キャリア Vol.684

「ゴールを決めた後の姿」をイメージするのはやめた。23歳・なでしこジャパン選手の“いつも通りのプレー”をするための心掛け

スポーツもビジネスも、勝ち続けるのは困難だ
ビジネスパーソンは、常に目標をクリアしていかなければならない。毎日厳しい仕事に立ち向かうその姿は、1試合の勝利のために練習を重ね、努力し続けるアスリートのよう。ビジネスの世界に通ずる「勝利の哲学」をさまざまなスポーツのプロフェッショナルたちに学ぶ!
籾木結花

女子サッカー選手 籾木結花さん(23歳)

1996年、アメリカ合衆国生まれ。小学校2年生から本格的にサッカーを始め、2009年に日テレ・ベレーザの下部組織、日テレ・メニーナに入団。11年、中学3年生でU-16サッカー日本女子代表に召集され、AFC U-16女子選手権2011に出場。最終戦で日本の優勝を決める先制点を挙げた。12年、高校進学と同時に日テレ・ベレーザに登録。15年、慶應義塾大学に入学。17年ポルトガル開催のアルガルベカップにて、なでしこジャパンデビュー

「○○で優勝する」といった目標を定めるのは、自分に限界をつくることでもある

身長153㎝と小柄な体格ながら、日テレ・ベレーザで背番号10を背負う籾木結花さん。中学3年生でU-16サッカー日本女子代表に召集され、今年の春に大学を卒業した23歳という若さながら、彼女のリーグでのキャリアはすでに9年目を迎えた。

体格差や年齢差をものともせず、常勝チーム・ベレーザのエースとして活躍する一方、女子サッカーの日本代表としても代表戦22試合に出場し、7ゴールと高い決定力を見せてきた。実績を出し続けることができた背景には、「結果に重きを置かない」という彼女の姿勢がある。

「大切なのは“日々”だと考えています。ベレーザは勝ち続けることが当たり前のチームですから、優勝は一つの通過点に過ぎません。それに『○○で優勝する』などの目標を定めることは、自分に限界をつくることでもある。選手としてより上を目指すためにも、毎日成長していくことに重きを置いています。新しいことに挑戦して、できるようになるのは楽しいですしね」

籾木結花

常勝チームで、しかもエース。さぞやプレッシャーも大きいのだろうと思いきや、「どの試合もすごく楽しみ」と表情は明るい。

「『代表戦などの大きな試合と日頃の試合で、責任の重みが違うのではないか』という質問をよくされますが、私としてはどの試合も同じようにワクワクしています。いつでも相手のサッカーに対して、自分がどんなプレーをするかという一点にだけ集中しているから、プレッシャーを感じたり、緊張したりすることもありません」

目の前のことに集中する姿勢は、チャンスボールが来た時や、キーパーと1対1の状況でシュートを打ち込む瞬間も同様だ。

「“ゴールに入れること”を前提に、その目的をどう達成するかに集中するように心掛けています。以前は『ここで自分が決めたらヒーローになれる!』と、ゴールを決めた後の姿をイメージしていましたが、『このボールに対して、どういう角度で打てばいいのか』を考える方がうまくいくんですよ」

シュートを決めた時、何を考えていた?
自分の感情を知ることがポジティブな思考回路につながる

こうした考え方の背景には、なでしこジャパンのメンタルトレーナーのセッションを受けたことが大きく影響している。

「シュートを外した時の頭の中はどうだったか、決めた時には何を考えていたのか。自分の行動が、どういう感情とつながっているのかを振り返るうちに、『こういう感情を抱くと、マイナスな結果になる』など、自分のことが分かるようになってきたんです。その時々の“自分の感情”に気付くことが、ポジティブな思考回路をつくることにつながると知りました」

どんな状況でも、いかなるハプニングが起こっても、いつも通りのプレーをする。そのために、ジンクスや験(げん)担ぎを意識するのも止めた。

籾木結花

「以前は、どちらの足からグラウンドに入るかを決めていたんですよ。でも最近、それができなかった試合があって、『験担ぎをすると、自分のプレーがダメだった時に、そのせいにしてしまうかもしれない』と思いました。試合前の時間をいつもと同じように過ごせるとも限らなくて、例えばバスが渋滞で遅れることだってある。そういう時も『ギリギリまでイメージトレーニングできる』と他の選手の好プレー映像を見るなどプラスに捉えて、何が起きても平常心を保てるように心掛けています」

2017年12月の代表戦から3度の肉離れを起こし、半年間の休場を余儀なくされた時もまた、「こんなに長く休める機会はないから、やりたいことに挑戦できるチャンス」と前向きに受け止めた。

「この期間に体の使い方を見直せば、さらに強くなれると思いましたし、半年のリハビリ期間に自分を見つめ直したことで分かったこともたくさんあります。当初は焦る気持ちもありましたが、不安や後悔といったマイナスな感情が生まれることが間違っているわけじゃない。むしろ、その感情にどうアプローチし、良いプレーにつなげるかが大事なんだと思います」

「選手として頂点を目指す」だけでは視野が狭くなってしまう気がする

半年間の休場期間を経て、籾木さんは新たな挑戦をした。INAC神戸レオネッサ戦の集客プロデューサーを担ったのだ。

「2011年のワールドカップ優勝で女子サッカーの観客数は一気に増えましたが、その後は年々減っている状況。私は大学で経済やビジネスについて学んでいたので、『女子サッカー界の常識とはまた違う考え方で、集客にアプローチすることもできるのでは?』という思いがありました」

集客プロデューサーとなった籾木さんは、選手との集合写真撮影を特典にするプレミアムシートや、選手がデザインしたグッズの販売を企画。試合に出られない期間のホームゲームでは、自らグッズの売り子も務めた。

「ファンの方たちと直接触れ合うことができましたし、SNSを通じて、男子サッカーやその他のスポーツ界の方からも反響があったのはうれしかったですね。女子サッカーに関わる人の意識を、少しだけでも変えられたのかなと感じました」

この経験によって、“選手として”以外の大きな目標もできた。

「選手としては頂点を目指し、自分のプレーを突き詰めていきたい。でも、それは自分を尖らせていくことでもあって、視野を狭めることになるかもしれないと考えています。ですから同時に『女子サッカー界を変えていく』ことも目標に掲げ、サッカーとはまた違う世界からの刺激も受けていきたいですね。並行して挑戦を続けていけば、そこからさらなる強さにつなげることができると思っています」

籾木結花

3月に大学を卒業し、この4月から新社会人となった籾木さん。これから目指すのは、「女子サッカー界の新しいロールモデル」になることだ。

「女子サッカー選手は、サッカーだけでは食べていけないのが現状です。仕事との両立を美談として取り上げられることも多いけれど、一般の社員よりも仕事の負担を軽くしてもらっているところもあるように感じています。仮に“サッカーと仕事の両立”を一つの価値として発信するなら、サッカーはもちろん、仕事でも結果を残せる存在になることが重要。この先、私自身がそのロールモデルになって、女子サッカー界全体を巻き込んでいければと思います」

取材・文:上野真理子 撮影:柴田ひろあき 編集:天野夏海


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