大企業を辞め“アパレル業界の常識”と戦う男「服に関わる誰もが搾取されない。そんな未来をつくりたい」/10YC下田将太さん
工場と直接取引し、従来の中間マージンを省くことで「10年着続けたいと思える高品質な服」を手に届けやすい価格で提供している『10YC』。半年前に立ち上がった、今注目のアパレルブランドだ。
現在27歳の代表取締役・下田将太さんは、大手アパレル企業を退職し『10YC』を立ち上げた起業家。
だが下田さんは、一般的にイメージされるような起業家とはどことなく雰囲気が違う。「自分には行動力がない」と話す姿にも、起業に至った経緯にも、力みがまるでない。ほんの少しの行動によって変わった下田さんの仕事人生には、20代が自分らしく働くためのヒントが溢れている。
僕らは「0と1の間に0.5がある時代」に生きている
SNSによって人との距離感が変わり、簡単に情報が入るようになった今、起業する難易度はどんどん下がっている。お金の問題も、クラウドファンディングが普及したことで、ずっと解決しやすくなった。10YCも、クラウドファンディングでつくったTシャツの反響がよかったことで本格的にブランドの運営がスタートした。
「今は起業するための手段や、物を売るためのプラットフォーム、お金の調達まで、いろいろなハードルが低い時代です。いきなり会社を辞めるよりもリスクはかなり低くて、0と1の間に0.5があるような感覚。リスクを負わずに新しいことを始めやすくなりました。つまり、やりたいことがあればいくらでも行動できる時代だと思います。そういう環境って今後ますます整っていくのではないでしょうか」
そう語る下田さん自身、もともと「起業家」とは程遠い性格だったという。「僕はどこにでもいるような、普通の大学生だった」と語るように、王道の就職活動を経て、大手アパレル企業への入社を決めている。
各国から洋服が納品され、店舗で売上が上がる。その数字の大きさにやりがいを感じていた。そんな楽しさに疑問を持つきっかけになったのは、入社4年目の夏、友人からの一言だった。
「友人と3人で遊んでいたときに、1人から『この前買ったTシャツ、一回洗っただけでヨレヨレになっちゃった。お前の業界、どういう仕事してんだよ』と言われて。服が売れた後にどうなっているのか、本当に作らなければいけないものは何なのか。それまでは数字しか見ていなかったけど、初めて自分が扱っている商品について深く考えるようになりました」
その時の3人で「それなら、自分たちが着たいTシャツを自分たちで作ろう」と話しは盛り上がり、休日には旅行がてら全国を巡り、たくさんの職人に会う旅へ出かけるようになった。
日本の職人が作った、10年後も着続けたいと思えるTシャツ。しかもそれは、高級ブランドではなく自分たちで買える値段のものを作ってみたい。費用はクラウドファンディングで調達することにした。
「大事だと思い込んでいた」大企業のステータスを捨てて選んだ起業の道
遊びの延長で、大きな目標があったわけではない。それでも1年後にTシャツのサンプルができた時、「こうして職人にもユーザーにも喜ばれるブランドを、立ち上げるのもいいかもしれない」という考えが頭をよぎった。
「売上は絶対に追わなければいけないけれど、やっぱり何より商品の良さが大事。かといって、ブランド料や中間マージンがかかって価格が高過ぎてもダメだし、安くしすぎて作り手に還元できないのも嫌だった。
今のアパレル業界ではその塩梅が難しいんですよ。洋服を売る人が一番強くて、作る人の立場が弱い。大企業ではそのギャップをすぐに埋めきれないんじゃないかと悩みました」
会社員時代は「花形部署に所属することや、会社名などのステータスが大事だと思っていた」という下田さん。それでも自問自答を繰り返した末に、大手企業のポジションを手放すことを選んだ。
「特に誰かに相談したわけではありませんが、Twitterで堀江貴文さんやイケダハヤトさん、家入一真さんなどの発信を見ているうちに、自分が本当にやりたいことを探さなければいけないと思い始めました。それまでは会社の組織でどう生きていくかを考えていたけど、『どれだけ人に影響を与えられる仕事をするのか』が大事だという考え方に変わって。『あるべき姿』を追い求めてちょっとずつ昇進するのではなく、大げさだけど『自分のありたい姿』を追い求めた方が良いと思った。人生の豊かさを重視すべきときが来たなと感じたんです」
下田さんのキャリアを決めるきっかけとなったSNSは、起業家としての悩みも軽減してくれる存在だ。
「最初は売上もないし、会社員の時より収入は減った。だけど起業家の方たちの苦労話っていろいろなメディアが取り上げていますよね。だから『今成功している人も、僕と同じような苦しみがあったんだ』って、ある程度先が読めるんです。誰もが通る道なんだなぁと、面白がりながら仕事をすることができています」
「案外できるじゃん!」が分かったら、世界はどんどん広がっていく
『10YC』は、前職の同僚と高校の同級生と3人で立ち上げた。起業をする人は行動力があるというイメージが強いが、意外にも「フットワークは超重いですよ」と下田さんは笑う。
「Tシャツを作ろうって話が出て、最初に生地を見に和歌山へ行きました。これは自分の人生においてかなりイレギュラーな行動。僕はもともと動くよりも考える時間の方が長いタイプなので、何事にも腰が重いんですよ。でも、たまたま同僚が和歌山出身で、じゃあ旅行がてら案内してよと3人で盛り上がったことで、話が進んだんです」
大人になったら、人は変わらない。よく言われることだが、下田さんは「変わると思う」と語る。
「全ては“きっかけ”だと思うんですよ。それが僕の場合は友達だった。2人に『やらなくていいの?』と言われて、押し出されるように行動しました。それまでは人と関わるのも苦手だったし、ましてや直接アポなんて取ったこともない。でも最初に行った和歌山の人たちが快く迎えてくれたことで、それなら他の場所にも行けるかも、と動けるようになったんです。もし僕一人だったら、今も会社で働いていたと思います」
社会人になると、ルーティンの日々を過ごしてしまいがちだ。意識して行動を変えなければ、どんどんフットワークは重くなっていく。だからこそ動いてみて、「案外できるじゃん!」という成功体験を持つことは大きい。
「職人さんに会いにいくことも、会社をつくることも、自分の中で勝手にハードルが上がっていただけでした。一歩動いてみると『あれ、案外跨げる高さの壁じゃん』なんて思えるんです。思っている以上にどうにかなる、というのは体験してみないと分かりません」
昔よりもチャレンジのハードルは低い。20代は臆せずチャンスを掴みに行け
「ゆとり世代」と称される20代だが、インターネットと、スマートフォンをはじめとしたさまざまなデバイスに幼少期から触れてきたことは大きな強み。「新しいことを起こせる世代」だと下田さんは話す。
「『若い子はスマホばっかりいじって』っていう人たちもいるけど、僕らはそれが当然の世代です。そういう意味でやれることは幅広いし、新しいことへの学習のスピードも早い。スマホを通じて、知らない人に相談することもできるし、自分の考えを整理することもできる。自分が感じている違和感の正体や解決策が分かる可能性も高いですよね」
そうはいっても、もしうまくいかなかったら――。そんな不安が頭をよぎるが、それでも「路頭に迷うことはないと思う」という。
「一度辞めると大企業には戻れないって言われていたけど、今は逆に自分で何かをやってみるという起業の経験がプラスになる時代。失敗したとしても新しいことに挑戦したことをポジティブに考える企業は沢山ありますし、今なら起業する行動力がある人の方が面白いと思ってもらえるような気がします。特に20代は若いっていうだけで価値がある。身軽なうちにいろいろなチャレンジができるって大きいですよね。そういう意味でも僕らはチャンスに溢れているんだと思います」
最後に、下田さんが描く理想の「未来」について聞いてみた。
「長く着続けたいと思ってもらえる洋服を提供するのはもちろん、工場に人材育成や次の技術開発への投資などができるくらいの工賃 を支払うことで持続可能なモノづくりの仕組みを作っていきたい。そのためには僕らがお客さまに認められて売上を上げて、生産者の方々に還元していかなければいけないので、事業をもっと拡大していきたいですね。ECサイトやSNS等があるので、昔よりもアパレル販売のハードルも低いはず。作る・売る・買う人の3方がハッピーなサイクルをつくっていきたいです」
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取材・文/天野夏海 撮影/大室倫子(編集部)
10YCの商品に汚れがついてしまった場合などに染め直し・染め替えサービス「COLOR-REFORM」もスタートしました!
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