キャリア Vol.701

25年以上ビジネスの最前線を走ってきた男が教える「なんとなく将来が不安」な20代が今すべきこと

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目の前の仕事を必死にこなす毎日に、ふと「このままで本当にいいんだろうか?」と不安になることがある。果たして自分に力はついているのか、このまま進んだとして将来はちゃんと活躍できる人になれるんだろうか、と。

そんな漠然とした不安を抱える20’sに、「20代は焦らずに、学びに時間を使えばいい」と語るのが、太陽光発電システムの施工販売等を行うエーピーシーメンテナンスの生津賢也さんだ。

生津さんは英語と中国語を駆使して海外の現地法人で長く経営に携わってきた、経営のスペシャリストだ。20代のほとんどを、“学び”に費やしたからこそ、30代でグローバルに活躍し、50代の今は「自分が心からやりたいと思える、社会的意義のある仕事に携われている」という。

世界を飛び回りさまざまなビジネスの現場を見てきた生津さんに、20代が力を付け将来飛躍するためにはどうすればいいのか、自身の経験をもとにアドバイスをもらった。

一般社団法人 ソーラーシェアリング協会 エーピーシーメンテナンス 参与 生津賢也さん

一般社団法人 ソーラーシェアリング協会
エーピーシーグループ 経営アドバイザー
生津賢也さん (Mr. Kenya IKUTSU)

証券会社でトレーダーとして活躍した後、25歳でマイアミ大学の日本語講師に転身。その後中国留学を経て、シンガポール、中国、マレーシア等のアジア各国で企業のターンアラウンド及び経営に携わる。2018年よりエーピーシーメンテナンスに参画

人生を楽しく生きている人は、「20代で勉強」している

自分の過去を振り返ると、経営指南でお世話になっていた三枝匡さん(ミスミグループ元代表)に言われた言葉がとてもしっくりくるんです。

それは「20代は勉強、30代は経験、40代で蓄財して、50代で花を開かせる。これは古今東西を問わずに、人生で成功している人のパターンだ」ということ。

私の場合は、20代でアメリカに渡り、英語を使ったコミュニケーション力を身に付けた経験が、その後のビジネスでの武器となりました。

私は大学卒業後に証券会社でトレーダーの仕事に就きましたが、「いつか海外で暮らしたい」という夢をずっと抱いていて。入社して3年ほど経ったある日、アメリカ・オハイオ州のマイアミ大学が日本語講師を募集していることを知ったんです。トレーダーとして働くよりも自分の夢を叶えたい気持ちの方が強く、25歳のときに渡米を決意しました

しかし典型的な中西部の都市であるオハイオ州では人種差別が当たり前にあって、例えば大学のカフェテリアであっても、白人男性は日本人の私の横には座らないほど根深いものがありました。そんな状況で日本人の私が教壇に立って授業をしても、白人ばかりの学生が真剣に聞いてくれるわけありません。

当初教壇に立って英語で授業を展開する段においては流石に緊張しましたが、「せっかく憧れのアメリカに来たんだし、自分がやりたいことはここにある。逃げ出すわけにはいかない」と思って、学生に授業を聞いてもらうにはどうすればいいかをひたすら考えました。

まず学生を引き付けるために漫談を絡めたトーク手法を学び、楽しんでもらえるような授業になるよう試行錯誤を繰り返しました。その結果、最終的には白人の学生たちを笑わせながら、自分自身も楽しく授業ができるようになりました。

生津

それから中国に渡って中国語を習得し、30代以降はシンガポール、中国、マレーシアなどのアジア各国で企業のターンアラウンド、経営に携わってきましたが、海外のビジネスは私の想像を超える修羅場ばかりでした。支払いを渋っている現地の有力者のところへ売掛金の回収をしにいくと、まず机の上に銃を置かれて威圧されるんです。そして「庭をちょっと散歩しないか」と誘われて一緒に行ってみると、何匹ものドーベルマンに私の周りをうろつかせて、度胸を試してくるなんてことも(笑)

それでも折れずに「どうすればビジネスをうまく進めることができるか」を必死に考えて実践すると結果はついてきて、その後もさまざまな企業の経営に携わらせてもらえました。

そして49歳のとき大村(エーピーシーメンテナンス代表)と知り合ったんです。彼は農地で太陽光発電を行うソーラーシェアリングの普及に力を入れていて。地球環境に優しい太陽光発電の仕組みや、ソーラーシェアリングで農家を経済的に支えることができるという事業の意義深さを感じました。きっとこの会社は、これからの社会を支えていく。そう感じられたから、エーピーシーメンテナンスに参画することを決めました

「何を学ぶか」のヒントは“リトルホンダ”にある

私は20代で勉強をし、頭を使い、さまざまな経験を積んでこれたからこそ、30代では「ビジネスの修羅場」の最前線に立てた。そして30代の経験があったからこそ、40代で蓄財ができたし、50代に入った今、自分が本当にやりたいと感じた社会的意義のある事業に携わることができています。 振り返ってみると、三枝さんが言っていた通りに自分が歩んできたことに驚きますね。

生津

とはいえ「20代は勉強することに費やそう」といっても、そもそも何を勉強すればいいのか分からない方も多いと思います。そういう方は、まず自分の心に「今この瞬間、自分が本当にしたいことはなんだ?」と聞いてみること。そして、それができる環境に身を置くことで、取り組むべき課題が見つかってきます。

サッカーの本田圭佑選手が「ACミランでプレーがしたいと、リトルホンダが言った」と発言して話題になりましたよね。彼は何かを決める時に、“リトルホンダ”に聞いてから決めると。それと同じで、自分の本当の思いは、自分の心の中にすでにあり、それを聞いて物事を決めることが大切なんです。

私も同じ考えで、何かものごとを決めるときは自分のインナーチャイルド(大人になっても心の奥底に存在している幼い頃の記憶や感覚)の声を聞くようにしてきました。だからこそ20代で安定した会社員生活を捨てて渡米できましたし、本当に自分が心からやりたいことだったからこそ、人種差別や逆境に心折れずに必死で努力し、工夫し、本気でやるべきことに取り組めたんだとも思います。

頑張れないのも、後悔するのも、「自分の心の声」を聞いていないから

自分の心の声を聞くなんて簡単なことじゃないかと思うかもしれませんが、「インナーチャイルドの声が聞える」人はほとんどいないと言われているそうです。それは、インナーチャイルドの声を聞く前に決断してしまうから。だから決断して行動したあとに、「これは本当にやりたいことじゃなかった」という後悔が生まれてしまうのです。

心の声を聞くためには、「これが本当に自分のしたいことなのか」と何度も自問自答して、時間をかけてひたすら考え続けるしかありません。そうやって聞こえてきた心の声に従えば、おのずと必要な学びを得るための努力ができる。

生津

そうやって自分の心の声をしっかり聞き、その声に従って学び、成長したいと思う若手とは、ぜひ一緒に働いてみたいですね。弊社のソーラーシェアリングはこれからさらに伸びていくベンチャー事業で、「この通りにやればいい」という教科書がありません。自分で考えて、工夫してプロジェクトを推進していく必要があるからこそ、さまざまな学びや経験が得て、成長できる機会がある。

人は誰しも初めから能力を持っているものですし、「これがやりたい」という気持ちがあれば自然と自分で学ぶものだと思っています。ですから、私は「若手の教育」なんておこがましいことを言うつもりは毛頭ありませんが、その人が望む学びや成長を叶えられるような、面白い仕事ができる機会はたくさん用意してあげたいですね。

改めて、私が後悔のない仕事人生を送れているのは、常に自分の心に従ってきたから。20代の皆さんには、いつどんなときも自分の本当の想いに耳を傾けて、その声を忠実に具現化していくことを忘れないでほしいなと思います。そうやって20代で「とことん学ぶ」経験をすれば、必ずその先には豊かな未来が待っているはずです。

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取材・文/安藤記子 撮影/吉永和久 


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