キャリア Vol.648

“一人映画会社”を営む30歳の幸福論――仕事と人生に究極のやりがいを求める生き方

「正直、映画は儲かりません。でも僕は、一生涯をかけて映画に向き合っていくつもりです」

そう語るのは、“一人映画会社”を運営する石原弘之さん。たった一人で、映画の企画制作、配給、宣伝などを手掛ける会社「ポルトレ」を経営する。彼は幼い頃から大好きだった映画を仕事にしたいという想いから、2015年7月に会社を立ち上げた。苦しい時期も経たが、現在事業は順調に成長を遂げている。

現代は働き方や生き方の多様化が進み、「好きなことで生きていく」ことに憧れを持つ人も増えた。しかし、お金などのリスクの面に不安を感じ、憧れから一歩踏み出すことができない人も少なくない。そんな悩める20’s世代に向けて、「好きなことを仕事に」孤軍奮闘する石原さんの“幸せな生き方”を語ってもらった。

株式会社ポルトレ 代表取締役 石原 弘之(いしはら ひろゆき)さん
株式会社ポルトレ 代表取締役 石原 弘之(いしはら ひろゆき)さん
1987年生まれ。愛知県江南市出身。2015年、ポルトレを設立。2017年に『74歳のペリカンはパンを売る。』を製作・配給し、2018年に『シンプル・ギフト はじまりの歌声』を配給した。好きな言葉は「故きを温ねて新しきを知る」

スピルバーグに憧れた幼少期。
「映画をお金に変えることも含めて、クリエーティブだ」と起業を決意

僕は小学生の頃からずっと、映画が大好きでした。特にスピルバーグの作品が好きで、彼が14歳から映画をつくっていたというエピソードを知って、自分も早く映画をつくりたい、将来は映画監督になりたい、と憧れを抱いていたんです。

中学生のときに初めてビデオカメラを手にして、総合学習の時間に老人介護施設のドキュメンタリー映画を撮影しました。学校の体育館で上映をしたんですが、皆が自分の作品を観ている姿を後ろから眺めている時、何とも言えない感動と興奮が胸の内に湧き上がってきたんです。

その感覚が忘れられなくて、高校に入った後も映画を自主制作していて。卒業後大学には進学せず、監督になるための修行をしようと思い、愛知から東京へ上京しました。初めての現場は音楽のプロモーションビデオ制作。監督の下につくアシスタントとなり、クリエーターとしてのキャリアをスタートしたんです。

もちろん制作の現場に入ったからといって、新人の自分が作りたいものを好きに作ることはできません。まだ何者でもない若者のくせにって、今なら分かるんですけど、その時はすごく物足りなさを感じていて。こんなことをしに上京したんじゃないって、モヤモヤしていました。

そして一つの作品づくりの区切りがついたところで現場を離れ、「この先どうしようかな」と考えながら、しばらくはバイトをしたり、プラプラしていました。映像と全く関係のない蕎麦屋のバイトとかもして、ほんとブレブレだったんです(笑)。

株式会社ポルトレ 代表取締役 石原 弘之(いしはら ひろゆき)さん

24歳の時に、やっぱり自分は自由に創作できる環境で作品を作りたいと思い、多摩美術大学の映像演劇学科に入学しました。最初のうちは、自分が作りたいものを自由に作れるのが嬉しくって。とにかく好き勝手に制作をしていましたが、次第に「あれ、この映像って誰が見るんだろう?」と、自由さに逆に違和感を覚えるようになりました。

作りたいものを作れたらそれでいいのか。それとも、多くの人に見てもらえる作品を作りたいのか。ここでやっと、僕の答えは後者だと気付いたんです。それなら「作品をお金に変えていくこと」も僕が求めるクリエーティブの一環なんじゃないかと考えるようになりました。

そうして自分がやりたいことを具体的に突き詰めた結果、自分が主体的に動ける立場で、制作や配給、宣伝など映画にまつわるものに全方位的に関わっていきたいという考えに至りました。それで始めたのが、27歳の時に起業した「ポルトレ」です。

27歳というと周りの同級生は結婚し始めたり、もう立派に社会人をやっている人ばかりだったけど、不思議とその時の僕に焦りはありませんでした。紆余曲折あったけど、映像に関するいろんな経験をすることでやっと、自分が本当にやりたいこと、人生の目的が見えてきたからです。その喜びとワクワク感で溢れていました。

人生の目的は決まった。あとはそれを実現させるだけ

一番初めに映画の配信サービスを作り、1年ほど運用していましたがマネタイズがうまくいかずに頓挫。(現在、再挑戦の準備中!)2年目には、原点に立ち戻ってまずは自分にできること、つまり映画作りに取り組もうと考えたんです。そこで創業70年以上の歴史がある、浅草の有名なパン屋『パンのペリカン』を舞台にしたドキュメンタリー作品『74歳のペリカンはパンを売る。』を製作しました。

初めは公開の予定もないまま制作を進めていたんです。だけど徐々にいろんな人に協力してもらえるようになって。雑誌に取り上げてもらえたり、クラウドファンディングで話題になったりと、少しずつ広まっていきました。

最終的には全国22館、さらには中国でも上映され、観客動員も6,200人にのぼりました。自主制作、かつマーケットが小さいドキュメンタリー作品としては成功と言える結果。これが一つ映画業界に「ポルトレ」の存在を広めるきっかけになりました。小さな成功体験です。

とは言え、映画業界の従来の収益モデルって、制作者が一番儲からない仕組みになっているんです。映画の一番大きな収益はチケット収入で、映画館5割、制作者3割、配給会社2割で分配される。特設サイト制作や広告の掲載など、宣伝にかかる費用は制作者がすべて負担しますし、制作には時間もコストもかかります。

すると、映画を作り続けるだけでは事業を継続するのは難しい。そのため、2年目以降は、現実的に“稼ぐ”手段として、企業のPR動画制作など、映画以外の事業も手掛けるようになりました。

動画制作は映画との親和性もあるので、そこで得たものが映画制作に活かせるというプラスの面もありますが、あくまで自分がやりたいのは映画事業。社会の中で映画と関わり続けることなので、「映画でいかにして劇場公開以外の収益を生み出すか」をずっと模索し続けています。また、だからこそ劇場公開が重要であるという点も改めて認識しています。

株式会社ポルトレ 代表取締役 石原 弘之(いしはら ひろゆき)さん

そしてスタート時は完全に一人でやっていましたが、事業を通してたくさんの人との繋がりができました。いろいろと模索しながら歩んできた3年間で、会社の売り上げ自体は、毎年3倍ずつ伸びています。

人との出会いや新しい事業へのチャレンジを続けることによって、「ポルトレ」という法人格の姿が徐々に形作られていき、少しずつではありますが、成果に結びついてきているのではないかと思います。

「人生に何を求めているのか?」
自分自身を見つめることが、好きなことで生きていくための第一歩

僕のように、好きなことを仕事にするかどうかは、その人が人生に何を求めているかにもよると思います。

「お金」に価値を置く人にとっては、起業するのは苦しいことかもしれません。起業そのものにお金がかかりますし、うまくいく保障もありませんから。常に不安定であるという点で安定しているようなものです。でも僕の場合は、自分の人生に対してお金ではなく「究極のやりがい」を求めています。

自分がきっかけとなって何かを起こすことにやりがいを感じていて、法人になることでできる範囲が広がるから、起業という選択をしました。また、「映画ってなんだろう?」という問いを考え続けることが、自分の生きる意味だとも思っています。

この問いに対する答えを、事業や作品を通していろんな角度から表現し、たくさんの人に伝えていきたいです。そこに決まった正解はありませんし、答えを考えることそのものが生きがいでもあるので、一生涯をかけてこの問いを追い続けるつもりです。

株式会社ポルトレ 代表取締役 石原 弘之(いしはら ひろゆき)さん

私自身、まだ歩みを進めている最中ではありますが、好きなことに一歩踏み出せないという人は、それがどのくらいの切実さなのか、自分自身に問いかけてみるといいかもしれません。

「好きなことで生きていく」ことにも、グラデーションがあります。人生の全てを捧げて取り組みたいものなのか、趣味として楽しめれば満足なのか。また、好きなことの中にも嫌いなことはあります。それとどう向き合うのか。

僕らの親世代は、やりたいことを追い求めるような人生を生きてはきませんでした。そういった人生が良いか悪いかは別として。でも多くの人が大きな自由を手に入れることができる現代の20代は、やりたいことを実現しやすくなったはず。あとはどのぐらいのさじ加減で自身のやりたいことを突き詰めていくのかをコントロールすれば良いと思います。

自分は人生に何を求めていて、どんな風に生きていきたいのか。その答えは自分の中にしかないんだと思います。僕もいろいろ遠回りはしていますが、考え抜いてたどり着いたから今があるのではないかな。失敗してもいいから、たくさんの経験を通して、自分の人生の目的を形作っていく。意味をつけていく。そうやって自分自身を真摯に見つめることが、自分だけの人生に彩りを添えるのではないでしょうか。

Information

◆オフィスの会議室で映画を観て学ぶサービス『オフィスDEえいが
◆製作・配給担当作品『74歳のペリカンはパンを売る。』自主上映受付中
◆配給宣伝担当作品『シンプル・ギフト〜はじまりの歌声〜絶賛公開中!

取材・文/中村英里 撮影/赤松洋太

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