「ビジネスでは“合法的な加害者”になれ」【ZOZO田端信太郎×西巻拓自】が若手に期待すること
「会社の中で自分らしく生きるには?」を株式会社ZOZOの秘書、総務・採用部門を統括する社長室 室長兼人自本部 本部長の西巻拓自さんと、著書『ブランド人になれ!会社の奴隷解放宣言』でも話題を集めるコミュケーションデザイン室 室長の田端信太郎さんに伺う本企画。
>前編:「僕らは前澤さんの誘いも嫌ならきっぱり断ります」“人生は自分次第”を実現する生き方
後編では、自分らしく生きると何が起きるのか。また、お二人が20’sに期待することを聞いた。
不祥事は「蕎麦が食べたいのにトンカツを食べる」の延長線上にある
――人生の主導権を持ち、自分らしく生きる。そうなった時、どんなことが起きるのでしょうか?
田端:最近ネットの記事で見たんですけど、学歴や年収よりも「どれだけ自己決定しているか」が日本人の幸福感に影響を与えているらしいんですよ。実感としてもそうだろうなと思うし、幸せを感じやすいっていうのは言えると思いますね。
一方で、そうなれなかったとき。僕は日本企業の不祥事って、「本当は蕎麦がいいけど、皆がトンカツ食べたがっているからまぁ合わせとくか」っていう発想の延長線上にある気がするんです。
――どういうことですか?
田端:データ改ざんや粉飾決算といった日本企業の不祥事って、皆悪いことだと分かっているのに、上層部の言いなりになってやってしまっているんですよね。自分の良心と周りの同調圧力を天秤にかけて、仕方がないと受け入れている。「僕はこう思います」って言い出せる人がいないことが不祥事を巻き起こすわけです。「悪事の片棒を担がされるぐらいだったら僕は辞めます」って言える人がたくさんいる会社の雰囲気の方が、形式的なコンプライアンスの体制やガイドラインを整えることよりも、不祥事を防止するうえで、僕はよほど大事なんじゃないかと思います。
――「自分で決めない」ことの延長線上に不祥事はある……。
田端:しかも、日本の企業スキャンダルの場合、誰かが個人的に得をしているわけではないんですよ。アメリカの粉飾決算なんかは、例えばCFOやCEOの私欲のために数字をごまかしていたりするから、良し悪しは別として分かりやすい。でも日本の場合は、皆が空気を読んで忖度した結果、なんとなく不祥事が起きている。
西巻:自分自身に理想や基準がないから、言われたことをそのままやってしまうのかなっていう気がします。例えば不祥事につながり得る指示の善悪判断がつかないというのは、「その指示は正しいのか?」と自分の理想や基準に合致するかという判断ができていないということ。そういう指示に対して「わかりました、やります」ってただ答えてしまうのは、思考が停止していますよね。
田端:実は僕も、過去に部下が誤ったレポートをお客さんに提出してしまっていたことがあって。すぐにバレる話ではなかったけど、責任者としてメンバーと謝罪に行きました。これは「筋を通してカッコいい」っていうことではなく、もっとセコい話なんです。黙っていたら僕は共犯者になってしまうし、その事実がバレたら、「俺、業界ではブラックリストに乗った悪人で、転職できないじゃん」って思ったんですよ(笑)
ミスが発覚したことで会社の業績が悪くなって、もしかしたら自分の評価も下がるかもしれない。でも、正しいことをしていれば「僕自身は出来る限りは、正しいことをやったから許してね」って言えるじゃないですか。長期的に考えれば、個人としてのブランドは守れるわけです。転職は手段に過ぎないけれど、その手段を捨てて会社と心中するメリットなんてない。どうして皆そういうことに頭が回らないのか不思議ですね。
“転職童貞”バンザイ!「1社で働き続ける」はむしろ幸せなこと
西巻:転職の話でいうと、僕は田端さんとは真逆で、アルバイトからずっとこの会社にいるんですよ。「魅力的なサービスに惹きつけられたら転職を重ねて自分をどんどんスキルアップして、自分の意思と行動力でキャリアを築いていこう」っていう田端さんの意見は1つの意見として超おっしゃる通りだと思う一方で、僕は「“転職童貞”バンザイ」だとも思っているんです。
西巻:最近では転職することが当たり前のようになりつつあるけど、1社で働き続けるって、むしろ幸せなことですよ。僕は会社が好きで、前澤から良い刺激を受けていて、一緒に働く仲間との関係性も良いし、もちろん仕事も楽しい。そういう状態だったら会社なんて辞める必要はないじゃないですか。
田端:同感ですね。転職しているヤツが偉いわけじゃないですよ。転職自体はあくまで手段で、いわば引っ越しみたいなものです。一つの家にずっと住むメリットもあると思うんですよ。馴染みの店だって増えるわけだし。
――「転職する」選択をした田端さんに対して、「この会社に居続ける」という選択を西巻さんはしているわけですね。
西巻:そうなんですよ。もしも会社に不満があるなら選択肢は2つで、「辞める」か「変える」か。僕も今までこの会社に居て不満に思う事なんで星の数ほどありました。でも会社も仲間もすごく好きだから、より良い会社に変えていきたいって気持ちが強いんです。それに今となっては会社を変えていけるような責任も預けてもらっているんだから、なおさら変えていこうと思います。
「1社しか経験がないとビジネススキルや、得られる知識が限られる」って言われることもありますけど、「別によくない?」って思うんですよ。それで僕は幸せに生きているから。僕が望む理想は、ZOZO に入社した人たちがこの会社での仕事を楽しいと感じて、長く勤め続けてくれること。そういう考え方に対して、「飼い慣らす」とか「縛りつける」って表現をせずに、本人が「楽しい」と言っているのなら、「それでいいじゃん」って気持ちがありますね。
皆がブランド人にならなくていい
――最後に、20代の若手にお二人はどんなことを期待していますか?
西巻:僕はあえて田端さんの隙間を狙いますが、「何でも自分次第と考えて、自分で状況を変えていける人になれ」とは思わないです。そうなれない人も多いと思います。1年を通じて高い意識を持ち続けることが難しいなら、年に1回だけでいいから会議の場で意見を言ってみるとか、そういう小さな一歩でいい。年に1回できたら次は月1回やってみようとか、たまにでいいから自分の意思で一歩踏み出してみたらいいんじゃないかな。
――「個を強くせよ」っていう主張が最近目立つなぁと感じています。田端さんも”ブランド人”になることを勧めていますが、「ブランド人にならない」という選択をするのもアリなんでしょうか……?
田端:そりゃあそうですよ。別に義務じゃないんだから。
西巻:田端さんが言う様な「ブランド人」は、きっと大きな仕事を任されるでしょうし、社会の中心で物事を引っ張っていく人たちだと思います。“そうではない人たち”は、もしかしたら会社の中では目立ちにくいかもしれない。
でも、日々の仕事を少しずつ効率化していきたいとか、隣の人が困っていたら助けたいとか、その人たちなりの喜びや仕事のやりがいを感じているんだと思います。僕はそういう価値観があっていいと思うんですよ。皆が田端さんみたいになりたいとは思わないでしょうし、思わなくていい。全員がブランド人になっちゃったら、社会はきっと大変なことになりますし、大切なのはその異なった価値観の共存だと思います。
でも、田端さんのこの本を手に取る人は少なからずブランド人に興味があって、憧れる気持ちがあるから読むわけですよ。そう思わない人は手に取らないわけですから、そこはもう本人の自由ですよね。今の自分から脱したい気持ちがあって読んだ上で、「田端さんだからできるんでしょ」って言っているのであれば、それは言い訳なんじゃないかなとは思います。
“合法的な加害者マインド”を持った方が仕事は楽しい
――20代の若手に期待すること、田端さんはいかがでしょう?
田端:個人としての主体性を確立した上で、少なくとも会社や上司に対して、被害者意識を持つべきではないと思うんです。リクルートが1兆円以上の負債を抱えていたころ、当時社長だった河野栄子さんが「人間の一生は企業が責任を取れるような軽いものじゃない」という発言をしました。責任放棄だと怒られていましたけど、僕はいいこと言うなぁと思っていて。
田端:リストラされたときに、「こんなに会社に尽くしてきたのに」って言う人がいるじゃないですか。その会社で働くことを自分で選んだのに、あとからワーワー言うのはめちゃめちゃダサいですよ。
西巻:「被害者意識を持つな」というメッセージは、「仕事は自分ごと」と同じことですよね。
田端:その通りです。仕事においては被害者になるくらいだったら、“合法的な加害者”になった方がいい。企む意識があって、主体的に何かをやっているから加害者になれるわけです。例えば「『ZOZOTOWN』のせいで百貨店の売上が下がった」と言われるわけですけど、それはあくまで結果論であって、百貨店の売上を下げようと思ってやっているわけではないんですよ。いかに合法的な加害者になるか。これはビジネスというゲームのルールでもあるような気がします。
西巻:仕事をする上でのマインドの話ですよね。被害者マインドよりは“合法的な加害者マインド”を持った方が楽しい。皆分かっていることでしょうけど、結局は自分次第なんですよね。いきなりは難しくても、少しずつでも行動を変えれば、マインドも変わっていくんじゃないでしょうか。行動しなければ変化はないっていうのは、「ブランド人」でも、そうじゃない人にでも共通なことですから。より高いところを目指したいのであれば、田端さんのオレンジ色の本を読んでいただいてね(笑)
取材・文/天野夏海 撮影/赤松洋太
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