鈴木亮平、“大河主演俳優”その次に目指す場所とは?「調子乗るなよって、いつも自分に言い聞かせています」
「キャリアという意味では一回置いて、自分の中で第二章が始まったという気持ちでやっています」
1年4カ月弱に及ぶ撮影期間を経て、大河ドラマ『西郷どん』を終えた鈴木亮平さん。「大河主演俳優」という肩書きは、日本の俳優の中で特別な意味を持つ。その重みと威光を背負い、これからどんなキャリアを築いていこうとしているのか。そんな質問に、鈴木さんは軽やかに微笑んだ。
「あんまり大河主演という経験を引っ張ると、役を選び過ぎるようになってしまう気がして。僕はまだ自分の芝居に満足していないし、もっといろんな経験を積みたい。だから、もったいぶった仕事のやり方はせず、面白いと思った役にはどんどん挑戦していきたいです。調子乗るなよって、いつも自分に言い聞かせています(笑)」
ステータスや成功体験に縛られず、またゼロリセットして歩き出す。言葉にするのは容易いけれど、そう簡単にできることではない。
第二章を歩み始めた鈴木さんの最初の一歩と言えるのが、11月8日(金)から公開の映画『ひとよ』だ。
従来のイメージとはまったく違う姿を銀幕に焼きつけた鈴木さんに聞く、“プロの仕事”とは――。
※この記事は姉妹媒体『Woman type』より転載しています。元記事はこちら
得意なことより、初めて挑戦することに興味がある
子どもたちを守るために夫を殺めた母と、加害者家族として社会から冷たい視線を浴びた子どもたち。映画『ひとよ』は、ある“一夜(ひとよ)”の出来事をきっかけに崩壊した家族の再生のドラマだ。
本作で、鈴木さんは人とのコミュニケーションに苦手意識を持つ吃音の長男・大樹を演じている。背中を丸め、常に人の視線を避けるように顔を伏せている大樹は、『西郷どん』などで見せた生命力溢れる人物像とは対照的だ。
「僕自身は、得意な役をやり続けるより、今までやったことのない役にチャレンジしてみたいタイプ。大樹のような気弱な役をいただく機会はこれまでなかったので、鈴木にこの役をやらせたいと思ってくださった白石和彌監督やプロデューサーの勇気あるキャスティングに感謝しています」
父親からの虐待が心に傷を残し、自らが親となったときに“負の連鎖”に飲み込まれてしまう大樹。その難しい心理を理解するために鈴木さんが取り組んだのは、自身の少年時代の撮影シーンを見学することだった。
本作に限らず、作中に少年時代が登場する場合、子役が演じる現場には出来る限り足を運ぶという。手間もかかるし、時間もかかる。それでも、その労力を惜しまない背景には、鈴木さんの俳優としてのこだわりがあった。
「僕は演じるときに記憶というものを大事にしているんです。例えば、『15年前』という台詞を口にしたとき、頭の中で勝手に15年前の景色を想像しているのと、実際に15年前の様子を自分の目で見るのとでは、後者の方がより鮮やかに浮かんでくる。現場を見ると、より真実に近いものが出てくる気がするんです」
本作では、少年時代の大樹たちが父親に暴力をふるわれる場面が登場する。そのシーンも、鈴木さんはもちろんすぐ側で見つめていた。
「ただ子役の演技を見ているというより、自分がその場で一緒に体験しているような感覚ですね。その経験を自分の中に取り入れることが、僕にとってはすごく大事なんです」
そう真剣に演技論を語ると、ふっと目元を緩めて、「まあ現場を見ると余計なところも見えちゃうんですけどね、あ、殴ってないなとか」と冗談で場を和ませる。知的で、スマートで、ユーモアがあって、サービス精神旺盛。その人柄に、プロの片鱗が垣間見える。
プロの仕事は「準備がすべて」
役に合わせて自在に体重を増減させるなど、鈴木さんの徹底した役づくりにはかねてより定評がある。
「今回で言えば、吃音に関してはインする前にすごくリサーチをしていて。吃音には人それぞれ特徴があって、50音や文節のどこでつまるのか人によって違うとか、そういう基本的なことから全部。先生から指導を受けて、あとは吃音を抱える方々の交流会にも参加させてもらいました」
なぜ彼はここまで真摯に役づくりに取り組むのか。そこには、俳優・鈴木亮平ならではのルールがあった。
「できることは全部する。こうした方がいいと思いついたものは、とにかく何でも。それが、僕が守りたいと思っているプロとしてのルールです」
なぜならば、俳優にとって「準備がすべて」だと考えているからだ。
「僕たちの仕事で一番大事なのは、事前の準備だと思うんです。どれだけしっかりと準備できたかが、仕事の質を決めます。じゃあ、二番目に大事なのは何か。それは、準備したことをすべて忘れることです」
しっかり準備した上で、準備したことをすべて忘れる。なぞかけのような答えだが、この矛盾に見えるものの中に、一流のエッセンスがつまっている。
「危険なのは、準備したものをそのまま持っていって、それに固執してしまうこと。それよりも現場で感じたこと、生まれたものを大事にしたいんです。だから、忘れることは難しいけど、とても重要です。それに、ちゃんと準備したものであれば、全部忘れても必ず本質は残る。そう自信を持てるぐらいまで事前にしっかり準備することが、いい仕事をするために大切なんだと思います」
自分は天才じゃない。だからこそ、努力し続ける
例えば、一流のビジネスパーソンが読書を愛し、インプットを怠らないように。あるいは一流のアスリートが基礎を磨き続けるように。俳優という職業を選んだ鈴木さん自身は、作品と作品の合間で、己を高めるためにどんなことをしているのか。
そう尋ねると、大事にしまった小箱の蓋を開けるように、鈴木亮平らしい哲学が言葉となって溢れ出した。
「役者って人間力がほぼすべて。僕らが『役を入れる容れ物』だとしたら、その容れ物を大きくしていかないと、大きな役を入れられなくなってしまう。だから、器を広げる作業をするようにしています。僕の場合、方法は二つ。一つは、人と会うこと。そしてもう一つは、自分の感情が揺さぶられるような経験をすることです」
人と会うことを大切にするのは、それが成長につながるからだという。まだ自分が知らないこと。まだ自分が経験したことのないこと。人を通じて、そんな未知を自分の容れ物に放り込み、鈴木亮平という器を大きくしていく。
「この間も、すごくいいなと思う女優さんが2人いて。その方がどちらも同じ先生から演技を習っていると聞いて、すぐにつなげてもらいました。先生と食事をしながらいろんな話を聞いて。今はただ話を聞いているだけで、そこでもらった言葉をどう生かしていくかは分かりません。けど、単純に刺激になったし、いつか自分が途方に暮れたとき、この人に相談しようと思える人に出会えた。それは、自分にとってすごく実りのある出来事だったと思います」
ビジネスの世界でも「メンター」という言葉が広く使われるようになった。職種を問わず、前へ前へと進む人間にとって、「標」となる存在の重要性は大きい。
「僕にとって感情を揺さぶられる一番の経験は、良い映画を観ることです。意外と現実の出来事より、そうやって映画で疑似体験した感情の方が強烈に残ったりする。今も時間があるとよく映画は観ますね」
36歳。年齢で言えば、中堅に入った。それでもインプットは絶やさず、常に向学心を持ち続けている。その尽きない貪欲さの根源にあるものは何なのか。
「天才だったら、たぶんそんなことしなくてもいいと思うんですよ。この世界、やっぱり天才タイプというのはいるので。でも、僕はそうじゃないから、常に努力をしないとダメ。だから学ぶ気持ちを忘れたくないんです」
僕は、天才じゃないから。その言葉を聞いたとき、「まだ自分の芝居に満足していないし、もっといろんな経験を積みたい」と熱を込めた冒頭の言葉がリフレインした。当世随一の演技派は、驕りも慢心もまるで知らない。
「だから、何がプロフェッショナルかと聞かれても、正直言えば今はまだ分かりません。少なくとも、何がプロかなんていうのは自分で決めるものではないかなと。周りの人から“あの人はプロだ”と認めてもらえて、初めてプロと言えるんだと思います」
成功体験から鮮やかに脱却し、常に新しい挑戦の場を求め、一切妥協をしない。その姿勢を、プロと呼ばずに何と呼ぶのだろう。たとえ本人がどれだけ謙遜しても、世の中がこう言うはずだ。俳優・鈴木亮平は、まごうことなきプロフェッショナルだと。
取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)企画・編集/栗原千明(編集部)スタイリスト/徳永貴士 ヘアメイク/森泉謙治
映画情報
映画『ひとよ』 公開日:11月8日(金)
監督:白石和彌
脚本:髙橋泉
原作:桑原裕子「ひとよ」
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟、佐々木蔵之介・田中裕子
製作幹事・配給:日活
企画・制作プロダクション:ROBOT
©2019「ひとよ」製作委員会
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