スキルアップ Vol.816

【法人営業の心得】広告/マーケティングの最強チームGOのトップセールスが“絶対にやらない”3つのこと

既存の広告、PRの枠を超えたさまざまなプロジェクトで世間の注目を浴び続けているThe Breakthrough Company GO

同社が手掛けてきた数々の企画の中でも、メルカリ社の「折り込みチラシ」広告や、霞ヶ関駅と国会議事堂駅に掲示されたケンドリック・ラマーの黒塗り広告が記憶に残っている人は多いかもしれない。

メルカリ社の広告

メルカリ社の「折り込みチラシ」広告

それらを手掛けたのは、同社でビジネスプロデュースチームのリーダーを務める田中陽樹さん。新卒で電通に入社してテレビ局向けのメディアバイイングや大手クライアントのアカウント営業などを経験した後、2018年にGOに入社した。

GOは現在社員数25名の少数精鋭。電通、博報堂などの大手企業にもコンペで負けたことがないという。名実ともに広告業界のトップセールス。生き馬の目を抜く広告の世界で案件を勝ち取っていくには、さぞ特別な営業スキルが必要になるのではないか。

そんな問いを田中さんにぶつけてみると、「GOでは新規開拓の営業はほぼしていない」という意外な答えが。むしろ、「GOの田中さんに仕事をお願いしたい」とクライアントからの問い合わせが後を絶たないのだという。

ではなぜ、田中さんはクライアントから選ばれる営業マンになれたのか。法人営業の仕事の本質や、20代の頃から心掛けてきたことを聞いた。

田中陽樹

The Breakthrough Company
株式会社GO ビジネスプロデューサー
田中陽樹さん

1983年生まれ。2006年電通入社。2018年より株式会社GOにジョイン。 JR東海、NTTdocomoをはじめとした、大手クライアントのアカウントを担当。 一心堂本舗「歌舞伎フェイスパック」の商品開発及びシリーズ展開をプロデュースし、海外広告賞を受賞。芸能プロダクションとのSNSマーケティング会社設立、2万人規模の音楽フェスティバル主催、ファッションショーの企画プロデュース、洋邦楽アーティストのプロモーションなど、あらゆる領域においても事業・企画を立ち上げまで導き、その後の売上・利益獲得戦略まで含めてマネジメントしている。最近では三陽商会のオーダースーツブランド「STORY & THE STUDY」、RICOHの中長期経営戦略パートナーとしてプロジェクトを牽引している。写真で着用しているスーツはSTORY & THE STUDY

「何もすることがない」から始まった営業キャリア

僕が初めて営業の仕事を経験したのは、電通に入社して6年目の時でした。電通の営業部といえば、社内でも花形の部署。「ここで成果を上げるぞ」と意気込んでいたのですが、最初はクライアントを持たせてもらえず、やることがないまま退屈な毎日を送っていました。

そんな時に社内で見つけたのが、もう何年も取り引きのないクライアントをリスト化した名簿です。「何もすることがないなら、自分で顧客開拓をしてみよう」、そう思い立って一件一件アポイントの電話を掛けて案件を取っていくことにしました。

田中陽樹

ただ、アポに応じてもらうのも、再びお取引を始めていただくのも、決して簡単なことではありませんでした。だからこそ、初回の訪問を取り付けられた時は、その場でいかに担当者から信頼してもらえるかが勝負。クライアントのことを徹底的に調べ上げて初訪問に臨み、その企業の今後の成長戦略について、社員以上に“本気で”語るようにしてきました。

「この営業担当は、本気でわが社の成長に貢献しようとしてくれている」とクライアントの担当者に感じてもらうことが、信頼を勝ち取るための第一歩。地道な顧客開拓を進める中で、そんな「営業職の基本」について学びました。

それ以降、「法人営業は、クライアントを儲けさせてなんぼ」というのが僕の持論。GOに入社した今も、いかにクライアントの事業を育て利益を上げるか、そのための最善策を考え続けています。

クライアントに嘘をつかない。目先の数字に釣られない。「絶対にやらない」と決めていること

また、営業の成果はクライアントからの信頼に比例しています。これは法人営業でも、個人営業でも、どんな業界でも共通していると僕は考えています。

先ほど、GOでは新規開拓営業はしないと申し上げましたが、一つ一つの案件で良い仕事をして信頼を勝ち取ることができれば、「また田中さんにお願いしたい」と言っていただけますし、他のお客さまをご紹介いただけます。

そういう良いスパイラルをつくっていくために、僕が個人的に心掛けてきたのは、次の3つです。

【1】イエスマンにはならない。批判も喧嘩も本気ならあり

まず一つ目は、クライアントの事業を「育てる」という目線で、悪いところや改善すべきことを正直に伝えることです。相手にいい気持ちになってほしくて、何でも都合のいいように言ってしまいそうになることってありますよね。

でも、それってお客さまのためにならないことの方が多いと思います。僕らの仕事はお客さまを喜ばせることではなく、儲けさせることなので。

ただこれは、相手を悪く言って批判するのではなく、客観的な立場から現状を否定し、クライアントがもっと成長するために必要な改善ポイントを共有するという意味です。

相手を否定するのは怖いことかもしれませんが、これこそが、営業マンの重要な役目なのではないかと僕は考えています。

というのも、先日とある経営者の方と過去に実施したプロジェクトの振り返りをさせていただいた時に、こう言われたんです。

田中さんにはもっと僕のことを否定してほしかった」と。

田中陽樹

その時、ハッとしました。自分では、クライアントのために最善の提案をしてきたつもりだったけれど、どこかで遠慮してしまっていたのかもしれないと気付かせていただいたからです。

イエスマンにならずに、変えるべきこと、改善すべきことを恐れず伝えること。それこそが、クライアントが営業担当に求めていることだと思いますし、正しい「否定」ができる人こそ、「信頼される営業マン」だと考えています。

【2】できないことは「できない」と言う。安易に「できる」と言わない

二つ目は、クライアントに嘘をつかないことです。

例えば、クライアントから無理な値引きを提案されたり、実現不可能な納期を指定されたりしてしまった経験はありませんか?

「うちのためなら、ちょっとくらい無茶できるよね?」と言われてしまうと、「はい! 御社のためなら何でもできます」と言いたくなってしまうのが営業の性。ですが、何か懸念を抱いたまま「できます」と偽ることはしないようにしてきました。

僕の経験上、自分をよく見せるために「何でもできます」と言ってしまって、結果「できない」のは、最悪な事態を招きます。クライアントの期待を裏切り自分の評価を下げるだけでなく、“考え無しに無茶な仕事を受けてきた人”として社内にも敵をつくります。

また、一度でも「無茶な依頼」に応えてしまうと、「前はできたよね?」とクライアントから再び言われてしまうのがオチ。その後のお付き合いにおいても“無理な価格や納期”が基準になってしまうので、自分の首を絞め続けることになってしまいます。

そうした事態を避けるためには、「できないこと」を事前にはっきり伝える以外、選択肢はありません。

自分たちには「何ができて、何ができないのか」を理由とあわせてお伝えするようにすると、むしろクライアントからの信頼が上がっていくものです。

【3】クライアントに不要な商品・サービスを案内しない

三つ目は、クライアントに必要のない商品やサービスを無理に売ろうとしないということです。

営業なら、少しでも売り上げを上げたいと思うのは当然。僕自身も、売り上げにこだわる気持ちは人一倍大切にしています。

しかし、目先の売り上げ欲しさにクライアントのためにならない商品やサービスを売った後、何が起こるでしょうか……? 結局、お互いが後悔するだけです。

さらに言えば、不要なものを売りつけてきた営業マンに、「また仕事をお願いしたい」とはなりません。「二度と付き合いたくない」と思うのが普通ですよね。

田中陽樹

例えば、僕は自社の商品やソリューションでクライアントの課題を解決できないと思った時は、「僕たちでは解決できそうにないので、今回のお取引はおすすめしません」と正直に言ってしまうことがあります。クライアントの成長フェーズや、抱えている課題に合った商品・サービスを持っている他社企業を紹介することもあるほどです。

これは、短期的に見れば損なことかもしれません。でも、相手を最優先に考えて、誠実な行動を取るようにすると、クライアントの事業フェーズや課題が変わった時に、「今度は田中さんに仕事をお願いしたい」とお声掛けいただけることがあります。

いずれにしても、「この人は、本当にわが社のことを考えてくれている人だ」とクライアントに感じてもらえるようにすること。これが、僕が営業として大事にしてきた心掛けです。

「仕事の報酬は、仕事」である

また、「仕事の報酬は、仕事」というのも、僕のモットーの一つです。これは、良い仕事をすると、それを見てくれていた人が、さらに面白い仕事を任せてくれて、それが脈々とつながっていくという考え方。

実際、GOで手掛けたケンドリック・ラマーの仕事は、安室奈美恵さんとの仕事を見たクライアントが問い合わせをしてくださったことから始まりました。

ケンドリック・ラマーの来日広告

霞ヶ関駅&国会議事堂前駅に突如出現した、ケンドリック・ラマーの来日広告

そして、CAMPFIRE社との仕事は、ケンドリック・ラマーの駅貼り広告を見た同社CEOの家入一真さんからの問い合わせによって始まりました。

全て、仕事が次の仕事を連れてきてくれているのです。

僕がもし、こうした良いスパイラルをつくれているのだとしたら、それは先ほどお話した通り、営業を「自分たちのモノを売る仕事」だと思わず、「お客さまを儲けさせるのが仕事だ」と考えてきたことが良かったのだと思います。

「自分たちのモノを売る」がゴールだと目先の契約で終わってしまいますが、「お客さまをどうしたらもっと儲けさせることができるか」という視点で考えたら、やるべきことは変わってきますし、長期的なお付き合いになりますよね。

営業とは、一体どんな仕事なのか。
自分が売るべきものは、本当はいったいなんなのか。

一度、自分の考え方を見直してみるだけでも、お客さまからの信頼度、自分自身のモチベーション、さらには売り上げも、少しずつ高まっていくのではないでしょうか。

取材・文/石川 香苗子 撮影/川松敬規(編集部)


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