キャリア Vol.642

“しょぼい起業家”が説く、20代が生きづらさを払拭する術「キャバクラ化したオンラインサロンには入るな」「可愛がられる子分になれ」

「行動しろ」「一流になれ」「イノベーションを起こせ」。メディアには“意識の高い”フレーズが並び、人々を煽り立てる。その一方で、次々と現れる新しい生き方やバズワードに追い立てられるような毎日に疲れてしまう人もいるだろう。

そんな20’sに「皆が皆、頑張らなくていい。嫌なことから逃げて生きたっていい」と説くのが、経営コンサルタントの“えらいてんちょう”さん。彼は「朝満員電車に乗って、通勤するのが嫌」、「皆と同じように会社で働けない」という理由で就職をせず、“ゆるく起業”した。始めはリサイクルショップの運営、そこからちょっと変わったバーのオーナーへと軸足を移し、今や経営コンサルタントとして全国各地に引っ張りだこの28歳だ。

「頑張ることから、逃げちゃいけない」そう肩に力が入る20’sたちに、えらいてんちょうさんはこう言う。「大丈夫、生きていくのはそんなに難しくない」と。

会社で仕事がうまくいかない、やりたいことだって続かない。そんな人に“えらてん”さんが送る、「逃げるは恥じゃなく、役に立つ」生き方とは?

経営コンサルタント・YouTuber えらいてんちょう さん

1990年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒。2015年、24歳で初期費用わずか50万円でリサイクルショップの運営を始める。身の回りの不要品を売る、人の集まりやすい環境をつくる、など「しょぼい起業スタイル」を確立し、1年で5店舗を経営するまでに拡大。その起業術を多くの人に伝え、コンサルタントとしても活動する。2018年はYouTuberとしても活躍の幅を広げた。2018年12月にそのノウハウをまとめた初著書『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)を上梓
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生きている自分全てがリソースになる。
えらてんが成功した“しょぼい起業”とは?

実は僕、大学に行くのが困難な時期があったんです。朝は起きれない、友だちはつくれない、サークルも続かない。入学初日にテニスサークルから「君は飲み会、好き?」って勧誘された瞬間に、あぁ大学でうまくやっていくのは無理だ、と思いました。

よくよく考えたら、小学校から高校まで、少ない時で年間20日は欠席するような子どもでしたし。結局、大学も2年の休学をはさんでなんとか卒業できました。

それでもいわゆる“ふつー”に就職したくて、就活はしたんですよ。商社を受けました。安定した生活がしたいとか、周りもやってるしとか、そういうことも考えました。でも偏屈なプライドが邪魔をして、なんで自己PRをしなきゃいけないのとか、5分の面接で何がわかるんだって思い始めて、結局1社だけ受けて落ちて、就職は諦めました。起業家なんて志高いものじゃなくて、嫌なことから逃げただけなんです。

今の日本では、飢え死にするリスクは限りなく低い。命がある限り、それなら人生どうとでもなると思ったんです。だから、僕は嫌なことから全力で逃げ出して、大学を卒業する年に「しょぼい起業」をすることにしました。今、嫌なことに向き合いすぎて、過労死したり、自死を選んだりする人がたくさんいますよね。それならよっぽど、僕みたいに逃げた方いいと思います。

「しょぼい起業」って、銀行にお金を借りたり、ビジネスコンテストで優勝したり、でっかいイノベーションを起こしたりしなくていいんです。日常生活の中で不要なものを売ったり、店舗で寝泊まりして家賃コストを下げたりして、生活しているだけでかかるコストを利益に換えてしまいます。寝泊りしている店舗に人を呼んで、お酒を出せばバーにもなる。つまり「生活の資本化」を行っていく、これが基本的なマインドです。今ある自分のリソースを使って、生きているだけ。それが僕の「しょぼい起業」の正体なんです。

興味があって哲学やマーケティング、経営も勉強しました。ですがある時、自分はイノベーションを起こして、社会に価値を提供して、大金を稼ぐということにあまり興味がないんだと気が付いたんです。将来家族ができたときに食べていければそれでいいし、スタートアップみたいなかっこいいことも、正直しんどいなって。

そういう考え方をいろんな人に伝えていくうちに、周りに人が集まってきました。しょぼい起業でつくった“低コストで人が集まる”店舗が増え、今はフランチャイズのオーナーや、店舗経営のコンサルティングをして生きてこれています。そこには凄腕の資金調達も、綿密なビジネスプランもありません。

意識高い人たちに聞きたい。
「あなたはイノベーションを起こしたいの? イノベーションで褒められたいの?」

意識の高い人たちは「イノベーションを起こそう」ってよく言いますよね。確かにITや先進医療の分野では、産業革命や活版印刷の発明にあたるくらい画期的なイノベーションが起こっています。でも、それ以外のほとんどの分野では「ゼロから何かを開発しました」じゃなくて、「流通を簡単にしました」ぐらいのものも多いですよね。生産効率をあげる大規模な技術革新ではなく、ちょっとお金のやりとりを簡単にするものにすぎない。

そういうところにいる意識高い系の人を見ていると、イノベーションを起こしたいのか、イノベーションを起こして褒められたいのかどっちなんだろうって。最近は褒められたいだけの人の方が圧倒的に多いように感じます。何もなくても人を褒めればイノベーションを起こしたのと同じ効果があるんじゃないかと思うくらい。

今、オンラインサロンが流行っていますよね。あれって一種キャバクラみたいなものだと思っていて。承認されたい、褒められたい人がお金を払えば、何かやっているような気になれますから。そんな人たちの中で頑張ろうとして疲れてしまう、とか辛くなってしまう人が出てくるのは当然なんじゃないかなあ。

そもそも「承認されたい」ということは、すなわち人の感情を動かそうとすること。僕は、それは原理的に不可能だと思うんです。自分のすることで“たまたま”人が動いたり、“たまたま”誰かの感情を揺さぶることはあるでしょう。でもそれは結果的にそうなるだけであって、「こちらの都合」でできることではないんです。

誰かに承認されたいからといって、人の感情を恣意的に動かすことは無理。自分ができるのは、ただ動くこと。それを相手がどう受け取るかをコントロールすることはできません。だから結局は自分が動くしかないし、最終的な判断は自分でした方がいいんじゃないかなと思います。そこに気付くかどうかで、生き方はだいぶ楽になるように思います。

勇気を出さなきゃできないことなんて、やらなくていい。
それぞれ適性の中で幸せを見つけよう

「確固たる自分にならなきゃいけない」とか、「自分で選択して人生を切り拓いていかなきゃいけない」っていうのも現代の一つの価値観、イデオロギーです。民主主義や個人主義から生まれた考え方ですよね。

そういう考え方にしばられる必要もないと思います。そんなに一人で頑張らなくても、社会から曖昧な承認なんか得なくても、人付き合いの中でいつの間にか生まれるゆるい“親分・子分関係”があれば、ちゃんと生きていけると思います。

人には適性というものがあって、“親分適性”のある人は、誰かを世話したり、相談に乗ったりして、頼られる存在になるために生きていけばいいと思います。逆に“子分適性”がある人は、自分のやりたい分野で“親分”を探せばいいんです。

僕自身は“親分”として生きていきたいので、自分でいろいろやっていますが、それが“子分”の役割に回っても何も恥ずかしいことじゃありません。むしろ、大半の人が“子分適性”なんじゃないかと思います。

その時に大事なのは、どれだけダメでもいいから、やり始めること。僕も最近よく「YouTubeやりたいんです」って聞かれるのですが、何もしたことない“子分”にイチから教えてくれる親分はいないでしょう。僕も何かアップロードされた動画があればそれにアドバイスができますが、動画をつくったこともない人には何も助言できませんから。

下手くそでも良いから始めてみて、その後は身近にいる“親分”に頼ればいい。店舗を借りたいなら「不動産屋へ行って物件を見てきました」と言えば「お、見せてみて?」と助けてくれる人がいるはずです。そうして自分にとって「親分的な人」が結果的に、人生の重要キャラクターになっていくでしょう。逆に、そういって助けてくれる人がいないなら、その分野はやめたほうがいい。それって、そもそも誰からも応援されないってことですから。

結局のところ、嫌なことから逃げて生きていくためには、誰かに助けてもらえるような「人柄の良さ」が大事なんだと思います。高度なコミュニケーション能力はいりません。人が怖くたって、嫌われるのが嫌だと思っていたって大丈夫。まずは5分間だけでも“感じ良く”できればいい。「困ってるならちょっとアドバイスしてあげようかな」ってくらいの感じの良さです。それなら小さな努力でできるでしょう。

始めるのはそこからでいいんです。勇気を出さなきゃできないようなことは、やらなくていい。無理して、「何か」になろうとする必要だってない。そういう生き方も全然あり。自分が幸せなら、それでいいんだと僕は思います。

取材・文/石川香苗子 撮影/大室倫子(編集部)

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えらてんさん最新著『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)
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家入一真氏、推薦!!
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