若手が大企業を使い倒すための思考法「伝統的な“無駄な作業“をしてないか徹底的に疑え」
昨年から大企業が次々に「終身雇用を止める」と宣言し始め、たとえ大企業に所属していても安定は確保されなくなりつつある。この不安定な時代を企業の看板ではなく、「個人の力」で生き抜いていかなくてはならないと感じる20代も多いだろう。
とはいえ、個人の力では手に入れられない豊かな資源を大企業が持っているのも事実。その資源を上手に活用し、個人の力を伸ばして活躍している人たちもいるのだ。
そこで、2020年1月31日にNTTグループの若手社員が開催したイベント「大企業を使い倒す!~今日から劇的に変わる ワクワク働く思考と行動のブレイクスルー」の内容を一部紹介する。
登壇したNTT東日本の一杉泰仁さん、グロービスの下道陽平さんの講演の中から、大企業を「効果的に使う」ためのヒントを見つけてみよう。
「みんながやってるから」はナシ。自分の行動を疑っていこう
NTT東日本の一杉さんが所属するNTTグループは、約1,000社を有し、およそ30万人が働いている巨大な組織だ。多様な事業を行い、さまざまな社員が働いている分、企業が持っているリソースも非常に豊か。
しかし一杉さんは、新卒の頃から「大企業にいながらでも、個人の力を伸ばさなければいけない」と考えていた。
「大企業に所属する自分たちに与えられた選択肢は『染まるか、辞めるか、変えるか』しかないと思うんです。どっぷり会社に染まって、その組織でしか使えない人間になるのか。それが嫌なら会社を辞めるか、会社を変えるか。
そして、これからのキャリアを考えたとき、どんなことがあっても価値の高い人間でいるためには、『自分自身も変わり続ける』という決断をしなければならないと思いました」
そこで一杉さんはNTTの豊富なリソースを上手に使い、本業で新規事業開発を行ったり、NTTグループの社員をつなぐ有志団体『O-Den』の代表を務めたり、経産省の「始動」というグローバル起業家育成プログラムに参加したりと幅広い活躍をするようになった。まさに大企業を使い倒すことで、キャリアをアップデートしてきた一人だ。
そんな一杉さんが「会社を使い倒す」ために心掛けているのは「圧倒的なアウトプット」だそう。
「本業では他の人の『300%の成果』を出すように心掛けています。200%だと単純に活動量を増やせばできてしまうことも、3倍となると死に物狂いでやっても実現できない。それをやって見せたら、周りからも期待され、自分がやりたいように動くことができます」
300%の成果を出すために行ったのは、仕事の効率化を徹底することだ。「大企業の仕事」という固定概念から脱却し、自分なりのやり方を模索してきたという。
「たとえば部長に提案するとき。私は必要事項を手書きし、それをスキャンしてメールで送信し、その後に部長に直接電話をして説明するようにしています。大企業ではこれまで、若手に限らず多くの社員が3~4時間かけて資料を作って、上長に説明の時間を取ってもらう、というやり方でずっとやってきました。でもこの方法なら、1時間もあれば上長への説明ができてしまいます」
使えるリソースを自由に使い倒すためには、既存のやり方にとらわれることなく、自分で何が必要なのかに気付くことが必要なのだ。
「上司も『こんなやり方をする奴はいない』と最初は面食らっていましたけど、2、3回程もすれば慣れてくれました(笑)。これをやることによって、圧倒的に時間を短縮することができます。大企業や歴史のある会社だと特に『みんながやっているから』という理由で無駄な作業をすることが多い。でもそこを変えていかないと、圧倒的なアウトプットは生まれないと思います」
大企業の「個」が世界を変えていけるかもしれない
一杉さんのように大企業の中で自由に動くためには、自分の行動を変える必要があることは分かった。しかしその一歩を踏み出すのには、勇気がいるものだ。
「100点を目指すと、計画止まりになってしまうことが多い。多くの人はそこで足踏みしてしまいます。だから1点でもいいからまずはやってみることが大事だと思います」
特に大企業であれば「“誰でもできるのに、誰もやらない仕事”に溢れている。その分チャンスも多い」と一杉さんは続けた。
「私自身、以前は難しいことをやらなければと思っていましたが、実は超簡単な仕事にこそ誰にでも状況を変えられるきっかけがあると気付いたんです。私の上長説明の例もその一つですが、ポイントは、誰でもできるのに、誰もやらない仕事を、‟誰にも真似できないレベルでやりきる”ことだと思います」
この「誰でもできるのに、誰もやらない仕事」を選ぶ際にもポイントがある。それは「ルール的にNGなこと以外、できることはなんでもやる」という意識を持つことだ。
「多くのメンバーがいる大企業で、秩序を保つためにルールを守るのは大事なことです。でも、ルールにしばられる必要はありません。私が思う“大企業を使い倒している人”って、自分がやりたいことを実現するためには『明確にダメなこと以外は、何でもやる』んですよ。『何となくダメそう』と決めつけないことが、自分を変える第一歩だと思います」
さらに、行動に移す際は、1人でやるよりも仲間を見つけることが重要だ。大企業は人数が多い分、自分と志が近い人を見つけられる可能性が高いのも、強みの一つだと語った。
「誰でもできるのに、誰もやらない仕事を、‟誰にも真似できないレベルでやりきる”」という意識を持つことができれば、個人のスキルアップにつながるのはもちろん、会社や社会にも大きな影響を与えることができる、と一杉さん。
「NTTグループは外部から『ホワイト企業』、悪く言えば『ぬるま湯』といったイメージを抱かれています。しかし自分の行動がきっかけで、そんなNTTがイケてる企業に変わったとする。
そしたら、他の会社も『NTTが変わったならうちも変わらないとまずい』と思うのではないでしょうか。この会社を変えることで、他の会社が変わり、日本の社会が変わり、ゆくゆくは世界が変わることにつながっていくと信じています。それも大企業で働く醍醐味の一つですね」
ビジネス・フレームワークは自分の「やりたいこと」を実現するためにも役立つ
一杉さんの講演を受けて、後半はビジネスナレッジの動画学習サービス「グロービス学び放題」のBtoC事業リーダーであり、ビジネススクールや企業研修で講師も務める下道陽平さんにより講演が行われた。
下道さんの社会人のスタートは大手事業会社のマーケティング担当。若手時代は大企業の中でもがき苦しみ、「なぜ上長や経営陣は自分の提案を通してくれないのか」と悩んでいたそうだ。
「最初の会社では、目の前の仕事にひたすら打ち込んで成果を上げることで、自分のやりたい仕事を獲得する機会につながるのではないかと考えていました。しかし今振り返ってみると、組織の中で戦略的に考え、動くことがほとんどできていなかった。もしそれができていれば、自分ももっと大企業を‟使い倒す”ことができていたのではないかと思います」
下道さんはその後、経営コンサルタントとして大企業のビジネスパーソンと仕事を共にし、今はビジネススクールの講師という立場で大企業のビジネスパーソンの育成を担当している。
自身の過去の経験を踏まえつつ、若手社員向けに「大企業を使い倒す」機会を得るための一つの方法として提案するのが「企業内における自身のマーケティング分析」だ。
大企業を使い倒すというからには、その企業の中で「やりたいこと」や「なりたい姿」があるはず。しかし当然ながら会社は「組織」なので、当たり前のように機会を掴めるわけではない。
そこで「1.(この会社の中で)やりたいこと」は何なのか、「2.誰に」共感・協力してもらえたら、その機会を掴むことができそうか、「3.自分がどんな存在であると認識」してもらえれば、その機会を任せてもらうことができそうか。下道さんはこの3点をシンプルなフレームワークとしてまとめ、まずは自分の方向性を言語化することを勧めた。
具体的な事例として、下道さんが若手時代に実際に経験したことを当てはめて説明してくれた。
「私は入社してからずっとマーケティングを経験してきたのですが、リーマンショックを経験したことでグローバル戦略を強烈に推進しなくてはならない、自身も担当としてフルコミットしなければという想いを強くしました。
そのためには社内異動が必要になるのですが、所属する部門の事業部長に納得してもらわないとこの希望は叶えてもらえそうにありませんでした。
このポジションの要件を踏まえると、まずは『戦略構築ができ、英語が使える奴』だと認識してもらうことが大事だと考えたんです。当時、私が知っている限りにおいて、戦略構築ができて英語が使える人材は事業部に片手で数える程もいませんでしたから」
つまり下道さんは、以下のように考えたのだ。
1.やりたいこと(市場機会の発見)→グローバル戦略担当として自社の危機を救いたい
2.誰に(セグメンテーション・ターゲティング)→事業部長
3.自分がどんな存在であると認識させるか(ポジショニング)→戦略構築ができて英語が使える人材
ここで応用したフレームワークは「マーケティング戦略策定の基本プロセス」と呼ばれるものだが、組織内で機会を掴み取ることを考える上でも応用できる考え方だという。
「但し、何をするにしても、前提として本当に大事なのは『ありたい姿(志・目的・ゴール)を描く』ことです。『自分はこの会社で何を成し遂げたいのか』まずはこの問いに向き合うこと。
その上で、マーケティングの考え方を応用して、自分自身を一つの製品やサービスと見立てて思考を進めていく。そうすると、次にどんな能力開発やコミュニケーションが必要なのかが見えてくるはずです。
こうして自身のポジショニングを実現できたら、自ら設定した機会を得られる可能性も高くなります。実際、私自身はこの考え方を用いて行動し、異動を実現しました。ぜひフレームワークをもとに思考を整理してみてもらいたいですね」
大企業に勤めていると、さまざまなことが実現できる可能性がある反面、大きな組織の中で本当に自分がやりたいことがブレたり、分からなくなったりしてしまうこともある。そこで重要なのは、大企業のメリットを最大限に生かすために、まず自分がやりたいことを明確にしておくことだ。
もし自分が「何をやりたいかも分からない人」ならば、周りにいる仲間を観察して、彼らの夢に協力してみるところから始めてもいい。そして同時に、NTTグループの一杉さんのように、自分自身の行動を見直すこと。それがこれからの時代、大企業にいながら「個の力」を育むために必要なことと言えそうだ。
文/キャベトンコ 撮影/大室倫子(編集部)
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