トレンド Vol.559

MBAに英会話……意識高い系男子が陥りやすい「自己投資貧乏」という病【連載:マネーの失敗学】

プロがこっそり教えるお金の知恵
マネーの失敗学
将来のライフイベントを見据えると、今からお金の備えは必須――でも、すぐに給料が増えるわけじゃないし、今の仕事だっていつまで続くか分からない。そう考えると、20’s世代はお金で失敗しているヒマなんてない! そこで、マネーコンサルタントの頼藤太希さんが、若手がやりがちな「お金にまつわるしくじり」とその教訓を伝授。新時代を賢く生きるお金の知恵を伝えます!
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マネーコンサルタント/(株)Money&You代表取締役 頼藤 太希さん慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けお金の総合相談サイト「FP Cafe」、女性向けマネーメディア「Mocha」などを運営。マネーに関するコラム執筆、書籍の執筆・監修、講演など日本人のマネーリテラシー向上に努めている。著書は「つみたてNISAでお金は勝手に増えていく!」(スタンダーズ)、「やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方」(きんざい)など多数。日本証券アナリスト協会検定会員。ファイナンシャルプランナー(AFP)。

今回、マネーコンサルタント・頼藤太希さんのもとへ相談にやってきたのは、29歳独身、保険会社に勤務のC男さん。

29歳会社員、「貯金ができないから、投資でお金を増やしたい」

【C男さんの情報】
・29歳独身
・職業:保険会社
・年収:500万円
・貯蓄:普通預金に70万円(掛け捨ての生命保険に加入)、投資信託10万円(月1万円ずつ積立中)
・地方出身、都内で1人暮らし

オシャレな髪型で目をギラギラさせて登場したC男さんは、挨拶が済むと同時に、まくしたてるように話し始めました。相談の内容は「お金がなかなか貯まらないので、投資をしてお金を増やしていきたい」とのこと。
早速お話を伺うことにしました。

スキルアップや旅行などの“自分磨き”に余念なし。でもそれって本当に必要……?

保険会社に勤めているC男さんの毎月の手取りは、25万円程度。都内で1人暮らしをしているそうですが、現在の勤め先からは家賃補助があるので、住居費はほとんどかからないとのこと。それでも家計に余裕はなく、貯金ができていない状況でした。

総務省「家計調査(2017年)」のデータによれば、大都市の1世帯あたりの支出平均額は住居費を除くと15万円弱。C男さんは家賃の負担があまりないのであれば、毎月10万円程度は貯蓄できる計算です。そこで支出を見せてもらったところ、大きな割合を占めていたのは「自己投資」の費目でした。

向上心が高いC男さんは、自分の成長のためのお金は惜しまないとのこと。自己投資の内容を聞いてみると、その内容の多さに驚かされました。

<C男さんの自己投資内訳>
・英語力を高めるために英会話スクールに通う
・経営戦略・マーケティング・財務・会計・IT・法務などと幅広い知識やスキルを持つために中小企業診断士の資格講座、MBAの単科コースに通う
・知見を広めるために海外旅行は欠かさない
・人脈を広げるために、異業種交流会やセミナーにも積極的に参加

これらの自己投資は、昇給・昇格、転職などでの収入アップを見込んでのことも当然あるでしょう。しかし金額はそれぞれ数十万円かかる項目が多く、C男さんの貯蓄が少ない原因がわかりました。

「意識が高い」のはいいけれど、「後先考えず」「やりっぱなし」はNG

意識高い

仕事をする上で、「PDCA」という考え方は欠かせません。人材、時間、お金などのリソースが限られている中で、Plan(計画・目標)、Do(実行)、Check(反省・検証)、Action(改善)を繰り返し、効率よく業務を遂行していく必要があるからです。

実は、自己投資をする時にも、同じ考え方が有効です。PDCAの考え方を取り入れ、自己投資を開始する前に、かける期間や金額、目標を立てます(Plan)。実行後(Do)、振り返りを必ず行い(Check)、次に活かすこと(Action)が大切です。

今回のC男さんは、期間、金額、目標を明確に定めずに、いろいろな分野に手を出していたこともあり、中途半端な状態のものが多かったようです。

「英会話スクールは忙しい時には通えず、期間を空けながら通っている」、「中小企業診断士の資格講座は受けたものの、受験はせず資格取得には至っていない」、「異業種交流会やセミナーの参加で知り合いは増えたが、ただそれだけの状態」などです。

目的が似ている、中小企業診断士の資格講座とMBA単科コースの両方に通っているのも、どっちつかずになっている原因でしょう。

こんな事態にならないためには、例えば英会話スクールの場合、

・6カ月間、定期的(例えば毎週)に通う
・費用は50万円
・1年後にTOEIC800点取ることを目標にする
・平日夜のコースなら、上司や先輩に予め伝えて帰りやすいようにしておく
・土日への振替制度を検討する

というように、自己投資の期間、金額、目的、リスク対策まで、細かく洗い出してみることが大切です。

しくじりに学ぶ:自己「投資」は、リターンを考えて行動すること

自己投資とは、「投資」という名が付いている通り、リターンを考えるのが必須。また、リターンは得られるけど時間がかかりすぎるというのもNGですね。投資とは、かける時間と金額に対する、費用対効果を考えて行う必要があるのです。

自己投資で失敗してしまう人は、C男さんのように、「後先考えずに行っている」ために起こるケースが多いです。将来必要になるかも、と資格取得や習い事をしている方は一度見直しを行うと良いでしょう。それは無駄なお金と時間の可能性もあります。

とはいえ私は、決して自己投資をするな、とは思いません。知識、スキル、人間関係、評判、健康などお金に換算できない「見えない資産」を増やすことが、人生100年時代を生き抜くためには必要ですから。ただし、自己投資がいくら大切と言っても、毎月赤字家計になったり、家計が破綻してしまったりしては元も子もありませんね。

毎月お金を堅実に貯めていくために、自己投資の予算を決めておくことも有効です。毎月の給与やボーナスからはいくらまで、と決めても良いでしょう。働き方や家族構成によって、自己投資の割合は変わってくると思いますが、手取りの1~2割程度までを目安にすると、家計に負担なく済みます。

「先取り貯蓄」「先取り自動積立投資」で堅実に貯蓄する

ところで、C男さんのご相談は、「投資をしてお金を増やしていきたい」でした。今回は、そもそもお金が貯まらない原因があったので「自己投資」に言及していきましたが、お金を貯めるにも投資をするにも、【先取りで、強制的に、自動的にできる仕組み】を活用することが大事です。

余ったら貯蓄・投資ではなく、収入が入ったらすぐに貯蓄分・投資分を別口座に振り分けて、予算を把握しておきましょう。財形制度や、自動積立て、つみたてNISA、iDeCoなど、少額で毎月一定額ずつ積み立てができる方法はたくさんありますから、検討してみるといいですね。次回以降では、「積み立てでできる投資」についての説明も、お話させてもらいます。

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頼藤さんの新著『投資信託 勝ちたいならこの7本! なぜ“儲からない投資”をするのですか? 』(河出書房新社)
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