シェアリングエコノミー活動家・石山アンジュ「まずは日常の場面を100個集めてみて」 新時代的“信頼”のつくり方
今回本特集に登場してもらうのは、シェアリングエコノミー活動家・石山アンジュさんだ。
お金から信頼へ
「豊かさ」の指標が変化
今は頑張って稼いだお金でたくさんのモノを消費し続けるよりも、あらゆるものを誰かとシェアするという消費スタイルが広がっています。フリマアプリを使って必要なモノを安く手に入れたり、ホテルではなく民泊のWebサービスを使うなど、テクノロジーの進化により、個人間で簡単にやり取りできる仕組みがどんどん登場していますよね。昔は企業を通さなければ難しかったものが、今ではプラットフォーム上で、サービスの提供者とそれを求めている人を即座にマッチングできるようになりました。
このように個人と個人が直接つながる時代には、「働く」という概念も大きく変わってくるでしょう。メルカリやAirbnbのように 、使っていないモノや場所だけでなく、自分の趣味を必要な人に提供してお金を稼ぐこともできるのです。実際に、趣味でマンホールのフタを観察していた人が、マンホールツアーを主催して大盛況を博しているといった例もあります。
自分の持っているモノや時間、知識、スキル、経験など、あらゆる資産を使って新しい価値をつくり出す。それを必要な人に届けて対価を得る。テクノロジーが発達したことで、誰もが簡単にサービスの提供者になることができ、個人間のつながりの中で仕事が生まれています。つまりこれからは、国や企業に頼らなくても、個人が主役となって経済を回していくことができるようになるのです。
こういった“シェア”の概念が広がっている背景には、「経済的な豊かさが本当の幸せなのか」という疑問を感じている人が増えていることもあると思います。
私自身、以前に人材系の会社で営業担当をしていた時、景気変動で採用数を減らされる学生や、転勤を命じられて家族と離れて暮らさなければならない社員を見て、個人の自由よりも組織の論理が優先されることに違和感を持っていました。
今までの時代なら大企業に入れば一生安泰で、社会的な地位や収入の高さが、幸せのロールモデルでした。しかし令和に入った今、経済は成熟し、グローバル化が進む中で誰もお金の価値をコントロールできない。利益追求の成功モデルが描けない中で、本当の豊かさとは何か、改めて問い直されているように感じます。
しかも、国も企業もかつてのように自分を守ってくれるわけではありません。多くの人が感じている「何となく不安」「何となく孤独」を埋める機能として、何かあったときに支え合える人と人とのつながりが注目されています。
国や企業に頼らず
自分の評価軸を自分で見つける
私は、これからの時代の本当の豊かさとは、「信頼」だと考えています。いくらテクノロジーが発達したとしても、どれだけ多くの人から信頼や共感を得られるか、そうしたネットワークをいかにたくさん持てるかが、個人が主役になる時代の「幸せのロールモデル」だと思うのです。
例えば外食をする時、口コミサイトを参考にレストランを探す人は多いでしょう。マスコミで取り上げられていなくても、調査機関の格付け がなくても、多くの人からの好意的な口コミが集まっている店は信頼できるのではないでしょうか。
個人についても同じことです。年齢が若くても、大企業に所属していなくても、立派な肩書きがなくても、「誠実に仕事をしてくれて、信頼できる」「能力が高くて優秀だ」という評価をたくさん集める人は、確実に次の仕事が舞い込み、さらにチャンスが広がっていくはずです。それこそが、これからの時代に「人間らしく働く」ということなのではないでしょうか。
そのためには、まずはフリマアプリでモノを売ってみるなど 、今のうちから個人の資産を新しい価値として他人に提供する経験を積んでほしいと思います。個人と個人の接点は昔より多様化しており、人脈力やコミュニケーション能力が特別に高くなくても、人とつながることは、比較的簡単にできるようになってきています。
しかしそれはリアルであろうとオンライン上であろうと、新たに人間関係を構築して、面倒なしがらみの中をサバイブしていくのは 簡単ではありません。どういうバランスであれば、無理なく自分を保てるのか、一人一人が自分にとって一番心地良い境界線をつくっていく必要はあります。
そのためにも大切だと思うのは、自分の中で信頼の指標をたくさん持つことです。なぜなら人 の評価というのは多面的なもので、その指標は一つではないから。
会社の中では部下に尊敬されている営業成績の良い社員も、一歩会社の外に出たら、違う扱いを受けているかもしれない。同じSNSでも、TwitterとInstagramとでは、違う人格に見られていることもあります。
自分の価値観や評価軸なんてよく分からない、という人には「こうありたいと思う日常の場面を100個集めてみてください」とアドバイスしています。例えば満員電車でベビーカーを押しているお母さんを見たときに、自分はどう思うのか。そんな些細な日常の中で「こうなればいいな」という姿を一つ一つ集めていくと、価値観は自ずとはっきりしてきます。
自分の評価軸を見つけるのは、簡単ではありません。でも、自分が一番しっくりくる指標を探すことが、他には代替されない「自分らしい幸せ」を生み出すのだと思います。
取材・文/瀬戸友子 撮影/吉永和久
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