キャリア Vol.702

前田裕二がSHOWROOM誕生秘話を明かす! 会社員時代の失敗から学んだ、事業の成功条件

教育改革実践家の藤原和博さんが、経営のプロフェッショナルをゲストに迎え、「働く力」について考えるtypeの動画コンテンツ「10年後、君に仕事はあるのか?」。第二回目のゲストは、“夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム『SHOWROOM』を運営する前田裕二さんだ。

動画配信アプリ収益国内No.1を記録し、大ヒットサービスに成長した『SHOWROOM』。今の成功に行き着くまでに、前田さんはどんな道を歩んできたのだろうか?

記事前半の本記事では、『SHOWROOM』の誕生秘話と、前田さんが事業を成功に導く上で大切にしている考え方を教えてもらった。

※この記事は「typeオリジナル キャリア動画」を一部編集の上、テキスト化したものです。

前田祐二

SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二さん

1987年生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券株式会社に入社し、11年にUBS Securities LLC(ニューヨーク勤務)へ異動。13年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。“夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム『SHOWROOM(ショールーム)』を立ち上げ、15年に当該事業をスピンオフさせSHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受けて合弁会社化。著書に『人生の勝算』(幻冬舎)『メモの魔力』(幻冬舎)がある

新規事業が1カ月で終了。「心の拠り所がない事業」は失敗する

藤原

多くの人が知っているエピソードですが、前田さんは小さい頃からとても苦労されてきたんですよね。何とか食っていくために小学生でギターの弾き語りを始めたけど、なかなかうまくいかなかったと。ストリートで一生懸命歌っているのに、誰も振り向いてくれないし投げ銭もこない、という日々が続いたんですよね。

※注……前田氏は8歳で両親を失い、10歳離れた兄と各地を転々とした後、親戚の家に引き取られた。小学生時代、少しでもお金を稼ぎたいとギターを必死に練習し、路上で弾き語りをしていた

藤原

その後は大学で、いろいろな事業計画をつくっていたと聞きましたが、その中に今の『SHOWROOM』に繋がるものがあったんですか?

前田

当時、SHOWROOMのようなものは全然浮かんでいませんでした。今はインスタのストーリーみたいな短尺な動画が流行ってると思うんですけど、それのもうちょっとクローズド版みたいなものを構想していて。基本的に友達だけが見られるようなコミュニティーで、10秒以内くらいの動画がさらっとタイムラインで見られて、なおかつそこにコメントを付けられる、みたいなことを考えていました。

藤原

その「動画」というアイデアの中から、「誰もがスターになれる仮想ライブ空間」というジャンルに絞っていくわけだけど、それはいつ頃のことなんですか?

前田

2013年の5月から7月の間に起きたことなんです。僕は13年の5月にディー・エヌ・エーに入社して、「一個事業を立ち上げてごらんよ」と言われていて。で、さっきの動画サービスみたいなものを作ったんですけど、全くピクリとも受け入れられずに終わりました。それを立ち上げたのが6月の終わり頃でしたが、1カ月以内に潰して、次のサービスである『SHOWROOM』を作りました。

藤原

その最初のサービスは「これはダメだ」ってすぐに諦めたということ?

前田

そうなんです。この時すごく大切なことに気付いたので、ぜひお伝えしたいんですけど。僕は「事業のつくり方は二つある」と思ってるんですよ。

藤原

二つというと?

前田

一つは外を見てつくる、もう一つは内を見てつくるということです。外を見てつくるっていうのは、「Hotワード」とか「熱い業界」の市場性を見て、儲かりそうな分野で事業を立ち上げるということ。そのときは短尺な動画が世間で盛り上がってきているから、この領域で事業をつくれば上手くいくんじゃないかって思ったんですよね。僕の今までの人生の経験とか想いなんかは全く関係なくて、「儲かりそう、人気になりそう」だからという理由で立ち上げてしまったんです。

藤原

最初のサービスは、外部的な要因で立ち上げちゃったと。

前田

そうなんです。やってみてから気付いたんですけど、事業をつくるってことは、嫌なこともたくさんあるし、意地悪もたくさんされるし、立ちはだかってくる壁をどうやって乗り越えていくかのゲームなんですよね。そんなときに、拠り所になる自分自身の強い思いとか熱量がないとやっていけないんです。つまり自分の内から湧き出るエネルギーに沿って事業を立ち上げていかないと、絶対にうまくいかないと気付きました。事業は「内を見てつくる」ことが大事だと。そしたら僕の中でやることは、『SHOWROOM』しかありませんでした。

前田祐二
藤原

やはりそれは、自分が小学生でストリートで弾き語りをして、投げ銭で食っていきたかったという体験が効いてるの?

前田

めちゃくちゃ効いてますね。幼少期の体験もそうですし、21歳の時に初めてインドに行って、価値観が揺さぶられた経験も効いています。

藤原

インド?

前田

インドで脚のない少年がドラムを演奏しているのを見たんです。「脚がないけど残された2本の腕で俺は生きていくんだ」という姿を見たときに、すごく感動して。その時に、世の中の「逆境」には、後天的にどうしようもないことあるけど、努力で乗り越えられることもあるんだって気付きました。当時の僕はお父さんがいなかったとかお母さんが亡くなってしまったとか、自分の中で「なんて不幸なんだ」と思うことがたくさんあったんですけど、その価値観が一気に覆されましたね。

藤原

その経験が、原体験になったと。

前田

運命や外部要因で何か不利な状況にいる人が、後天的な努力でその状況を乗り越えて、有利な環境に生まれた人よりももっと高みに登れるような仕組みをつくっていきたいって、そのときにすごく思いました。

「スターの再定義」で、幸せの総量を増やしたい

藤原

エンタメ領域に絞ったのはなぜ?

前田

僕が一番関心の高い分野でしたし、エンタメってまさに熱量がある領域なんですよね。音楽で食べていきたい、アイドルになりたい、芸人として生きていきたい。そういう熱い想いはあるけど、マーケティングの手法だったり、正しい努力の方法が見極めきれずに10年、15年と時間を費やしてしまう人がたくさんいるなと。

藤原

歌手になりたいと田舎から出てきて、竹下通りをぶらぶら歩いて「スカウトされないかな?」っていうのは違うと。

前田

その竹下通りをぶらぶらする5~6時間があったら、その間に『SHOWROOM』をやってもらえたら、少なくとも3000人ぐらいに見てもらえる。その3000人のうち10%でも自分のファンに転換したら300人になります。その300人のうちの10%が実際にライブに来てくれたら、その小さいライブ配信でも黒字ですし、興行として成立しますから。

藤原

そう考えるとすごいね。

前田

僕らはそういう小さなコミュニティーを増やして、新時代の「スターの再定義」をしていきたいと思ってるんです。

藤原

スターの再定義?

前田

僕らが「こういう形も、スターなんだよ」ということを再定義していけたら、パフォーマーは「自分は大事な存在なんだ」と感じられて、幸せになると思ったんです。例えば今『SHOWROOM』で1000人ぐらいのファンを喜ばせる人っていうのは、旧時代的な文脈で言うとスターではない。でもその1000人を絶対的に幸せにしているんです。そういう「スター」を増やしていきたいと思っていて。

藤原

確かに、新しい形のスターだね。

前田

しかも、その1000人の幸せを積み重ねていけば、「ニッチな幸せコミュニティー」が無限に広がっていきます。結果として「100万人が薄く幸せ」でいるよりも深い幸せができて、社会全体で大きな総量の幸せをつくれるんじゃないかと思っているんですよ。

藤原

それはそうだね。小さな幸せコミュニティーを増やす、それが仮想空間なら可能になるわけだ。

前田

はい。一人に100万人のファンがいるのではなく、一人に100人の濃いファンがいるコミュニティーが1万回積み重なっているイメージです。同じ100万人だけど、どっちの方が幸せの総量が大きくなるかっていうと、後者になるんじゃないかと思うんですよね。

本記事の動画はこちら

後半では前田さんが、SHOWROOMを舞台に活躍するパフォーマーたちから学んだ「共感を引き付ける力」について紹介します!

企画・撮影協力/(株)ビジネス・ブレークスルー


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