キャリア Vol.583

愛を伝えると仕事が好転する!? 日本愛妻家協会に聞く、妻を大切にする意外な効果

イクメン、イクボス、カジダン。育児や家事に取り組む男性への名称は多々あれど、肝心なところが抜けてはいないだろうか。そう、「妻」だ。家庭を大切にしたいのであれば、パートナーである妻の存在は見過ごせない。

「妻というもっとも身近な赤の他人を大切にする人が増えると、世界はもう少し豊かで平和になるかもしれない」

こんなコンセプトを掲げ、「愛妻家として生きる」ことを提案しているのが日本愛妻家協会だ。妻を亡くしたヤマトタケルノミコトが「あぁ我が妻恋し」と嘆いたことが地名の由来である群馬県吾妻郡嬬恋村を愛妻家の聖地と定め、1月31日を愛妻の日と制定。毎年9月にはキャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ『キャベチュー』を行っている。

「家族の最小単位である夫婦の関係が良くなれば、世の中はもっと良くなるんじゃないか。そんな想いで、絶滅危惧種になりかねない日本の愛妻家を保護・育成すること、そして愛妻家として生きる楽しさを伝えることを目的に、およそ15年前に発足しました」

こう話すのは、同協会の主任調査員、小菅隆太さん。「20代の愛妻家マインドが上がっている」という調査レポート(株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント調べ)もあるように、15年前と比べると若手の間で妻を大切にすることへの意識は高まりつつある。とはいえ、愛妻家という言葉に気恥ずかしさを感じる人もまだまだいそうだ。

なんとなく家庭内が円満になりそうな気はするが、「妻を大切にする、たったそれだけで人生は180度変化する」と小菅さんは熱弁を振るう。仕事や人間関係にも好影響があるという、その効果とは……?

小菅 隆太さん

issue+design 小菅 隆太さん

1998年大学卒業後、自動車ディーラーを経て、2000年にディー・エヌ・エーに入社。その後、人材派遣業などを経て、10年独立。issue+designの広報のほか、日本愛妻家協会主任調査員、群馬県嬬恋村観光大使といったさまざまな顔を自在に使い分け活躍中

愛妻家の効果1. コミュニケーションが磨かれ、仕事がうまくいく

仕事はいろいろな人とのコミュニケーションで成り立っている。だからこそ、最小単位の夫婦の関係を良くすることは、仕事面を好転させると小菅さん。

「この活動に参加し始めた当時、僕の夫婦関係は最悪でした。仕事がうまくいかないせいだと思って転職もしましたが、『忙しい』『疲れている』を言い訳に、家庭の揉め事に目を伏せているだけだったんですね。お互いの気持ちを伝えないまま、夫婦の距離はどんどん離れていきました」

離婚するギリギリのところまで話し合いを重ねたことで、お互いに別れたいわけではないことが分かった。以来、夫婦の仲はV 字回復。この時の体験から、「家庭内を変えなければ仕事も好転しない」と気付いたという。

「変えるべきは職場ではなく、自分のマインドセットです。『内憂外患』という四字熟語がありますが、『内』を家庭、『外』を社会と捉えたとき、妻に思いやりの気持ちが持てると、“内優外感”になります。妻という最も身近な他人を大切にする訓練を積むことで、同僚や仕事相手などの“本当の意味での他人”と円滑にコミュニケーションが取れるようになる。周囲に感謝できるようになるし、相手の事情や気持ちへの想像力が身につきます。夫婦関係を通じて社会人として基本で、普遍的なスキルを養うことができるんです」

愛妻家の効果2. “素直スイッチ”をコントロールすることで、自分のキャリアが見えてくる

日常的に“I love you.”をささやき合う欧米各国と比べ、日常的にパートナーに愛を伝えるだなんて気恥ずかしい気がしてしまう。だが、「舞台装置を用意すれば日本の男性も世界に恥じない愛を叫べる」と小菅さん。昨年に嬬恋村で行われたイベント、キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ『キャベチュー』では、およそ30人が妻への愛を叫んだ。

「イベントを通していろいろな夫婦を見ていて思うのですが、感謝したり謝ったり、自分の想いや妻への愛を素直に伝えられていないんです。これは声を大にして言いたいのですが、生活を共にしているから通じ合っているだろうという安心感から、誤解も増えるんですね。表情や雰囲気から勝手に慮って、徐々にズレてしまう。夫婦になっていく過程で『言わなくても分かるだろう』となってしまうけれど、むしろ付き合っていた時代よりもコミュニケーションを意識しなければ、分かり合うのは難しいんです」

イベントはあくまで一過性のもの。だが、愛を叫ぶまでのプロセスにこそ、意味がある。

「想いを素直に伝えられることは、良い人間関係を築く上で重要なポイントです。自分の気持ちに向き合い、素直に表現する経験を重ねていくと、徐々に“素直スイッチ”のオン・オフがコントロールできるようになっていきます。愛妻家になるための5大原則『テミル原則』の一つは、『捨ててみる ミエ、テレ、タテマエ、セケンテー』。これらを脱ぎ捨てることが、良いことも悪いことも共有できる夫婦関係を築くはずです。また、見栄、照れ、建前、世間体を取っ払えば、自分の気持ちや本当にやりたいことが見えてくるもの。仕事やキャリアで行き詰まっている時のブレイクスルーポイントにもなります」

愛妻家の効果3. 人生の幸福度が確実に上がる

世の中で、結婚はしばしばアンハッピーなものとして語られる。「結婚は人生の墓場」と言われ、「愚妻」「恐妻」なんて言葉もある。検索窓で夫、スペースと入力すれば、ネガティブなセカンドワードのオンパレードだ。

「本当は妻のことが好きで夫婦関係もいいのに、言えずにいる人も少なくないと思うんです。例えば恐妻家って、裏を返せば妻といいコミュニケーションが取れているってことだと思うんですよね。『うちの妻、怖くてさ』と言っている男のうれしそうな顔ったらないじゃないですか(笑)」

小菅 隆太さん

周りからの視線が気になって、人前でおおっぴらに妻を褒めるのは気恥ずかしい。だが、そこを乗り越えられれば「人生は180度変わる」と小菅さん。

「例えば、クライアントとタクシーに乗っている時に、妻からの電話に出て、最後に『愛してるよ』と言って電話を切る。その後の沈黙に耐え、周りの乾いた笑い声を喜びに変えられるようになったら、もう無敵ですよ(笑)。『のろけてんじゃねーよ』と言っている人にも、どこか幸福感が伝播しているものですし、自分の人生の幸福度は確実に上がります

愛妻家の効果4. 娘から嫌われない

「お父さんのパンツと一緒に洗濯しないで!」「キモいから話かけないでよ」。思春期の娘の父親嫌い。20’sにとってはまだ遠い先の話だが、娘を持つ父としては不安なもの。娘に嫌われたくないというのは父親の切実な願いだが、なんと妻を大切にすることで回避できるという。

娘から嫌われない一番の方法は、妻を大切にすることなんじゃないかと思っています。妻と子どもの関係性は強固ですから、妻が夫に対して嫌悪感を抱いていると、子どもにもそれが伝わってしまう。だからこそ妻と良好な関係性を築くことが、『お父さん嫌い』を回避することにつながるんだと思います。僕には中学2年生と小学5年生の娘がいますが、一緒に出かけたり、父の日や誕生日にプレゼントをもらったり、ハグしたり、いまだに仲良しですよ」

“自称・愛妻家”は注意! 愛妻家の称号は妻に認められて初めて得られる

愛妻家の効果について聞いていくと、妻とのコミュニケーションをしっかり取り、愛や感謝の気持ちを素直に伝えることがどうやら基本となるらしい。「妻を大事にする=家事をする」と思ってしまいがちだが、「それは違う」と小菅さん。

「前提として、男性も女性も社会に出て働こうという世の中になっている以上、お互いが家事や育児をすることが当たり前に求められています。つまり、夫も妻も家事や育児をやるのは当然だということ。目を向けるべきはバランスです。きちんと話し合ってお互いが納得しているのであれば、極端な話、夫が家事をほとんどしなくたってその夫婦にとっては最適な形かもしれません。逆にどんなに夫が家事や育児を頑張っていたって、妻が納得していなければ良いバランスとは言えないと思います」

小菅 隆太さん

イクメンやカジダンと言われる男に対し、そのパートナーはどこか腑に落ちない顔をしている。そんな場面の背景にあるのは、お互いの認識の不一致だ。だからこそ日本愛妻家協会では“自称・愛妻家”に注意を促している。

「愛妻家はいわば認定制で、妻に『うちの夫は愛妻家だ』と言ってもらって初めて得られる称号です。なので、実は僕は愛妻家ではないんです。まだまだ修行の身。赤の他人同士ですからすれ違いもあるでしょうし、意見の食い違いもありますが、死ぬまでにどうにか妻から愛妻家だと言ってもらえるように頑張りたいと思っています」

思いやりを持つ、素直になる、話し合う、感謝や気持ちを伝える……。愛妻家になるために大切なことは、夫婦関係に限らず、全ての人間関係に通じる基本的な原則だ。これからビジネスの場の中心で活躍する20’sにそんなマインドを持った愛妻家が増えれば、未来の世界は今より少し、豊かで平和になるのかもしれない。


今年もキャベチュー、やります。

2018年9月9日(日)「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ(キャベチュー)」開催します!詳しくは公式HPまで!

取材・文・撮影/天野夏海


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