「世界から営業職は消える」と断言する三戸政和が“泥臭い営業スキル”を絶賛するワケ
「営業職は足で稼ぎ、根性を見せて泥臭く数字を追うものだ」。そんな価値観を押し付けてくる先輩や上司に、うんざりしてしまう20代は多いだろう。AIやSaaSなどのテクノロジーが発達した今、さまざまなツールを使いこなす「スマート営業」にシフトした方がいいと考える人も増えているはずだ。
しかし「これからは、セールステックツールを使いこなす営業すらいらなくなってくる」というのが、2月に著書『営業はいらない』を上梓した日本創生投資代表の三戸政和さん。
それは一体どういうことなのか。もし本当に「営業はいらない」のであれば、そんな中で泥臭い営業を続けることに意味はあるのか。三戸さんに疑問をぶつけてみた。
20年で100万人の営業パーソンが消えた
はっきり断言しましょう。これから先、営業の仕事はなくなります。営業って「がんばらなきゃ売れないものを、なんとかして売る仕事」ですから。事実、2001年から2018年の約20年間で、営業パーソンの数は約100万人も減りました(総務省統計局『労働力調査年報』)。
例えば、2017年に時価総額全米1位の自動車メーカーとなった電気自動車専門のベンチャー企業、テスラ・モータースは、ディーラーや直販の営業チームのほとんどを廃止し、インターネットだけで販売を完結させることに決めました。
あるいはインターネットの購読者が増えた新聞業界は、石鹸や洗剤などの購読特典を手に各家庭を訪問していた旧来の営業方法を減らしています。
それでも中には「自分は最近流行のインサイドセールスだから大丈夫」とか、「今盛り上がっているセールステックツールを使いこなしているから、これから先も需要があるだろう」と油断している人はいるでしょう。
そんなことはありません。ここからは僕の未来予想ですが、インサイドセールスもセールステックを扱う人も、すべていらなくなる時がきます。あらゆる営業活動がインターネットで済むか、自動化されるようになるはずです。
例えばセールステックの場合、AIやディープラーニングによって人の作業が必要ないほど進化するでしょうし、もし何らかの作業が必要な場合もRPA(デスクワークを自動化する作業代行ロボット)が人の代わりにやってくれるようになる。
だから僕は「どんな営業がいらなくなるのか?」と聞かれたら、「すべての営業がいらなくなります」と答えます。
これからの時代に即した経営戦略を考えるなら、人件費の高い営業ではなく、テクノロジーや自動化を用いたコストのかからないマーケティングへと戦略の舵を切るはずなんです。
もし今、営業をしているなら、早いうちに他にやりたいことを見つけて方向転換するか、経営戦略やマーケティングなど、ビジネスにおいて上流の「戦略」や「作戦」を担う分野へのジョブチェンジを考えた方がいいのではないかと思います。
営業職がなくなっても、“泥臭い営業スキル”は人生の中で必ず役に立つ
とはいえ、今すぐすべての営業パーソンがクビになってしまうわけではありません。
さらに言えば、営業職の人たちが持っているスキルはどれも大事なものばかりです。僕はあらゆる職種の中でもっとも総合力が高いのは、営業職だと思っています。
「営業がいらなくなった世の中」でも生かせる営業スキルとは、コミュニケーション力や愛嬌、調整力、チームワーク、難題に立ち向かっていく根性、それからトラブル処理能力、より多くの顧客と接点を持つ力。旧来、営業パーソンが泥くさい営業活動の中で身に付けてきたものです。
今の20代はこれらを敬遠する人も多いのかもしれませんが、結局ここでいう「営業力」はビジネスパーソンとしての総合力にあたります。これはすべてをIT化、効率化していては手にいれることはできない力。
それは営業職が世界から消えた後も、さまざまなシーンで役に立ち、自身のビジネス人生を助けることになるでしょう。
ただ、これまでと違うのはこうしたスキルを「嫌々身に付ける」必要はないということです。別に「やりたくない」と思うならやらなくていいし、セールステックみたいに効率的な仕事のやり方が重要だって自分が思うなら、そっちに注力したっていいと思う。
なぜなら今、誰かの指示や社会の風潮に流されて生きることは、個々人の幸せに直結しないからです。会社の指示通りのスキルを習得したところで、それが人生を切り拓く武器にはなりません。
社会はもうとっくに停滞期に入っていて、これから先成長することはありません。世の中は質の高いモノであふれ、人々の心は充分に満たされています。そしてマーケットは多様化し、小さなパイの奪い合いになっています。
そんな時代に、大量生産・大量消費時代の考え方のまま、目的意識なく「会社に言われた通り右にならえ」とスキルを身に付けたところで、停滞期を迎えた社会で役に立つとは思えません。
実は僕、20代のときに大きな失敗をしたことがあるんです。大学3年生の時に、公認会計士の勉強をしたことがありました。当時は会計士がどんな仕事なのか調べもしないまま、漠然とお金を稼げるスキルがあったらいいなとか、資格があったら得するんじゃないかなと思って勉強していたんですね。
でも、結局最後までやる気もでなければ、面白いとも思えなくて。公認会計士の試験には受かりませんでした。当たり前ですよね。やりたくもないのに「このレールに乗って生きていけたら、人生楽勝なんじゃないか」って、世の中に流されて始めたことだったから。
それで僕は20代の4~5年を無駄にしてしまったんです。目的もなく「身に付けるべき」でスキルを会得しようとしても、時間をただ食うだけで何も身に付かないことを学びました。
まずは「何でもいいからアウトプット」から始めよう
「目的意識がなければ身に付かない」といいましたが、この考え方こそが、これからの時代に必要なこと。言い換えると「自分で考えて自分で判断する力」が最も大事なんです。
それは「好き・嫌い」みたいな直感的なことを意識することから始めて、どんな力を身に付けて、どんな人生を歩みたいのかを一つ一つ自分の力で考えることで磨かれます。
「自分は何も考えられないから指示がほしいです」という人って意外と多いんですよ。自分で動けないし、動きたくないし、責任も取りたくないって。
でも、それでいいんですかね。それじゃあ、20代の時に公認会計士を目指していた僕みたいに、望みもしない時間を過ごすことになってしまいます。そうやって思考停止している人は、さすがにこれからの時代生き残ってはいけないと思います。
もし「自分では考えられない」という人は、とにかくアウトプットから始めるといいと思います。その場として最適なのは、Twitterと会議です。特別な準備も、勉強もいりません。とにかくまずやる。今すぐ始めることが重要です。
なぜ「何でもいいからアウトプットしろ」なのかというと、やっていくうちにいろんな人からフィードバックをもらえて、それを受けて「自分で考える」ことの精度が上がっていくから。
僕がある会議に出ていた時、シンガポールからきた20代前半の新人に驚かされたことがあって。彼女はその場の誰よりもキャリアは浅かったのに、誰よりも発言していたんです。
始めのうちは的はずれなことを言っていましたが、繰り返し発言して会議のメンバーからフィードバックを受けるうち、みるみるうちに彼女の発言の精度は上がっていきました。
極論ですけど、自分の人生について自分で考えて判断を繰り返していった結果、「自分は何もやりたくない、毎日家でNetflixを見てお菓子を食べていたい」っていう結論になるのなら、それでもいいんじゃないかって僕は思うんです。これからの世の中は、そんなスタンスでも生きていける時代にもなると思いますし。
それでも、自分の人生を、自分で決める力を持っていない人よりはマシなんです。
自分で決めた目標や夢を成し遂げようとチャレンジする。その時初めて、自分に必要なスキルが見えてくる。必要だから身に付けようとがんばるし、身に付けざるを得ない。本や学校で学ぶより、いざやると決断してから実践で習得する方が、より有益だと思います。
そしてここで強調したいのは、目標や夢を成し遂げるために必要な力は、旧来の泥くさい営業によって身に付くものばかりだということです。
コミュニケーション力、愛嬌、調整力、チームワーク、根性、トラブル処理能力、より多くの人と接点を持つ力……。これらはすべて、フリーランスになるにも起業するにも、会社員として出世するのにも、とても大切で、必要な力なんです。
だから今営業の仕事をしている人は、まずは自分の営業力に誇りを持ってほしい。その力は、これからの人生を豊かにする武器になります。
僕としては、すでにある程度の営業スキルを身に付けられているならさっさとジョブチェンジすればって思うけど、どういう道に進めばいいか分からないのであれば、せめて自分で考える力を磨いて、早いうちに「やりたいこと」を見つけること。そして、その営業力を存分に生かしてください。そうすればこれからの時代をもっと自由に、生き延びていけると思います。
取材・文/石川香苗子 撮影/大室倫子(編集部)
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