行っているんですが、実はそれってソニーの仕事と似ているんですよ。ソニーには、まだ製品化されていない技術がたくさんあるので、それを発掘してきて別のものを組み合わせることで新しいビジネスを生み出しているんです。なので、それぞれの仕事が繋がっているように感じています。

株式会社ハピキラFACTORY 代表取締役/ソニー株式会社 新規事業担当 正能茉優

株式会社ハピキラFACTORY 代表取締役/ソニー株式会社 新規事業担当 正能茉優さん

1991年生まれ。慶應義塾大学在学中の2013年にハピキラFACTORYを創業し、大学卒業後は大手広告代理店に就職。その後ソニーへ転職し、現在もハピキラFACTORYの代表取締役と兼業している‏

——もともと、正能さんが副業という働き方を選択した理由は何だったのでしょうか?

正能:人生は、仕事や家族、友達、趣味などいろいろなもので構成されていますよね。バブル世代の方々は、仕事に120%の力を注いで120点の成果が出せたら人生も成功だといいますが、私たちミレニアル世代は少し違うんです。

ひとつひとつは70点でもいいから、人生全体でバランス良く楽しく生きていくことが120点、という考え方。私自身、仕事も頑張りたいけれど、家族や友達と過ごす時間は大切にしたいんです。限られた時間でたくさん稼ぐ必要がある中で、一時間あたりの自分の価値を最大化するにはどうしたらいいかと考えた時、選択肢となったのが「ファーストワン」「ナンバーワン」「オンリーワン」でした。

これだけ長い歴史がある中で何かの先駆者になるなんて難しいでしょうし、一つのことを一生懸命頑張るのは苦手。なので、私は「オンリーワン」になろうと思いました。当時は学生起業が流行っていたので、私と同じような女子大生社長はたくさんいたんです。これだけでは価値を最大化できないので、「〇〇なのにベンチャーの社長」というかけ算でオンリーワンな存在になろうと考えました。その「〇〇」に誰もが知っている大企業が入れば、「そんな働き方ができるの?」と思ってもらえるようになるかな、って。

山田:これからはもっと多くの方が当たり前に副業を選択できる時代になったらおもしろいですよね。

正能:そうですね、ビュッフェのように働き方や生き方を選べるようになったらいいと思うんです。ホテルのビュッフェとかでも、好きなものだけたくさん食べていたい人もいるだろうし、いろんなものを食べてみたい人もいるだろうし。でもお腹がいっぱいになってしまったらそれ以上食べられないから、バランスは考えなくちゃいけない。それくらいの気持ちで働き方についても考えられたらいいですよね。

副業とは「限りある時間をどう使うかに向き合う」こと

——副業を始めるメリットについて詳しく聞かせて頂けますか?

正能:副業と専業だと、仕事の選び方が大きく変わってくると思います。食べることに困らない仕事を持っていれば、5年後10年後の目標に対して「じゃあ今はこれをしよう」という想いでもう一つの仕事が選べる。私の場合、「かわいい仕事」「楽しい仕事」「大きい仕事」という軸を決めていて、このどれかに当てはまる仕事ならやってみようという気持ちだけで仕事を選んでいます。中長期的なキャリアも描きやすくなりますね。

ロート製薬株式会社 代表取締役会長兼CEO 山田邦雄

ロート製薬株式会社 代表取締役会長兼CEO 山田邦雄さん

1980年にロート製薬に入社。90年、慶應ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得。2009年6月より現職に就任し、現在も会社の事業を超えて新たな社会貢献の取り組みに力を入れている

山田:一つの会社で一つの仕事を続けていると、能力が専門化していきますよね。その道のプロだから、という理由で仕事を任せられるようになっていきます。ですが、人が持つ可能性というのはもっとたくさんあるはずだと思うんです。副業によってそれを活かせたら、幸せなことですよね。

正能:ただ、副業をしていて引っかかるのは、やっぱり時間の問題ですね。バランスを決めてやらないと上手くいかないと気付いてから、私は人生配分表を作るようになりました。人生で必要なことややってみたいことを書き出して、それぞれに対して自分の人生の何%をかけるかを決めるんです。一週間あたりでそれぞれに使える時間が決まれば、実際にカレンダーに割り当ててその通り生活してみる。すると「仕事に時間を使いすぎかも」「もっと家族との時間がほしいかも」という気付きがあるので、調整してPDCAを回していくうちに、自分の人生配分が決まっていくんですよ。

山田:最近になって長時間労働が問題視されるようになりましたが、長時間労働を前提とした会社は持続しないと思うのです。長い目で見たときに効率を上げる、ということに広い視野で取り組んでいく必要がありますよね。

——では逆に、副業にデメリットはないのでしょうか?

正能:そうですね……副業する人がもっと増えて問題が見える化してこないとわからないと思います。今はまだルールが整備されないんですよね。ルールがないので、誰もが副業できるかというと難しい状況なんです。

ただ私が副業をしてみて課題だと思ったのは、世代ごとの意識のすりあわせの難しさでしょうか。時間の使い方や働き方に対する感覚が世代ごとに違うので。一つの仕事を頑張ることが正義とされていた時代の方と私たちの意思の疎通が難しいな、と思います。

山田:とあるアンケートの結果、約7割の経営者が副業解禁に対してネガティブなのが現状です。理由としては、「本業がおろそかになるのでは」という懸念が多いのですが、それは従来の考え方だと思うんです。仲間と共に長時間かけて、煮詰まるまで仕事をしていた時代と比べたら、確かに密度は下がるかもしれません。ですが、新しい可能性が広がっていくことを考えたら、むしろメリットの方が大きいのではと思っています。

※この対談は動画でも視聴することができます。


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