26歳営業マンがはまった「残業なし求人」の落とし穴ーー転職のプロが解説するブラック企業の見分け方
28歳(男性・年収380万円)伊藤さんのケース22歳大学卒業後、自動車部品メーカーに営業として就職(年収350万円)
26歳 医療機器メーカーの営業に転職(年収350万円)
28歳 物流会社に事務職として転職(年収380万円)
転職活動期間:5カ月
希望条件:残業が少ないこと、通勤時間60分以内
妥協した条件:前職と給与が変わらない
応募社数:30社、書類選考通過:10社、1次面接通過:3社、内定社数:1社
朝7時出社に22時退社……心身共に疲れきって転職を決意
大学を卒業後、新卒で自動車部品メーカーに営業職として就職した伊藤さん(仮名)。「メーカーなら納品のスケジュールも事前に決まっているし、毎日コツコツと適度なペースで働けるはず」と思っていたが、実際には毎日5時間以上の残業を課せられる過酷な環境だった。
「毎朝7時には出社して、夜は22時近くまで残業。どんどん集中力がなくなっていくのが自分でもよく分かりました。それに加えて、上司から『バカ』『ボケ』などと暴言を浴びせられるんです。心を無にしなければ毎日を乗り越えることができなかったですね」
それでもせっかく入社したのだからと3年間は我慢したものの、職場環境は一向に改善されなかった。ついに転職を決意したが、転職活動はなかなかうまく進まず、期間は5カ月ほどかかったという。
「前職が意外と世の中的には良い待遇だったようで、それより条件の良い求人をなかなか見つけることができませんでした。良さそうな求人を見つけても、書類選考にも通らない日々が続くことに焦ってしまって。最後の方は、給与が同じで残業さえなければどこでもいいと思うようになっていました」
5カ月間で30社ほどに応募するも、書類を通過したのは10社。最終的な内定は1社。短期間のうちに数社受けて転職先が決まることの多い昨今、伊藤さんはかなり苦戦した方だといえる。
「残業なし」という求人票の言葉につられて、“失敗転職”に
結局、唯一内定をもらった医療機器メーカーへ営業職として転職することになった伊藤さん。転職を決めるにあたり何より惹かれたのは、求人票に記載された「残業なし」という条件だ。「前職が不本意な残業だらけだったので、今度こそは残業のない生活を、と思っていた」というが、そんな理想は入社してすぐに砕かれた。
「初出勤の日、私自身は定時の18時に帰宅できましたが、オフィスを見渡すと他の社員は皆残業していたんです。これはおかしいぞ、と思いましたね。そして私にも残業が課せられるようになるまでに、そう時間はかかりませんでした。それからは21時くらいまで残業をするのが当たり前になったんです」
入社してすぐに、求人票の「残業なし」を鵜呑みにしてしまった自分の甘さを反省したという。
「残業がないなんて全くの嘘で、実際は毎日3時間以上の残業がありました。他の社員は皆当たり前のように残業していたので、私だけ早く帰るわけにもいきません。空気を読んで、一緒に残業する他ありませんでした」
結局、勤め始めて2年ほどで再び転職することに。転職先が決まらないことに焦って転職先を決めてしまったことを、伊藤さんは今でも悔やんでいる。
「残業のない会社に行ったら平日に美味しいお店を巡ったり、趣味に費やす時間に使おうと楽しみにしていたんです。でも結局、2社目でも深夜まで残業することが多かったため、それは叶わぬ夢となりました。そのせいで2年間を棒に振ったような気持ちですし、新たに転職活動をしても面接では必ず短期で離職した理由を聞かれてしまいます。2社目の転職先は、もっと慎重に見極めればよかったなと後悔していますね」
残業の実態は、「オファー面談」で確認せよ!
type転職エージェント キャリアアドバイザーからのアドバイスをCHECK
では、今回のケースを「失敗転職」にしないために、伊藤さんは何をすべきだったのか? type転職エージェントのキャリアアドバイザー・梅田翔五さんに話を聞いた。
type転職エージェント キャリアアドバイザー 梅田翔五さん新卒で大手製薬メーカーに入社。その後、ベンチャー企業にてWEBコンサルティング営業に従事する中で「モノ」や「サービス」ではなく、関わる『ヒト』に1番興味・関心があることに気付き、type転職エージェントのキャリアアドバイザーへ。数多くの転職者を転職成功を導き、現在はインダストリマネージャーとして、転職者へのキャリアアドバイスだけでなく、営業領域を担当するキャリアアドバイザーのマネジメントも行っている
「伊藤さんのケースは、求人票の内容をそのまま信じて企業への確認を怠ってしまったために、入社後に大きなギャップを感じてしまった例ですね」
今回のように「残業がないと言ってたのに、実際には残業があった」とがっかりする人は多いのだとか。とはいえ、まずは「残業のない仕事なんてほとんどない」という前提で転職活動を進めた方が良いと梅田さんは続ける。
「どんな仕事でも急に発注が殺到して仕事が忙しくなったり、退職者が出て一時的に人員が足りずに業務が増えたりすることはあり得ます。もし思わぬ残業に遭遇したら、『騙された!』と早合点する前に、それは慢性的な残業なのか、一時的な残業なのかを見極める必要があるでしょう。あるいはそれでも絶対に残業したくないという場合は、シフト制の職場を検討しても良かったかもしれませんね」
とはいえ伊藤さんのように「残業なしと聞いていたのに、毎日3時間以上の残業があった」というのは、さすがに極端なケースだろう。そんな「求人票と実態の違い」を確認するためには、最終面接を通過してから、「内定承諾前のオファー面談」を人事にお願いしてみると良いそうだ。
「選考途中に『残業はどのくらいありますか?』と聞くと、面接官によっては『やる気がないのかな?』、『急に忙しくなったときに手伝ってくれない人なのかな?』と捉えられてしまう可能性があります。そのため、できれば最終面接が通過して内定承諾をする前に、現場の社員や上司になる人との面談の設定をしてもらいましょう。その際に気になることや、社風、仕事内容、残業について聞くといいです。その時には、必ず先ほどお伝えした『残業が発生している要因』も聞くようにして、自分が納得して働けるような環境があるかどうか確認しましょう」
オファー面談を人事にお願いするのは失礼にあたるのでは……と感じる求職者も多いというが、梅田さんいわく「遠慮したりせず、堂々と申し出て大丈夫」とのこと。
「人事としては内定を承諾してもらいたいですから、そのくらいの手間は惜しみません。それでもし面談を断られても、それは『会社の実態を知られたくない』という企業側の後ろめたい気持ちがある可能性が高いです。そういう企業の場合、むしろ内定辞退を考えた方が良いかもしれません。オファー面談の打診は、ブラック企業の判別ポイントにもなるんです」
求人票に記載されている内容だけを鵜呑みにせず、必ず「オファー面談」による現場担当の声を確認する。それが、伊藤さんの転職を「失敗」にしないために大切なポイントだった。
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文/石川 香苗子
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