「愛の値段」も数字で言えてしまう? ビジネスを動かすためのデータ活用法
ビジネススクールで有名なグロービスが展開する、ビジネススキルの動画学習サービス『グロービス学び放題』の講師たちから、働く日々のヒントになるようなtipsを教えてもらうこの連載。
第6回の今回は、グロービス学び放題の『ビジネス定量分析』の講座を担当する鈴木健一さんにお話を伺った。
仕事をする上で、数字やデータの活用は必要不可欠。その一方で、数字アレルギーを持っている若手ビジネスパーソンも多いのでは?
しかし、数字を使った分析の考え方はシンプルなもの。本記事では、定量分析をする上での考え方や、分析方法の学び方をお伝えしていく。
数字は、ストーリーと仮説をつなぐ橋
突然だが、一つの問いを考えてほしい。
「愛」に値段をつけるとしたら、どう測ればよいだろうか?
この問いを考える上で活用できる、ユニークな調査がある。
生命保険会社が実施した調査で、働く独身女性を対象に、「結婚相手に求める年収」を質問すると、平均は552.2万円だった。一方、「では、心から愛せる人が現れた場合、その年収がいくらまで減っても許せますか?」と質問したところ、その平均は270.5万円。
この差額である281.7万円は、1年間の愛の値段だと解釈することができる。
一見測定するのが難しい場合でも、「Aがある場合とAがない場合」で比較することができるのだ。このように、ものごとに数字を用いて分析することを「定量分析」という。
数字というのは一般に、印象や他人のコメントといった定性情報に比べて客観性が高く、検証もしやすいという特徴がある。定量分析を適切に行うことは、ビジネスシーンにおいて、自分自身の意思決定の精度が上がると同時に、他者の説得や巻き込みが容易になるというメリットがある。人間というのは説明を求める動物であり、納得感なしには進んで動こうとはしないからだ。
また、PDCA(Plan→Do→Check→Action) を軸とした科学的なマネジメントにおいても、数字を用いて目標を設定し、 問題解決等に活かすことは基本中の基本。逆に言えば、定量分析ができないビジネスパーソンや企業は、 いつまでたっても「勘と経験」に頼った前近代的経営から抜け出せないということになる。
グラフや表は『数字の言葉』だ
そんな定量分析の大切さについて、グロービス教員の鈴木 健一さんはこう語る。
「ビジネスを動かす上では、計画や戦略などの『ストーリー』と数字の両方が大切だと思っています。計画をする上では、数字で裏付けをすることが欠かせません。数字は、計画と現実をつなぐ接点となるものです」
営業活動などでも「どのようなお客さまに、何を、どのように売っていくか」考える場面は多々あるだろう。そこにデータを使えば、より正確にお客さまのターゲティングができる。
例えば顧客への訪問回数と売上成績の関係を分析して、相関関係が発見できれば、より顧客のところをこまめに訪問する戦略がとれる。
このように、結果に対して何が効いているのかをあぶり出すために、データは活用できるのだ。
ビジネスで数字を活用していく上では、伝えたいメッセージを、どのようなグラフ・表を使って訴えていくか考え、データを集めていく作業が必要になる。そのために求められるのが、「仮説思考」だ。
「私はグラフや表のことを『数字の言葉』と呼んでいます。学校教育では、『このグラフは、どういう意味を持ちますか?』というデータの解釈をよくやっていると思います。でも、ビジネスでは『このメッセージ、仮説を伝えるために、どんなグラフ、さらにそのグラフを作るのにどんなデータが必要なんだろう?』と逆算する考え方が必要なんですよね。この仮説思考の訓練をすることが、仕事をする上では求められると思います」
都市伝説も数字で証明できる?
身近な問いから、「数字のワンダーランド」に踏み出そう
「やっぱり楽しい方が続けられると思うんですよ。嫌いなものをやっても仕方がないですよね。だから、理想は数字が好きで得意であってほしい」
数字を使う楽しさが体感できるよう、ビジネススクールやグロービス学び放題の講座の中でも、鈴木さんは工夫しているという。定量分析で身近な問いを考える演習を散りばめているのだ。記事冒頭で出した「愛の値段はいくら? 」という問いも、そのひとつ。
「『グロービスに通うと幸せになれるという都市伝説があります。これが本当かどうかを証明してください。どんなデータを使えば言えそうでしょうか』という演習もありますね(笑)。定量分析の本の中には、難しそうなことがたくさん書かれているものもありますが、本質的な考え方はそんなに難しいものではありません。その本質的な部分をつかんでほしいと思っています」
読書を通して学ぶときにも、「本質を追求する」という考え方は変わらない。
「分析手法が細かく書いてある本ではなく、分析とはそもそもどういうことをするのか、ストーリーで掴めるような本を手に取るとよいと思います。易しく解説している本もたくさん出ていますので、ぜひ最初に読んでみてください」
特に鈴木さんが若手ビジネスパーソンの読者にオススメしているのが、『数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです』(深沢 真太郎著/日本実業出版社)だ。
アパレル企業で勘と経験に頼って仕事をしてきた感覚派の主人公が、日々の業務を通して、ビジネスにおいて数字を使うことの大切さを学んでいくというストーリー。難しい数式もなく、登場する場面も実際のビジネスシーンで「あるある」というものばかり。「学生時代に数学が苦手だった…」という読者が「数字のワンダーランド」に行くための第一歩となりそうな一冊だ。
最後に、鈴木さんは学ぶ上で「好奇心の大切さ」を語る。
「楽しいと思わなければ好奇心は生まれないし、一方である程度好奇心がなければ楽しいと思うところまでたどりつきません。楽しさと好奇心は密接につながっていると思います。数字の世界はとっつきにくいところもあるかもしれませんが、少しでも触ってみて体感値を持つと、心境が変わりますよ。『いろいろ言われているけれども、こんなことができるんだな』と実感できると思います」
データを怖がらず、まずは気軽に数字の世界に触れてみることを勧めたい。
鈴木さんオススメの書籍リスト
■『数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』深沢 真太郎(日本実業出版社)
「仕事において、経験や勘は大切なもの。しかし、それだけではうまくいかなくなるときが必ずやってきます。本書では、ビジネスシーンで役立つ数学的考え方をストーリーで解説。仕事での数字力の利用イメージが語られており、数字が苦手な人でも一気に読めるはずです」
■『ヤバい経済学』スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー(東洋経済新報社)
「『銃とプール、危ないのはどちらか?』『相撲の力士は八百長をしているか?』など、興味深いテーマに数字力で切り込む本。「楽しくなければ数字ではない」そんな気分にさせてくれる本です」
■『統計学が最強の学問である』西内 啓(ダイヤモンド社)
「最新の事例と研究結果をもとに、基礎知識を押さえたうえで統計学の主要6分野を横断的に解説するという、今までにない切り口で統計学の世界を案内しています。統計学の世界観が極めてセクシーに語られているのが特徴。統計学の魅力とこれからの世界に与えるインパクトの可能性について惹き込まれる一冊ですね」
鈴木さんの講義をもっと見てみたい方は、こちらまで▶︎▶︎▶︎グロービス学び放題
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