マンガサービス『アル』のけんすうさんに聞く、ユーザーを仲間にする「物語思考」とは
今、漫画ファンの間で注目されているWebサービスがある。“けんすう”こと、元nanapi代表の古川健介さんが立ち上げた『アル』だ。
アル代表のけんすうさんのTwitter(@kensuu)には、「世界一のマンガファンコミュニティを作ります。マンガを売りまくって、業界を超盛り上げて、マンガに関わる人全員を幸せにしたいです」と書かれている。
けんすうさんの漫画愛に溢れたツイートを目にしたことがある20代は少なくないだろう。
世の中にWebサービスは星の数ほどあるが、立ち上げから1年に満たない『アル』が多くの漫画ファンに支持され、ユーザー、Googleからも高く評価されたのはなぜなのだろうか。
2019年11月21日に開催された『LINE DEVELOPER DAY 2019』の講演『ユーザーとともに創るサービス』にスピーカーとして登壇した古川さん(以下、けんすうさん)は、「これからのWebサービスづくりには物語思考が欠かせない。物語思考は、『アル』でも特に大事にしていること」だと語った。
けんすうさんの言う、「物語思考」とは何か。Webサービス・コンテンツづくりに携わる20代必見の講演内容を、一部抜粋して紹介したい。
「廃れるサービスは決まっている」
Webサービスを成長させていくために必要なこと。それは、ユーザーとサービスの作り手が同じ方向を見ることだとけんすうさん。「そんなの当たり前のことでしょ?」と思う人もいるかもしれないが、いつの間にか、そんな「基本」を忘れてしまう人が多いのだという。
実際、最初は“ユーザーのため”に作ったサービスが、気付けば“企業のため”のサービスになってしまっていたという経験はないだろうか。
例えば、ユーザーの使い勝手を無視した機能を追加してしまったり、ユーザーに愛されていた部分を削ってしまったり。それもこれも、会社の売上重視で施策を実施するようになると、起きがちなことだ。
「サービスの作り手がユーザーと同じ方向を向けなくなってしまった途端に、そのサービスは廃れます。それは僕も今までに経験してきていること。だから、『アル』では絶対にユーザーさんのことを第一に考えるようにしているんです」
先にも触れた通り、ユーザーの気持ちと、作り手の気持ちは時として離れてしまうことがある。作り手がユーザーの気持ちを理解し続けるようにするためには、どうすればよいのか。
「それには、ユーザーさんと一緒にサービスをつくっていくのが一番です」とけんすうさんは続ける。
「『アル』には、『アル開発室』というユーザー参加型のコミュニティーがあります。ユーザーさんに月額980円(税込)を払っていただいて、『アル』の開発に参加してもらうんです。そこでは、サービスの裏側を見てもらうことも、新しい機能について意見してもらうことも可能。まるでアルの社員のように、『アル』づくりに参加できるんです」
これが『アル』とユーザーの心理的距離を近づけるのに、一役買っているという。
「アル開発室」を始めた頃は、無料のコミュニティーとして運営していたが、途中で有料に変更。“お金を払ってでも『アル』を良くすることに参加したい”という人に対象を絞ったことで、以前にも増して、コミュニティーが盛り上がっているという。
作り手がユーザーと同じ気持ちでい続けるのは難しい。そうであれば、ユーザーに作り手側の気持ちを分かってもらったらどうか――。逆転の発想が『アル』の成長を後押しした。
「ユーザーさんは、ただサービスを使うだけだと、どうしても“お客さま”のスタンスになりがち。与えられるのをただ待ってしまうんです。でも、サービスづくりに参加してもらうと、一気に目線が変わる。必然的に、ユーザーも作り手も、同じ方向を向けるようになるんです」
ユーザーに愛されるのは“隙のあるサービス”
ユーザーがサービス運営の主体になる考え方を、けんすうさんは「物語思考」と呼ぶ。それはつまり、ユーザーの一人一人が、一つの物語づくりに参加しているような気持ちでサービスを使えるようになること。サービスの使い手でもあり、作り手でもある。そんな状態の人を増やしていくことは、サービスの熱烈なファンを増やしていくことと同義だ。
ではなぜ、物語思考によって、熱烈なファンを獲得すべきなのか。答えは明白。これだけWebサービスが溢れる中で、淘汰されずに残るものは一握り。その鍵を握るのが、“ファンユーザー”だからだ。
とはいえ、『アル』のように、ユーザーと一緒にサービスづくりをするコミュニティーさえ作れば、ビジネスは成功するのだろうか。けんすうさんは、「大切なのは隙をつくっておくことなのかもしれない」と付け加える。
「ユーザーさんが『一緒に作りたくなるサービス』って未完成なものだと思うんですよ。要は、完璧なものだったら一緒に開発していこうとはならない。人って、困ってる人とか、ピンチの人を救いたくなるものじゃないですか。だから、サービスの作り手側も、困っているときは『困っている』って、包み隠さず言った方がいいんじゃないかと思っていますね。そういう隙が、ユーザーさんにサービスを愛してもらうきっかけになるかもしれないので」
事実、けんすうさんが以前Twitterで「困っています」という発信をしたところ、多くのユーザーから応援コメントや、アドバイスなどが届いたという。「新しい機能をリリースしたってお知らせしても、普段あんまり反応がないのに」とけんすうさんは笑う。
“上位100名のユーザー”にどれだけ愛されるか
最後にけんすうさんは、世の中で成功しているサービスの実例をもとに、“トップユーザー”と一緒にサービスづくりをすることの大切さを教えてくれた。
例えば、レシピ検索サイトの『クックパッド』はユーザーの中でも人気レシピ投稿者の上位100名程度に数カ月に1回は、電話でヒアリングを行っている。また、グルメサイトの『食べログ』でも、人気レビュアー上位数百名の人と一緒にレストランに行く企画を実施しているそう。
それもこれも、トップユーザーがそのサービスをどう使っているのか、サービスに対して何を感じているのかを理解することが目的だ。
「上位数百名~千名程度のユーザーが熱量を持って参加できる仕組みさえつくれれば、サービスは確実にスケールしていきます。そのようなユーザーを獲得するために必要なのが、先ほど申し上げた、物語思考。サービスの作り手側がしっかりユーザーに歩み寄り、仲間にし、結果としてサービスの質を向上させる。これが、成功への近道です」
取材・文・イベント撮影/川松敬規
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