「ゆとり世代は、最強のクリエーター集団だ」“インスタ0円起業”のyutoriに見る、20代に秘められた本当の才能
最近は「自分の“好き”をいかして、自分らしく働こう」とよくいうけれど、そもそも自分の“好き”や“らしさ”とは何なのか。どうやって見つけているのか、せめてその方法さえ分かればいいのに。
そこで、今回はこの2人に話を聞いてみた。株式会社yutori代表の片石貴展さんと取締役の瀬之口和磨さん。
フォロワー数21万人以上を抱えるインスタメディア『古着女子』を運用するyutori。「誰も恐れずに、自分の『好き』を体現できる社会をつくる」ことをミッションに、2018年に立ち上がった新進気鋭の注目企業だ。24歳で創業した片石さんと25歳で同社に参画した瀬之口さん。2人が考える「好きを見つけ、自分らしく働く」ために必要なこととは。
“好き”で始めたインスタアカウント『古着女子』で独立
yutoriが運営するインスタグラムアカウント『古着女子』。広告費は一切使わずに、昨年11月の開設からわずか5カ月でフォロワー数は10万人を超えた。「あえてモデルの顔出しはせず、コーディネートを見せることに特化した情報発信を心掛けた」ことが、インスタ人気と相まって、純粋に古着やファッションを楽しみたいSNS世代の女子にうけた。現在は日本最大級の古着コミュニティに発展し、EC事業と自社メディア事業も展開している。
2018年4月に法人化し、その後CAMPFIRE・家入一真さんやhey・佐藤裕介さんなど名だたる起業家からの資金調達に成功。“インスタ0円起業”の先駆者として、一躍注目を集めた同社代表の片石さんは、1993年生まれのミレニアル世代だ。
学生時代は、アイドルグループ『TheSnatch!』のメンバー兼プロデューサーとして活動していたという彼は、yutori設立までにどんな道を歩んできたのだろうか。
「昔から音楽と洋服がすごく好きで、大学では音楽を通した表現活動をしていました。アイドルをしていて、ワンマンライブで600人ほど集めることもできた。そのままデビューの話もあったんですけど、僕は新しい世界が見たくって。大学卒業を期にそのグループは解散して、就職することにしました。その時は大手企業は一切受けずに『自分がどうなるか分からない、成長率がハンパなさそうなITベンチャー』を中心に選考を受けたんです。それで決まったのが『アカツキ』。スマホゲームの会社です」(片石さん)
アカツキに入社した片石さんは、複数の新規事業立ち上げを経験。副業として始めていた『古着女子』が軌道に乗り始めたことで独立を決意し、入社から約2年で同社を退職した。会社員時代に携わった「インフルエンサーマーケティング事業」が古着女子の立ち上げにも大きく生かされたという。
一方、取締役を務めマーケティング戦略の実行やオペレーションなどを担う瀬之口さんは1992年生まれ。大学時代は友人とWebメディアを立ち上げたり、ネット系広告代理店でのインターンを経験した。卒業後は、インターン時代に身に付けたWebマーケティングの知識を武器に、コンサルタントとして独立。そして2018年、事業拡大のため法人化に向けて準備を進めていたある日、彼の運命を大きく変える出来事が。
「自身の会社の法人化に向けて、会社のハンコを発注していたんです。そしてハンコが届くのを待っている間に、ピコンとメッセージがきて。それはyutoriの共同創業者の松原からでした。『最近、何してるの?』と聞かれたので『今、起業するためにハンコを作っている』という話をして。そしたら『面白いことをやっているから来てよ』と。そこからトントン拍子に話が進んで、僕もyutoriに参画することになったんです。もし、あのときハンコが届いていたら、僕はここにいなかったかもしれませんね(笑)」(瀬之口さん)
僕たちは、自分の世界観を表現し続けてきた“クリエーター第一世代”だ
彼らは生まれた時からインターネットやSNSが身近にある「ネットネイティブ」な世代だ。10代の頃から自分の世界観をSNSで発信することが“普通”な同年代を見て、片石さんは「僕らの世代は誰しも自分だけの“好き”を持ち、それを表現し続けてきたクリエーター集団だ」と話す。
しかし、中には「せっかくクリエーティブな才能に溢れているのに、自分の好きを好きと高らかに言えない“臆病な秀才”」も多いと考える。そこでyutoriでは「マイノリティーな好きを持つ“臆病な秀才”の最初のきっかけをプロデュースする」と決めた。
「ネットネイティブな僕たちは、ネットやSNSが普及したことで、簡単に『なりたい自分になる』ことが可能になったと思います。学校や家族だけではない、自分と同じ志向を持つ人たちと繋がれる。今は本当にそういう良い時代だなと思います。一方で、他者の『好き』も可視化しやすくなりました。こうなるとどうしても自分と他人を相対的に比較するようになってしまう。相手の方が“好き”が大きかったり優れていると感じると、自分の好きに自信が持てなくなってしまう人もいると思うんです」(瀬之口さん)
さらに、昨今の『好きなことで、生きていこう』と過度に誇張する風潮や、ネットにより可視化された弱肉強食な世界が、自分の中の小さな“好き”を発信することを臆病にさせているのでは、と片石さんは続ける。
「そもそもyutoriという社名をつけたのは、『ゆとり』というテーマを背負って生きていきたいと思ったからです。今の世の中って、少し急ぎ過ぎだと思うんですよね。起業に関しても、創業わずか数年で何億円でバイアウトしたとか、上場して時価総額がいくらとか、急成長するほどいいみたいな風潮って少し息苦しいなと。それに強い人しか生き残れないみたいなマッチョな世界観、僕は苦手ですし、そもそも僕自身が臆病。それでも僕たちゆとり世代ならではのビジネスの形があると思っていて、それを証明していきたいと思っているんです。それに『好きなことで生きていかなきゃ』っていうのはもはや強迫観念みたいになっていて、そういう空気が“臆病な秀才”をさらに萎縮させてしまっていると思います。だから、僕たちが、皆の大小さまざまな“好き”を尊重し、発信できる社会をつくっていきたい。そのために僕たちのサービスを通じて心や時間のゆとりを創出したいなと思ってるんです」(片石さん)
没入して生きていれば、いずれ自分らしさが見えてくる
そう話す片石さん自身も、“好き”や“らしさ”に捉われ苦しんだ経験があるという。
「実は僕も『好きな仕事しかしたくない』とか『自分らしく働きたい』という思考に囚われてしまった時期がありました。会社に入ったばかりの若手だと、もちろん自分のやりたいことだけできるわけがない。アカツキに入社したての頃なんて、仕事を任されて興味が湧かなかったり上手くいかないと『俺じゃなくて仕事が悪いんじゃないの?』と考えたこともありました。そうなるとどんどん悪循環に陥って。結果も出ないし、ミスも連発でした。
そんな時、上司から『もうお前には一切期待しないから』って言われたんです。それがきっかけで目が覚めました。“自分らしさ”とかいっちょ前に言ってるけど、自分はまだ何者でもないんだと。理想ばかり追いかけるのではなくて、まずは任せられた仕事に懸命に取り組もうと。それから、本当の意味で自分の仕事に向き合えるようになったと思います」(片石さん)
では本当の意味で、「好き」や「自分らしさ」を見つけ、働くために必要なこととは。最後に2人に聞いてみた。
「自分の好きや“らしさ”を知るためには、とにかく何でもやってみることが大事なんじゃないかなと。僕自身、自分の人生を後悔しないためにこれまで留学、インターン、メディア作りなど、いろいろやってみた結果、本当に好きなことが分かってきた気がします。だから、自分が楽しいと思ったものは一度思いっきりコミットしてみる。途中で飽きたら、それはそれで、次やれば良いじゃんと思って。そうやって好き嫌いを取捨選択していく中で、没入できるものが“自分の好きなこと”なんだと思うんです」(瀬之口さん)
「自分らしさとか、好きなことで生きていくって、永遠に見つからない理想の王子様を探している感覚に近いと思っていて。遠くにある理想の自分と、今の自分を比較するようなことじゃないですか。でも答えは自分の外ではなく内にしかないし、求めるのではなく探すもの。自分らしさを知るためには、瀬之口の言う通りとにかく没入することが大事だと思うんです。それによって、自分の輪郭が捉えられてきますし。たとえ地味な仕事に思えても今、この瞬間を積み上げて没入して生きていれば、いずれ自分らしさが分かるし周りにも伝わっていくと思います。そしてそれは、決して立派なものじゃなくたっていい。小さくても、自分だけの好きを大事にすればいいんだと思います」(片石さん)
周りよりも小さくたっていい、自分だけの“好き”に没入しよう。そして心に少しの“ゆとり”を。そうすればきっと、20’sの人生はもっと楽しく豊かになるはずだ。Yutoriの二人が、それを証明している。
取材・文/青野祐治 編集・撮影/大室倫子(編集部)
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