キャリア Vol.709

「こんなもんでしょ」が成長を阻害する――“LINEのスマートポータル”をリードする元銀行員に学ぶ、20代でやるべきこと

20代のうちにコレやっとけ!
デキるビジネスパーソンになるために、どんなことを今すべき?そんな疑問を解決すべく、さまざまな業界で活躍する先輩たちに「20代でやっておくべきこと」を聞く!

約8000万の国内月間アクティブユーザー数を誇るLINE。日本人のほとんどが利用しているこのメガサービスが今、証券・保険・銀行・投資など、金融事業領域でビジネスの拡大を急いでいる。その中核を担うのが、LINE Financial株式会社だ。

同社の立ち上げに参画し、現在、経営企画室でFintechビジネスの開発を率いる奥中綾さんは、メガバンクの出身。銀行を飛び出し、日本有数のネット企業で「新時代の金融ビジネス創出」というビック・プロジェクトに携わるようになった。

「私が今やろうとしてるのは、『Fintech時代の新しい経済インフラ』をつくること。モバイル決済、保険や投資、資産管理など、金融や経済に関わる全てをLINEで統括できるようにしたいと思っているんです。まだ準備している段階ではありますが、お金に関することの全てがスマホ1台で完結するような便利なサービスを作り、自分がゼロからユーザーの生活を変えていくんだと思うと、これからの成長が楽しみで仕方ありません」

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LINE Financial株式会社 経営企画室 経営企画チーム 奥中 綾さん(36歳)

大学卒業後、2005年に三井住友銀行に入行。法人営業部、調査部、M&A部門を経て、13年『Asia Business Leader Project』のメンバーに選出。フィリピン、マレーシア赴任を経験した。帰国後、ベトナムでの決済サービスプロジェクトの立ち上げに携わった後、17年にボストン コンサルティング グループに転じる。18年、LINE Financialに入社

LINEが経済のインフラになる。プロジェクトが成功した暁には、その社会への影響力は計り知れない。そんな一大事業に30代で挑戦することになったのは、新卒で入行した銀行で、金融に関する見聞を深めた経験が大きいという。

「私が新卒でまず配属されたのは法人営業部。さまざまな業種の企業に融資や運用提案を行う部署です。それ以降も、行内向けに業界動向をレポートする調査部、法人顧客に資本政策やM&Aなどを提案するコーポレート・アドバイザリー本部など、入社から数年で本当にいろいろな仕事に携わらせてもらいました。特に世界を飛び回る投資ファンドの方たちとの仕事はとても刺激的で、私も海外で見聞を広げたいと思うきっかけになったんです」

そしてちょうど29歳のタイミングで、海外赴任を経験。フィリピンとマレーシアの大学でMBAプログラムを受講しながら、現地の銀行での業務を行なうことになった。

「海外赴任の経験は、一般的な日本の金融システムしか知らない私にとって、視野が一気に開けるような感覚がありました。金融と一言でいっても、国や文化によってさまざまなサービスがある。金融の分野にはこれからもいろんな可能性が広がっていると感じましたし、日本でだってまだまだやれることがたくさんあると思ったんです」

もっと金融の力で、社会の可能性を広げていきたい。そう考えるようになり、現在のLINEへのチャレンジを決めたのだ。

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社会を変えるビッグ・プロジェクトの先頭に立つ
センパイが教える3つのシゴトハック

「LINEで金融の経済圏をつくる」――そんな一大事業を率いる奥中さんが自身の20代を振り返って思う「20代でやっておくべきこと」とは何か? そこには、「いつか社会に大きなインパクトを与えるような仕事がしたい」と考える20代へのヒントが詰まっていた。

1.チームでフォローしあうために「できる/できない」を明確にする

20代は新しい仕事や環境に挑む機会が多かった奥中さん。初めて取り組む業務をパーフェクトにこなせない自分のふがいなさに、泣き出しそうになることもあった。しかしある日先輩に言われた一言がきっかけで、「自分一人が完璧である必要はない」と思えるようになったという。

「先輩に『何でもパーフェクトにできたら面白くないんじゃない? 一人でできる仕事なら、皆でやる意味なんてない』と言われたんです。お互いに得意なことも、できないことも明確にして、力を合わせた方が、大きな成果を出すことができると教えてもらいました」

それからは、「私はこれができる/これができない」とチームの人に明確に共有するようになった。するとメンバー同志で自然とお互いをフォローし合い、目標に向かって最短距離で進めるようになったという。

「この方法は、海外で働くときも役立ちました。例えば『マレーシアの商習慣が分からない』けど『銀行の知識はある』と事前に伝えておく。すると私が何か案件を進めているときに周りのメンバーが『これはマレーシアの商習慣に関わる話だから、彼女はきっと分からないはず』と気付いてアドバイスをくれたりするんです。逆に得意なことに関しては『この案件は奥中ができるはず』と仕事を任せてもらえる。それはLINEにきてからも一緒で、私は金融のことを、LINEのメンバーはWeb業界のことをお互いにフォローし合うことができています」

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2.「足りないものだらけ」の環境に身を置く

人・モノ・金……リソースが足りない環境では、仕事がうまく進まず、やる気を削がれてしまうことも珍しくない。しかし奥中さんは「恵まれない環境にいるときこそ、またとない成長機会ですよ」と笑った。

「リソースが豊富にあって何でも簡単に揃ってしまう環境が、必ずしも個人の成長に良い影響を与えてくれるとは限りません。私の場合は、大手にいながら人手が足りない部署にいたり、海外の整備されていない環境にいたことで、かなり力がついたと思っています。手持ちのリソースをフル活用して目標を達成しようと頭を使いますし、行動の量によって差異を埋めようと努力する。そんな経験ができたからこそ、今立ち上がったばかりのLINE Financialでも工夫と努力次第でどんなことでも叶えられると、前向きに仕事に取り組めているんです」

3.「今あるサービスより良いもの」を作るために、業界知識を深めておく

20代に銀行で働いていた経験を生かして、今の事業を率引している奥中さんだが、「銀行にいたときに、もっと金融のことを勉強しておけばよかった」と思うこともあるのだとか。

「当時は目の前の仕事に精一杯だったから気付けなかったけれど、もう少し腰を据えて金融行政や金融施策の本質について、理解を深めていたらよかったと思うことがあります。今Fintech領域で新しいビジネスを立ち上げていますが、現状の仕組みがどうなっているのかを知らずに、既存の枠組みを壊してイノベーションを起こすことなんてできませんから。その業界で、自分のキャリアをスケールさせていきたいと思うなら、経験ややる気だけでは足りない。絶対に業界の深い知識が必要になってくるんです」

「私の能力、こんなものなのかな」と思った瞬間に、成長は止まる

自身の20代を振り返って「やりきったなあという感じです」と笑う奥中さん。その根底には「自分で限界を設定することなく生きてきた」という自負がある。

「予想もしなかった環境に置かれることも多い20代でしたが、チャレンジする度に何段階も上のステージに上っていけるような感覚がありました。『私の能力、まぁこんなものなのかな』って、自分で勝手に限界をつくって止まってしまっていたら、今の私にはなれていなかったと思うんです」

そして奥中さんがこれまでに自分にとってプラスになるさまざまな経験を積むことができたのは、「チャンスを自分から引き寄せたから」だと続けた。

「私は今までのキャリアで、本当にいろんな経験をさせてもらいました。それは私が、できるかも分からないのに『海外に行ってみたい』とか『こんな仕事がしてみたい』って、言い続けてきたからだと思っていて。そしたらポジションが空いたときに『そういえば奥中がやりたいって言ってたな』と思い出してもらえることが増えていったのだと思います」

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若手の中には「もっと実務スキルを磨いてから主張しよう」、「まだ年も若いし、自分のやりたいことをいうのは憚られる」と思って発言できない人も多いはず。そんな20代に「自分が思ってるよりも、仕事には熱量が大事なんですよ」とアドバイスをくれた。

「仕事って経験やスキルよりも、熱量が重視される局面がいくらでもあるんです。だから20代で『経験がないから』と自分で線引きをしてしまうのは、とてももったいないこと。『しつこく言い続けた』人が、自分のキャリアを切り拓くチャンスが与えられるんだと思います」

30代になった今でも「自分で限界をつくらない」という姿勢は大事にしていきたいと話す奥中さん。これからはLINE Financialで、「生活に身近なサービスで、経済を支えていきたい」と壮大な夢を語ってくれた。

「『もっと、もっと』って能動的に動けば、良い経験を積めるチャンスはいくらでも広がって、いつか自分が行きたい場所にたどり着くことができます。それはLINE Financialのサービスも同じで、今は壮大過ぎる夢だと思われるかもしれませんが、限界なんて絶対にないはず。やりたいことを声に出し続けて、動き続けていけば、必ずこの大きな夢が叶うんだって信じています」

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子(編集部)


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