「彼氏に認められたくて社長やってます」メンヘラテクノロジー高桑蘭佳に聞く、仕事と恋の両立
職場に“恋愛のこと”を持ち込むのはご法度――。そんな職場はいまだ多いはず。恋愛がうまくいかなくて仕事にも支障が出たりすれば、「公私混同するな」と怒られてしまいそう。でも、恋が仕事の原動力になることだってあるはず。彼女を見ていると、そんな確信が湧いてくる。
高桑蘭佳さん――通称“らんらん”。メタリックな金色の髪にあどけない顔立ちからは想像もつかないけれど、彼女はれっきとした会社経営者。でも彼女が本当にすごいのは、単に経営者だからじゃない。会社の名前は、株式会社メンヘラテクノロジー。
起業のきっかけは、「大好きな彼氏と四六時中一緒にいるには、彼氏が営む会社の社外取締役に就けばいい」とひらめいたことから。その実績づくりのため、彼女は会社を立ち上げた。
※この記事は姉妹媒体『Woman type』から転載しています。元記事はこちら
寂しがり屋の病み体質で、恋愛依存。仕事にとってはマイナスでしかないハンデさえ武器に変える異色の経営者に、私たちは“もっと自由でいい”と教えてもらった。
「金髪にしとけば、彼氏が浮気したか分かるかなって」
高桑さんはご自身のことを「メンヘラ」(※)だと公言されていますよね。最近メンヘラ的なことをしたなと思ったのは……?
彼氏が仕事終わりに麻雀に行くんですけど、よくその雀荘の前で待っていたりします……。
※「心に何かしらの問題を抱えている人」というような意味合いで用いられている通俗的な表現(インターネットスラング)
行動を監視するタイプの人なんですね。
とにかく彼氏に会えないのが寂しくて。側にいてくれると落ち着くんですけど……。
そもそも会社をつくったきっかけも彼氏なんですよね。
はい。「彼氏に認めてもらいたい」という気持ちだけで起業しました。
昨日、「どうして私を社外取締役にしてくれないの?!」と彼氏と喧嘩して「ちゃんと起業してサービス出せたらしてあげる」というところで落ち着いたので、起業しようと思う。仲間集めしたい。仲間集め…どうやったら仲間集めってできるんだろう。あ、事業案はある。
— らんらん🤖❤️メンヘラテクノロジー (@pascarrr) 2018年7月5日
外見はちょっとパンクな感じですが、性格は内向的?
はい。全然喋れないです。
自分に自信がないタイプですか?
全然なくて。本当、私なんて本当に消えた方がいいと思っています。
そんなこと言わないで(笑)
自分に自信がない分、唯一私のことを認めてくれる彼氏の存在がすごく大きくて。だから、彼氏に認めてもらえないと余計不安になるんです。
じゃあ、彼氏から褒めてもらえることがモチベーションに?
はい。会社のこととかいつも報告して、褒めてもらって、それで何とか続けています。
私に限らず、メンヘラの子は承認欲求をこじらせている子が多くて。髪の色も、最初はこういう色をしていたら興味を持ってもらえるかなというところから始まりました。
今は、家に落ちている髪の毛の色で彼氏が浮気したかどうか分かるので、この色にしています。
ちなみに、今のところ違う色の髪の毛は……?
落ちていないです。
ほっとしました。
「彼氏に認められたい」働く原動力はたった一つ
メンヘラテクノロジーはどんなサービスを展開しているんですか?
今、主力でやっているのは『メンヘラせんぱい』です。
病んだときにチャットで相談できるサービスなんですけど、もともと彼氏がいなかったときに、病むと私は友達に鬼LINEするクセがあって。彼氏や友達の代わりにかまってくれる人をつくれたらいいなと思って立ち上げました。
自分の病み体質をサービスに生かしているところがすごい。経営者になったことでこれまでとは違う承認欲求の満たされ方をしているところってありますか?
アイデアに関して褒められることが増えたんで、そこはちょっと自信を持てるようになりました。でも、褒められているのはあくまでアイデアであって、自分自身はクソだなって思っているので、あんまり変わらないですかね。
事業の出発点は「彼氏に認められたい」という超私的願望からでしたけど、この1年経営をやってみて、事業を育てる意義は変わりました? たとえば、もっと社会貢献に目が向くようになったとか。
いや、そこも変わらないです。苦しんでいるメンヘラの子たちを助けてあげられたらいいなとは思いますけど、モチベーションとしてはまだ全然薄いというか……。
あくまで、「働く意義」は「彼氏に認められること」なんですね。
ですね。ちょっと言いづらいですけど、私はあんまり「働くこと」に社会的意義とか、立派な大義とか、大それたものはいらないかなって思っています。ピンと来ないというか、「世界平和のために」とか言っている人を見ると、「絶対に嘘だろ」って思っちゃいます。
正直だ。
もちろん社会が悪くなるものや、人を傷付けるものをつくったりするのはダメだと思うんですけど、良くなるものを生み出しているのであれば、それ以上は別に……。
やっぱり、私のモチベーションはただ一つで「彼氏に認めてもらうこと」。それだけです。
ブレない。そんなふうにモチベーションが明確だからこそのメリットってあります?
今、ちょうど資金調達を頑張っているんですけど、しんどいことが多くて、辞めたくなることはいっぱいあります。それでも辞めないのは、このまま彼氏に何も認めさせられないまま終わる方が悔しいから。そこはモチベーションがはっきりしている分、強いのかもしれない。
おそらくなんですけど、折衝とかプレゼンとか得意じゃないですよね。
苦手です……、めっちゃ嫌です……、もう辞めたい……。
経営をやってみることで、研究やエンジニアリングをやっていた時には味わえなかった感動を味わえることも……?
ほとんどないです。嫌でしょうがないっていう感じです。
「家族のため」はOKで、「彼氏のため」だと何でダメなの?
日本って公私を分けなさいっていうカルチャーも根強いじゃないですか。高桑さんが会社経営をする動機に眉をひそめる人も中にはいますよね?
いますね。よく彼氏にフラれたら事業を続けるのかっていうことも聞かれます。
実際どうするんですか?
たぶん続けないです。
正直すぎる。
だから、投資家の方からしたらすごくリスクなんだと思います。私が彼氏と別れるかどうかって誰にもコントロールできない問題だから。
確かに、それはリスクと捉えられてしまいますね。
そうです。そういうリスクを抱えているのは事実だし、だからあれこれ言われるのは仕方ないのかなって。
でも、逆に同じメンヘラの子たちからは、自分のメンヘラ気質を仕事に還元する視点はなかったって驚かれたり、真似したいって喜んでもらえたりしていますね。だから、もちろん公私を分けたいという人がいてもいいし、否定はしないんですけど、同じように私みたいに仕事とプライベートがごちゃまぜになっている人もいていいと思う。
両方いていいんじゃないかなって思います。
結婚すると家庭が仕事のモチベーションになるのは正当だし立派って言われるのに、なぜ恋愛の段階だと彼氏や彼女がモチベーションになったりすると眉をひそめられちゃうんでしょうね。
変だなとは思います。職場に奥さんを連れて行くのはOKなのに、彼女を連れて行くと「何アノ人」って言われちゃいますよね。
でも、中には、「社員旅行に彼女や彼氏を連れてきていいよ」っていう会社もあるみたいで、私の友人の会社がそうでした。支えてもらう人は大事だし、その人に自分の仕事や職場のことを理解してもらうのも大事だからって。それはすごくいいなと思って。
もっと家族とか恋愛とか関係なく、プライベートも認めてもらえるようになったらいいのにとは感じますね。
おそらく職場で困るのは、恋愛感情の浮き沈みで、仕事に支障が出ることですよね。ちなみに、高桑さんは気持ちの浮き沈みは……?
すごくあります。
ですよね。
彼氏と喧嘩したら、もう仕事もやりたくなくなります。
それ、どうやって復活するんですか?
Twitterにグチを書いたり、友達に話したり、あとはひたすら寝ます。で、最後は彼氏に「許して」って言って仲直りをしてもらう。
感情のコントロールをできるようになるのが大人とはいえ、したくてもできない人もいますしね。
だから、そういうときは強制的に休めたらいいですよね。私みたいに浮き沈みが激しい人って、沈んでいるときは本当に使いものにならないんで。それをどうにかしろって言われても、無理なんです……。
でも、調子がいいときは、すごいパフォーマンスを発揮したりもするので、そこで挽回すればいいかなと。そういうタイプの人もいるって、認めてもらえるとうれしいですね……。
完璧は無理。苦手なことは「人にお任せしたい」
高桑さんみたいに、気持ちの浮き沈みが激しかったり、得意と苦手が極端だったりする人はいっぱいいると思います。そういう人が社会でうまくやっていくにはどうすればいいでしょう?
苦手なことや分からないことは、人に頼ったらいいと思います。無理に、全部できるようにならなくてもいいんじゃないでしょうか? 私、人に頼るのはすごく得意なんです。できないことや分からないことがあると、すぐ人に甘えます。
できないことって、たとえば何ですか?
電話、メールの返信、日程管理、プレゼン、ミーティングの仕切り役。そういうものは、できる限り、得意な人に全部やってもらいます。メールもどう返していいか分からないものは全部彼氏に読んでもらって、返事を書いてもらっています。
潔い。で、自分の得意なことに全能力をつぎ込む。
そうですね。そこはちゃんとやる。
自分の強みってすぐに見つけられました?
いや、すぐではなかったと思います……。ただ、大学の先生にすごい褒めてくれる人がいて。
私、プログラミングがめちゃくちゃできるわけじゃないんですけど、研究のアイデアが良いって褒めてもらって。そこで「アイデアを考えるのは得意かな」って思えるようになったんです。だから、私みたいに苦手なことが多い人は、とにかく褒めてくれる人の側にいることが大事だと思います。
逆に否定してくる人は避けた方がいい?
そうとも限らなくて。私は自分を否定してくる人に対するイライラで、自分に火が付くタイプでもあるので。それこそ、もっと前は彼氏の仕事関係の人が私のことをすごいディスってきて。「何であんなのと付き合っているんだ」って。そういう人と会うと、「いつか見返す」「認めさせてやる」って思えるんですよね。
褒めてくれる人と、否定してくる人、両方必要ってことですね。仕事をしていると、いろいろなタイプの人とも付き合わないといけないから大変ですよね。
はい、すごくつらいです……。
でも、そんな高桑さんがこんなふうに世の中に注目してもらえるぐらい頑張れているのはなぜ?
彼氏がいるからです。
ブレない。ちなみに、彼氏のどこが好きなんですか?
顔です。
最高です。ありがとうございました!
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
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