“何しても楽しい”のは、自分の軸が見つかったから。27歳の僕が、社員数2名のアパレルスタートアップ「シタテル」に飛び込めた理由
転職には不安がつきもの。特にそれが、スタートアップ企業へのチャレンジならなおさら勇気が必要だ。社員数が少ないため仕事の範囲は広く、「自分はどんな仕事をするのか」が不明瞭なことも多いだろう。
そこで今回話を聞いたのは、服を作りたい企業と生産者をつなぎ、小ロットからの衣服製作を実現するWebプラットフォームを提供するスタートアップ企業、シタテル株式会社の伊藤達彰さん。
現在新サービスのプロジェクトマネジャーとして活躍する伊藤さんは、誰もが知る大手証券会社に新卒入社。その後介護系サービスの会社を経て、27歳のときに当時社員数2名だったシタテルに転職した。なぜ伊藤さんは「どんな仕事になるか想像もつかない」ようなスタートアップ企業に飛び込めたのだろうか?
新卒時代に実感した「大手=安定」だと思い込む危うさ
伊藤さんは大学を卒業後、新卒で大手有名証券会社に入社。リテール営業として、富裕層向けに資産運用の提案を担当していた。
「私は経済学部出身で経営や投資まわりにも興味があったので、周りと同じように就活をして大手の証券会社に入社しました。入社後は、経営者や役員の方を相手に商談できることがすごく楽しかったです」
実際に伊藤さんは、同期の中でもトップクラスの営業成績を上げていた。しかし働くうちに、このままでいいのかという気持ちも膨らんでいったという。
「私は2010年に入社したので、在職中はリーマン・ショックの余波、ギリシャ危機、東日本大震災などで市況が落ち込むことが多々ありました。そのとき会社が数百人もの早期退職者を募集している実態を見たんです。大手企業にいてもクビになるリスクはあるんだ、と肌で感じることで『会社の名前ではなく自分の力をつけていかないといけない』と考えるようになりました」
そして証券会社で2年の経験を積んだ後、「自分の力をつけたい」と規模の小さな介護事業を手掛ける企業に転職。3年間、介護施設などへの法人営業を担当した。
「会社の業績も人員も2倍、3倍と成長していく過程を見ることができて、とても面白い経験ができたと思います。前職で培った営業スキルも生かせましたし、待遇や仕事内容、ポジションにもそれなりに満足していたので、特に転職は考えていませんでした」
自分の本当の気持ちに気付いたから、「何をすればいいのか分からない」状況さえも楽しめると思った
現状に満足していたという伊藤さんの運命を変えたのは、ビジネスSNS『Wantedly』だ。当時の『Wantedly』は、採用直結型ではなく、ベンチャーやスタートアップ企業の経営陣に会って、お茶やランチをしながら直接話をすることができるSNSとして人気があった。
「普段関わる機会のない起業家の方たちと話してみたくて、10社くらいの代表と会いました。そのうちの1社がシタテル。昔から洋服が好きだったし、事業が面白そうだなと思い話を聞くだけのつもりだったのですが、終わったら『社内で採用の検討をします』と言われ、『あれ、これ面接だったのか』と(笑)。転職する気も予定もなかったけれど、代表が『もう一度会ってみないか』と言ってくれたので、転職を考えるようになりました」
当時のシタテルは、創業間もないスタートアップ企業。代表の他に社員1名、インターン生1名という規模の小ささだった。一方、その時伊藤さんが働いていた企業は社員数が増えている最中で、責任あるポジションも任されていた。伊藤さんはこれまで築いたものを手放すことに、不安はなかったのだろうか?
「前職では会社の仕組みもでき上がってしまっていたし、成長の鈍化も始まっていたので新規事業に挑戦することは難しかったんです。でもシタテルの代表と話をしているうちに、私は本当は仕事で『ゼロイチ』がやってみたいんだなって思うようになって。正直なところ『服を作りたい企業と、実際に作ってくれる生産工場を結ぶプラットフォームを実現する』って、自分が何をどこまでやるのかは分かりませんでした。でも『ゼロイチ』を実現するならここだなって思えたんです」
シタテルと同じような事業をやっている企業もなければ、自分の職種も決まっていない。モデルケースがないので、「何ができるか」が分からないままの転職だ。
「具体的に何をやるのかは分からなかったけれど、『何もないところから、何をすればいいのかを自分で考える面白さや難しさを味わえるんだろうな』というワクワク感がありました」
また新卒以来、営業畑で活躍してきた伊藤さんにとっては、「営業活動は好きだけれど、もしかしたら営業以外にも向いていることがあるかもしれない」という気持ちがどこかにあったという。
「営業以外にも“自分の価値”を発揮できる場所があるかもしれないと、ずっと思っていました。会社にある程度人数がいれば、分業制なので自分は営業しかできない。でもたった3人のスタートアップなら、もっといろんなことに携われると考えました。営業以外の領域まで広く経験することで、いろんな能力を伸ばせると思えたんです」
チャレンジする勇気が出ないのは、働く軸がないから
転職後、伊藤さんは「服を作りたい」と考えるセレクトショップなどの顧客開拓と、その生産を実現できる工場の開拓を中心に手掛けた。「自分で仕事を取ってきて、工場と連携し、洋服作りの生産管理も行う」という一連の流れを全て担当したという。
「入社後は想像以上に全てが‟ゼロ”で正直びっくりしました(笑)。自分で足を使って顧客開拓をし、受注に至ったら、請け負える技術を持つ工場を探し、生産管理も手掛ける。もちろん請求書類などのフォーマットもありませんから、自分で作りました。おかげで、会社の中のありとあらゆる業務が経験できたなと思っています。やっぱりスタートアップの面白さは『何もないからこそ、ゼロイチで何でもできる』ということでしたね」
現在は転職して3年、シタテルの社員数は60名を超えるまで拡大した。伊藤さんは今期からプロジェクトマネジャーとして「アパレル商品を簡単にカスタマイズし、オリジナルワークウエア等を提供する」という新規事業を任されている。
「最近は大手航空会社とコラボをし、『出張中に機内で疲れないスーツ』を作りました。広告代理店と共にプロダクトのコンセプトづくりからスタートし、デザイナー探しはもちろん、血行改善効果のある素材を採用するなど、疲れを取る機能の組み合わせ提案まで手掛けました。半年掛けてようやくリリースできたときには、大きな達成感を得られましたね」
最後に「どんな仕事になるか想像もつかない」ようなスタートアップ企業に飛び込む勇気は、どうやったら得られるのか。伊藤さんの考えを教えてもらった。
「自分が本当は何がやりたいのか、働く軸のようなものをちゃんと持っていれば、チャレンジしやすくなるのではないでしょうか。そのためには、いろんなビジネスパーソンと話すことが大事だと思います。僕自身、『Wantedly』を通じて、いろんな方にたくさんのフィードバックを受けたことがキーポイントでしたから。特に20代の若手であれば、皆優しく話を聞いてくれると思います」
伊藤さんは自分の考えを他人に話すことで「自分が本当にやりたいことは『ゼロイチ』の仕事だ」と気付くことができ、何もない環境でも頑張ることができたのだと続けた。
「自分の中で『洋服が好きだな』とか『ゼロイチが叶えられるところにいきたいな』という結論に至ったからこそ、どんな仕事内容になるかは分からなくても、むしろその状況を楽しめるようになったんじゃないかなと思います。その軸だけブラさなければ、会社規模は関係なくなるし、行動しちゃえば意外と何とかなるものです!(笑) 自分がこの数年間、何をやってきたのか、これから先どんなことにチャレンジしたいのか。まずはざっくりとでも他人に話を聞いてもらいながら、軸を探してみるといいと思います」
取材・文/上野真理子 撮影/赤松洋太
RELATED POSTSあわせて読みたい
普通の会社員が“早起き”で5000人を変えるまで「勢いに巻き込まれて絶体絶命の窮地に立ったら、道が拓けた」【朝渋 5時こーじ】
キンコン西野亮廣がホームレスの男に学んだ、2018年以降の稼ぎ方「ギブアンドテイクはコスパが悪い」
幻冬舎・箕輪厚介の熱狂的仕事論――お前ら、“仕事ごっこ”してないか?【会社員2.0】
【幻冬舎・箕輪厚介】「置かれた場所で咲けないやつは、好きなことでも開花しない」“好き”を見つけたいと焦る20代への助言