キャリア Vol.576

職場と“ちょうど良くつながる”アルムナイが話題! 企業と個人の新しい関係がキャリアにもたらすもの

SNSで古い友人との付き合いが再開したり、仕事の関係に発展したりと、過去との繋がりから思わぬラッキーを経験したことはないだろうか。キャリアも同様で、過去に勤めた企業との繋がりを持つことでさまざまなメリットがあると、退職者やOG、OBを意味する「アルムナイ」というワードが注目を集めている。

そこで、アルムナイをテーマに事業を展開している、株式会社ハッカズークの代表取締役CEO・鈴木仁志さんを訪ねた。アルムナイとして過去の職場と関係を保つことがキャリアに与える効果とは?

転職失敗談

代表取締役CEO 鈴木仁志さん

カナダのマニトバ州立大学経営学部卒業後帰国し、アルパイン株式会社を経て、T&Gグループで法人向け営業部長・グアム現地法人のゼネラルマネージャーを歴任。帰国後は、人事・採用コンサルティング・アウトソーシング大手のレジェンダに入社。2017年、ハッカズーク・グループを設立し、アルムナイとの関係を築くプラットフォーム『Official-Alumni.com』(HR Tech GP2018 グランプリ獲得)やアルムナイ特化型メディア『アルムナビ』を運営。自身がアルムナイとなったレジェンダにおいてもフェローとなる

ベストな働き方を叶える鍵は“過去の職場との繋がり” にある

今、アルムナイが注目される背景には、会社と個人の関係の変化がある。これまでは1社に勤め続けることが当たり前で、「退職者は裏切り者扱いされることもあった」と鈴木さん。だが、終身雇用制が崩壊し、「人生100年時代」とも言われる今、転職はますます一般的になり、個人の人生はこれまで以上に多種多様になっている。

「社会が変化するスピードが速く何が起こるか予測できないような状況では、過去に勤めていた企業とゆるく関係を持ち続けることが“キャリアのセーフティネット”になります。前職が今の会社の取引先になったり、転職時に再就職先になったりと、思わぬところで以前の職場と繋がる可能性があるんです。ある程度お互いの理解がある分、ゼロから仕事を探して慣れるよりもずっとスムーズに希望の働き方を実現できるというメリットもあります」

また、今いる職場に不満がある時に、アルムナイが古巣との関係を保つことは新たな対処法にもなる。

代表取締役CEO 鈴木仁志さん

「サービスや業務内容は好きだけど、人間関係や会社のカルチャーが合わず会社を辞める人は少なくありません。そんな時、これまでは辞めるか、自分が変わるか、会社を変えるか、我慢するかの4択でしたが、“アルムナイとして、前職の外部パートナーとして仕事をする”という新しい選択肢が生まれています。外部パートナーであれば、会社と適度に距離を取って、好きなサービスや業務にだけ携わることができます。繋がりがゆるいから依存度が低く、対等な関係を築きやすいのも大きなメリット。上司に忖度したり自分を押し殺したりせずに済むんです」

SNSによって人と人が繋がり、近況を把握しやすくなった今、そもそも過去の人間関係を完全に断ち切るのは難しい。「嫌なら辞めちゃえ」と、転職でリセットができなくなったのなら、関係性を保つ方向に舵を切った方が賢明と言えそうだ。では、アルムナイとして、前職と“良い繋がり”を持つためにはどうすればいいのだろう。在籍中、退職時、退職後の3つのフェーズに分けて見ていこう。

【在籍中にすべきこと】
「一緒に仕事がしたい」と思ってもらえる“ソフトスキル”を磨く

当たり前だが、仕事相手から長く付き合っていきたい人だと思ってもらえなければ、アルムナイとして長期的に関係性を築くことは難しい。そのためには業務で役立つハードスキルも大切だが、今あるサービスは10年後にはなくなっているかもしれないし、今後どんなスキルが必要とされるかも分からない。そんな中で存在感を増すのが、ソフトスキルの存在だ。

コミュニケーション能力や人間関係を形成する力、相手の気持ちに寄り添う共感力といったソフトスキルは、変化が激しい世の中でも普遍のもの。AIやロボットで代替することもできません。この先の世の中で、重要性は増していくはずです」

重視されるのは手に職と考えがちだが、ソフトスキルを磨くことで不変の力が手に入る。磨くべきソフトスキルを見極めるには、「社内外で自分と同じ仕事をしている人たちを思い浮かべてみて」と鈴木さん。

「その人たちの中に自分を置いたとき、ハードスキル以外のどんなところで差別化ができそうですか? 『誰よりも丁寧な仕事ができる』『相手の気持ちを察することができる』など、何かしら自分の強みが見えてくると思います。日々の仕事の中で『どうしたら自分と一緒に仕事がしたいと思ってもらえるのか』を意識してみましょう

【退職時にすべきこと】
冷静に、正直に、自分の気持ちを見つめ直す

「お互い縁を切るから辞め方なんて関係ない」という姿勢では、退職後に良い関係は築けない。良い辞め方をする上で禁物なのが、嘘をつくことだ。

「例えば競合に転職することを責められるのが嫌で嘘をついてしまう人もいますが、これは絶対に避けた方がいい。楽なのはその一瞬だけです。すぐにバレますし、『頑張れ!』って送り出してくれた人を裏切ることになる。ことあるごとに『あいつが競合に情報を流している』なんて疑われることにもなりかねません」

大事なのは、円満退職しようとする姿勢。競合先で秘密情報は言わないと約束するなど、真摯に話をしてみよう。結果的に喧嘩別れになってしまっても、「時間を置いて再び関係性を復活できるチャンスはある」と鈴木さんは続ける。

「退職時はつい感情的になってしまいがちですが、自分も相手も嫌な気持ちのまま辞めてしまうと、繋がりを保つのは難しくなります。冷静になるコツは、在籍中の全てを振り返ること。人の感情は直近の出来事に左右されやすいもので、例えば、最終日にエレベーターまで見送ってくれなかったという理由で、それまで好きだった会社を嫌いになってしまう人もいるんです。でも、一つの出来事だけでそれまでの全てを否定してしまうのはあまりにもったいないと思います。過去全体を振り返り、冷静に自分の本当の気持ちを見つめ直せるといいですよね」

【退職後にすべきこと】
アルムナイ同士で横のつながりを持つ

前職が今の営業先になる、フリーランスになって前職から案件をもらうといったケース以外、退職直後に以前の会社と関わりを持つことはほとんどない。そんな中で過去の職場と関係を保つ簡単な方法が、アルムナイ同士で繋がることだ。

「アルムナイ経由で会社の情報が入ってくるので、近況が掴みやすいと思います。何より集まることでインパクトが大きくなるので、会社もアルムナイを無視できなくなるはずです」

退職理由には、何かしらネガティブな要因が絡むもの。退職者が集まるとつい会社の愚痴や悪口が出てしまいがちだが、こういった話題は避けた方が無難だ。

「別れた恋人をSNSで晒して悪口ばかりを書いている人がいたら、そんな人とはあまり付き合いたくないですよね。それと同じで、文句を言い続けている人と仕事をしたいと思う人はいません。過去の職場の否定は自分の価値を下げることに直結すると肝に銘じておきましょう」

人との繋がりを中心にキャリアを築いていくこれからの時代、“相手のことを想像する力”は大きな強みになる

ソフトスキルを磨く、嘘をつかない、安易に会社の愚痴を言わない……。アルムナイとして過去の会社と良い関係を保つためにすべきことは、友達といい関係性を築いていくことと大して変わらない。会社と関係を保つというと難しく感じるが、会社が社員の生涯に責任を持てなくなり、両者の関係はフラットになりつつある。そうなった今、会社と信頼関係を築くために心掛けるべきことは実にシンプルだ。

「単純に、相手のことを考えて行動すればいいんです。人との繋がりを中心にキャリアを築いていくこれからの時代、相手の気持ちや状況を想像する力が強いことはものすごく大きな強みですよね」

特別な業務上のスキルがなくても、”長く付き合っていきたい人”にはなれる。友達や恋人、家族と心地良い関係をつくるように、会社との関係を築いていく。そんな姿勢で日々の仕事に向き合うことが、これから先ずっと働いていくための土台を作るはずだ。

※この記事は姉妹媒体『womantype』より一部編集して掲載しています。元記事はこちら

取材・文/天野夏海

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