Forbesが選んだ起業家・BASE鶴岡裕太が語る等身大のキャリア論「怒って何かが良くなるケースなんてほぼない」
「20代をいかに過ごすかで、その後の人生が決まる」というけれど、じゃあその20代をどう過ごせばいいのか。その答えは誰も教えてくれない。いったいどう進んでいけばいいのか、目印となるものがほしくなる。
そこで、今回はこの人に話を聞いてみた。BASE株式会社代表取締役CEOの鶴岡裕太さん。2012年、誰でも簡単にネットショップが作成できる『BASE』をリリース。わずか5年で約50万店舗が加盟する巨大プラットフォームに拡大させた張本人だ。22歳で創業し、20代をBASEの成長と共に過ごした鶴岡さんが語る人生観と見据える未来像とは。
お金がなくても承認欲求が満たせる時代――僕たちは何のために働くのだろう?
鶴岡さんは1989年生まれ。ストレートで四大を卒業した場合、2012年就職組が同期となる。新入社員の「働くことの意識」調査(※出典:公益財団法人日本生産性本部および一般社団法人日本経済青年協議会)によると、2000年度の「働く目的」の第1位は「経済的に豊かな生活を送りたい」で29.6%。「社会のために役に立ちたい」は5.9%にとどまった。一方、鶴岡さんと同期にあたる2012年度では、「社会のために役に立ちたい」が約15%まで数字を伸ばしているのに対し、「経済的に豊かな生活を送りたい」は25%を切った。震災直後ということもあり、日本人の働く目的が大きく変わる過渡期の世代だ。
「価値観は人それぞれなので、必ずしも僕たちの世代だからどうというわけではないと思います。ただ、昔に比べて手軽に承認欲求を満たしやすくなっているのは確か。わざわざ高い車を買わなくても、ちょっとオシャレなレストランに行った写真をSNSに上げれば、世界中の人から『いいね』がもらえる。無理してお金を稼がなくても、いろいろな方法で自分の欲求を満たせるようになったわけです。そうすると、おのずと仕事に求めるものも変わってくるのかもしれませんね」
ちなみに上述の調査の「働く目的」で現在1位を記録しているのは「楽しい生活をしたい」。2000年度は26.1%だった数字は年々上昇カーブを描き、最新の2017年度版では42.6%と過去最高を更新している。多くの人が楽しい人生を望んでいるが、その全容は漠然としていて、具体的に何をどうしていけばいいのか、答えを見つけることは簡単ではない。だが、『BASE』の経営者として、約50万ものショップオーナーの生き方を見つめながら、鶴岡さんはこんなことを思っている。
「楽しさなんて人それぞれでいいと思うんですよ。『BASE』の中にも、毎月何千万と稼ぎたくて、世界中を飛び回っている人もいれば、月商は10万でいいから自分の好きな工芸作品だけを作り続けたいという人もいる。働きがいも、それに付随する対価も、50万人いれば50万通りのパターンがある。価値観や人生の楽しさなんて、誰かに決められるものでも比べるものでもない。だから気長に探せばいいと思います」
同じ価値観の人と出会うことで、僕たちはもっと人生を楽しめる
大学在学中に、現・株式会社CAMPFIREでインターン。そこで起業家の家入一真氏と出会い、一心にサービスをつくり続ける中で生まれたのが『BASE』だった。起業家を志していたわけでもないし、名声を求めていたわけでもない。人が喜ぶサービスをつくること。それが、鶴岡さんの20代の出発点だった。
「自分のつくったサービスや機能をユーザーさんが使ってくれるのが嬉しくて。ごく普通の大学生だった僕が初めて世の中に貢献できたと思えたのが、プロダクトをつくることだったんです。皆さんに何も起業を勧めているわけではないんですが、単純に楽しくて。学生時代から今まで、ずっとやりたいことができるというのは幸せでした」
そんな鶴岡さんに楽しく生きる上でのヒントをひとつ挙げてもらうと、「同じ価値観を持った人と出会うこと」だという。
「『BASE』のオーナーさんの中にもいると思うんです、10年前、まだ『BASE』がない頃だったら、ここまで続けられなかったという人が。なぜかと言うと、認めてくれる人の総量が絶対的に少なかったから」
確かに、どんなに納得のいくものをつくっても、半径1kmの生活圏ではその価値を分かってくれる人の数は限られている。
「でも『BASE』ができたことで、同じ価値観を持った人と世界中からマッチングできるようになった。自分のつくったものを求めてくれる人がいたから、皆さん自信が持てたし続けられたと思うんです。それは、『BASE』だけに限らなくて。インターネットやSNSが発達したことで、僕たちは同じ価値観や趣味嗜好を持った人とたくさん出会えるようになった。まずは同じ価値観の人を探してみるということは、楽しく生きる上で大切なことかもしれませんね」
事実、鶴岡さんもそうだった。創業初期は3LDKの部屋に12人で生活。月の生活費はたったの3万円だった。人からすれば、辛い苦労話。だが鶴岡さんは違う。「毎日が楽しかった」と顔を綻ばせる。
「なぜなら、同じ価値観を持った仲間がそばにいたから。インターネットが大好きなやつらばかりで、毎晩夜中までコードを書いていた。当時の僕にとってプログラミングは遊びと同じ感覚。それを気の合う仲間と四六時中できるなんて最高でした。そういう生活は1~2年続きましたが、人から見ると苦難の時期を僕がのらりくらりとやってこられたのは、楽しかったからの一言に尽きると思います」
「自分の人生をいいな、と思えればそれでいい」
鶴岡さんは、家入氏のほか、サイバーエージェントの藤田晋氏や、メルカリの山田進太郎氏など稀代の起業家たちと親交が厚い。自らを「決して優秀な技術者でも経営者でもない」と語りながら、「同じ価値観の人」に恵まれ、充実した人脈を引き寄せるのは、鶴岡さんに何があるからだろうか。
「基本的に平和主義というのが大きいと思います。無駄な争いをしないというか、自分でもつまらない人間だと思うんですけど(笑)、物事をメリット/デメリットで判断するタイプ。僕からすると、自分の意見を主張してメリットがあることって、そんなにない気がするんですよ。どんなに譲れないアジェンダでも、最初から意見を押し通すメリットはなくて。ある程度相手の意見を組み込んだ上で、核となる部分だけ自分の意見を取り入れてもらうくらいの方がちょうどいい。人の関係性なんてどこでまた縁があるか分からないんだから、基本的には何でも友好的に進めた方が平和だし、心も安定しますよね」
ストレスレスが人生の信条。日頃から怒ることもほぼないと言う。
「怒るという感情は、それこそ無駄。怒って何かが良くなるケースなんてほとんど見たことないですから。何でも平和が一番。ちゃんとお互い納得するところで話を落ち着かせたいし、出来る限り良い関係を皆と保ちたいですよね」
鶴岡さんは、2017年、Forbes JAPANの日本の起業家BEST9位に選出された。いわゆる“時代の寵児”の一人だが、誰かを蹴落とそうという敵意はこれっぽっちもない。インターネットで天下を獲るという野心や、20代のトップランナーという自尊心も、ほとんど感じられない。
「生き方に上も下もないし、人の先を行っているとか遅れをとっているとかも考えたことがない。『BASE』でいろいろなショップオーナーさんを見ていますが、どの人生も皆いいなあと思います。その中で、僕は僕の人生をいいなと思えたら、それで十分。僕にとっての幸せは、これからもユーザーさんを幸せにするプロダクトを作ること。そしてそれを追求していくことだと思っています」
このフラットさが、技術者としても経営者としても「特に強みがない」と話す鶴岡さんの強みなのかもしれない。マイペースに、「自分がいいと思う人生」を生きていく。それが鶴岡さんの等身大の「横顔」だ。
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取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
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