新宿歌舞伎町『人間レストラン』は看板メニューがないのになぜ人が集まるのか。オーナー・手塚マキに話を聞いた
新宿歌舞伎町さくら通り。そこには、日夜ロボットショーが繰り広げられる『ロボットレストラン』に訪れる人で賑わっている。
その向かい、看板のない雑居ビルの4階に、2018年7月『人間レストラン』なる飲食店がオープンした。
オーナーは、歌舞伎町でホストクラブや飲食店などを経営する手塚マキさん。19歳から歌舞伎町のホストクラブで働き始め、26歳で独立。現在はホストクラブ、バーなど10数軒を構える『Smappa! Group』の会長を務めている。
20年以上、歌舞伎町に身を置き、さまざまな人間模様を目にしてきた手塚さん。あえてこの場所に『人間レストラン』をオープンした理由を聞いたら、ロボットに代替されない“人間力”の本質が見えた。
店の魅力は「人」だ。ロボットへのアンチテーゼとしてつくられた『人間レストラン』とは?
本日はどうぞよろしくお願いします! 『人間レストラン』ってそもそも、どういうお店なんでしょうか。
「ロボットがマジョリティになった近未来において、人間が人間のためにつくる溜まり場」というコンセプトの店です。と言っても、何か変わったことをするわけでもなくて、普通のバーですよ。
たしかに、入口は少し入りにくい雰囲気ですが、入ってみると落ち着いた雰囲気で居心地がいいですね。どんな方が来るのかは気になります。
私は他にも歌舞伎町で飲食店をいくつか運営しているんですが、今はそこの常連さんがほとんどですね。50人ほどいるバー部のスタッフがグループ店舗の中で日によっていろんなお店で勤務していて、グループの顧客の方々が回遊するんですよ。
今日はあのスタッフさんがいるからここの店に行こう、という感じで来る人が多いんですね。
そうですね。その日の気分によってゴールデン街の雑多な感じがいいとか、カラオケがしたいとか……使用用途によって使い分けていると思います。人間レストランの「人間が人間のためにつくる溜まり場」というコンセプトは、基本はどの店にも共通していることなんです。
僕も最初のうちは、どこのお店にも「目玉商品をつくろう」とか試行錯誤していたんですよ。でも、10年かかってできた看板メニューは、歌舞伎町ブックセンターという1店舗で生まれたハンバーガーくらいで、特にこれといったものはない店ばかりです。
それは……言って大丈夫なやつですか?
はい、それでうちは10年以上もやらせてもらってますから。商品がないのに何で成り立ってきたかというと、結局はそこにいる「人」なんですよね。
なるほど。商品ではなくて人にお金を払う、というところは、ホストクラブにも通じるところがありそうです。
私は飲食より先にホストクラブの運営からスタートしたんですが、その時からスタッフにも同じことは言っていました。「大事なのは、人だ」って。
それで、たまたまロボットレストランの前のビルに空きができたと聞いたときに、今まで人で勝負してきたうちが、近未来のさくら通りで『人間レストラン』という店をつくるのは自然な流れでした。
ロボットがマジョリティになると、人間の余暇が増える?
人間レストランのWebサイトには、『数年後にはロボットがマジョリティになる』と書かれていますが、実際にそういう時代はくると思いますか。
ロボットレストランの他にも、スタッフが全員ロボットというホテルが何年か前にできましたよね。
そういったテクノロジーの進歩を見ていると、近い将来、タクシーもコンビニも無人になって、人間の代わりをロボットが担うような時代がやってくるんじゃないかな、ということはよく考えます。
AIの出現によって仕事を奪われる人が出てくるという話も、ここ数年ずっと言われ続けてきていますよね。
まぁその状況は、むしろラッキーだと思えばいいんじゃないかと思いますけどね。
どういうことですか?
例えば、うちのグループに『スコラ』というスナックがあるんですが、スコラとは、古代ギリシャ語で「余暇・時間的なゆとり」という意味です。古代ギリシャでは、仕事は奴隷がやるもので、上の階級の人たちはスコラ=余暇を使って、「人はどうあるべきか」という哲学対話をしたり、政治的なことを考えたりしていたそうです。
だから、言い方は悪いんですけど、現代人の多くは、古代ギリシャだったら奴隷がやっていたようなことをやっているということです。
仕事は奴隷がやるもの。「社畜」という言葉を彷彿とさせますね……。
テクノロジーが発達していくことで、機械が昔でいう奴隷の代わりを担ってくれて、現代人も時間的なゆとりを享受できるようになる。それは悲観することじゃなくて、むしろラッキーでしかないでしょう。その余暇をつかって、人間にしかできない価値を生み出すことにフォーカスしていく方が楽しいじゃないですか。
人間は「映画を見て本を読め」。感情の幅を広げ、多様な価値観を知ることが大事
先ほど、「人」を目当てに『人間レストラン』に来る方が多いというお話がありましたが、スタッフの方は何か特別なスキルがあるんですか?
スキル、かぁ……。正直、ないですね。
え……。
だって、具体的なスキルとして切り出せるものの多くは、オートメーション化できますから。
それよりも、感情の幅を広げるとか、感性を鍛えるとか、そういったことが必要になってくると思いますよ。私は新人ホストにもよく「映画を見て、本を読め」と言っています。人間のありとあらゆる感情を知る、最も手っ取り早い方法だと思うので。
感情の幅を広げる…?どういうことでしょうか。
例えば、隣で人が泣いていたとして、理解できない人もいれば、一緒に泣ける人もいる。人にはそれぞれ感情の幅があって、人と人との感情が重なる時に共鳴することができるんだと思うんです。ということは、人より感情の幅が広ければ、それだけ共鳴できる人が増えるわけですよね。
何においてもそうですが、店に行くとかお金を払うとか、人が行動を起こすのは、心が動いたとき。人間の感情に人間が共鳴する。これはロボットにはできませんからね。
なるほど。
あとは、多くの価値観を知ることも大事だと思います。僕は自分の価値観が正義ではないと思っているので、なるべくいろいろな価値観を自分の中に取り入れるようにしたい、と考えています。
自分の価値観が正義ではない、というのは?
この間、友達とワインを飲んでいたときに、僕はそれほどおいしいと思わなかったものを、友達がおいしいと言ったんです。僕はワインが好きなので、たくさん飲んだことのある中で比べるとあまりおいしくないな……と思ったんですが、普段あまりワインを飲まない友達にとってはおいしいと感じたようでした。
それって、そのワインが良い悪いとかではない。個人の価値観って、その人の経験値の中でつくられた一つのものにすぎないということですよね。何なら、そのワインが美味しいと感じる友人の方が、僕よりその時は幸福度は高いかも知れないわけですし。
確かにそうですね。人それぞれの価値観だと思います。
僕は経営者として、資本主義社会の中で「儲かること、効率がいいこと=正しいことである」というルールに則りお金を稼いでいますが、それだって一つの価値観に過ぎません。
仕事においても儲かるとか効率がいいとか、それ以外の価値観だって養うことができると思うんです。そういういろんな価値観を感じられる素養を身につける為にも映画や本、もはや釣りでも音楽でも何でもいいんですけど、いろいろなことに向き合うって大事だと思いますね。そこが人間としての幅になって、人生の幅が広がって、結果自然と仕事にも活かせるようになってくるのだと思います。
具体的なスキルというより、人間としての土台をより耕すことが大切なんですね。
そうですね。嬉しい、悲しい、感動……といった、人間が行動を起こす根源の感情や、人それぞれの価値観を幅広く自分の中に持っておいて、それをどう展開していくかを考えられることが、どんな時代にも必要な“人間力”なんじゃないかと思います。
取材・文/中村英里 撮影/桑原美樹
Shop Info
歌舞伎町 人間レストラン NNGN
〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町1-13−11 甲斐ビル 4F
03-6265-9700
営業時間 [月~金]15:00-23:00[土・日]12:00-23:00
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