「年収800万円も可能」に釣られた……24歳の‟失敗転職”に学ぶ「歩合制」の落とし穴
26歳(男性)岸さん(仮名)のケース22歳 大学卒業後、賃貸不動産を扱う企業に営業として入社(年収420万円)
24歳 投資用不動産を扱う企業に営業として転職(年収240万円)
26歳 別の不動産会社に営業として転職(年収400万円)
<24歳で体験した“失敗転職活動”の内訳>
転職活動期間:4カ月
希望条件:前職より給与が高いこと
妥協して受け入れた条件:インセンティブの割合が高い
応募社数:1社、書類選考通過:1社、1次面接通過:1社、内定社数:1社
新卒入社2年目に入ってすぐに子どもが産まれ、一家の大黒柱になった岸さん。24歳の時、年収アップのために転職したいと考えるようになったという。
「新卒で入社した賃貸物件を扱う不動産会社は、じっくり就活した末に決めた会社。嫌なところや不満は特にありませんでした。年収は400万円超えで、給与も悪くはなかった。でも家族ができて、将来のことを考えたらもっと稼がなくちゃと焦り始めて……」
このまま会社に居続けても、すぐに年収が上がる見込みがなかったと、岸さんは続ける。
「1社目は古い体質の企業で年上序列だったので、‟ガンガン稼げる”という感じではありませんでした。30歳になったら年収500万円、40歳になったら600万円くらい、と安定はしている。でもそれでは夢がないし、家族を支え切れないと思って不安になったんです」
求人サイトで、もっと稼げる会社を探した岸さん。しかし給与や残業などの条件を見ていると、「今より良い条件がなかなか見つからない」ことに焦った。
「そんなときに知り合いから『稼ぎたいなら同業同職種の仕事で、投資用不動産を扱う営業がいいんじゃない? そこで働いている知り合いがいるから、紹介しようか?』と言われました。頑張れば年収800万円はもらえると聞いて、興味を持ったんです」
信頼している知り合いからの紹介だったため、「いい求人を教えてもらった」と当時は思ったという。とにかく焦っていた岸さんは、特に細かい条件を確認することなく、転職を決意した。
「同じ業界だから大丈夫」 思い込みの先に待っていたもの
これまで不動産業界にいて、営業の仕事も経験がある。宅建の資格も取得していたので、出だしでつまずくことはないだろうと思っていた。しかしその自信はすぐに打ち砕かれることに。
「これまでは店舗に来店してくれたお客さまに賃貸物件を紹介する営業スタイルでしたが、投資用不動産の営業は、新規のお客さまを自分で捕まえなければなりません。しかも始めのうちは、自分が配布したマンションのチラシを見て来てくださったお客さましか対応することができないルール。だから最初の2カ月間は毎日、チラシを配布しに行くだけで終わってしまったんです」
一生懸命仕事に集中し、決してサボることはなかったという岸さん。しかし2カ月間1件も売上をつくることができず、ついには上司から「お前はこの仕事にまったく向いてないぞ」と言われてしまう。
「家族がいるのにうまく仕事ができない自分も嫌でしたし、知り合いの紹介だからすぐに辞めることもできなくて。かなり苦しい状況でした。インセンティブの比率が高い会社だったので、1年間やってみて、年収は240万円。これなら前職にいた方がマシでしたよね……」
1年の結果を見て、岸さんは退職。他の不動産系の会社に移ったが、今でも「最初の会社にずっといればよかった」と後悔している。
type転職エージェント キャリアアドバイザーからのアドバイスをCHECK!
岸さんの転職活動は、どういった点に気を付けるべきだったのだろうか。type転職エージェントのキャリアアドバイザー・植草武尊さんに解説してもらった。
「岸さんは『稼がなきゃいけない』という不安から転職を考えたそうですが、まず『頑張れば年収800万円くらいは可能』という、その背景にある『歩合制』についてきちんと理解できていなかったのではないでしょうか」
歩合制自体は決して悪いものではなく、モチベーションを維持するうえで、効果的な給与体系ではある。しかし会社によって、歩合の幅は大きく違うため、最低でもその比率は確認すべきだった。
「投資用不動産だと歩合の幅が大きく、売った分だけプラスされていくので、売れる人は非常に稼げる。しかし、その逆もありえるということです。岸さんは『同じ‟不動産営業”だから結果も出しやすいだろう』と考えていましたが、同じ業界の営業でも、企業によって営業スタイルが異なることも把握しておくべきでした」
営業スタイルの違いは、「どういう人たちが顧客となるのか」がチェックポイントだ。例えば一言で「飲食店向けの営業職」といっても、小さなカフェに提案する営業と、大手居酒屋のチェーン店に提案する営業では、手法が異なる。
「足繁く通わないとものが売れないケースもあれば、数値やデータ面でロジカルな話をした方がお客さまに響くという場合もあります。顧客が変わるだけで、営業スタイルはガラッと変わるということを知っておいた方がよかったですね」
今回の場合、「1社目と似たような営業スタイルの会社であれば、多少の年収アップは叶えられたのでは」と続ける。
「ご自身がどのくらい稼ぎたかったのか、具体的な部分をもう少し考えてみてもよかったと思います。『何歳にはこのくらい稼いでいたい。でもいまの会社でそれは無理』ということだとしたら、『前職と似た営業スタイルで、将来的には希望の年収額をもらえそうな別の会社』も視野にいれてみてもよかったかもしれません」
今回の場合、1社しか受けなかったことも、失敗の原因の一つだと植草さんは続けた。
「1社しか受けない転職活動は、どうしても視野が狭くなってしまいます。他社の条件もしっかり確認しながら、並行してすすめていけば、比較対象があって検討しやすくなったでしょう」
そして『知り合いによる紹介』で辞めづらかった、という障壁に関しても、植草さんは指摘する。
「希望の会社に知り合いがいて紹介してもらえるなら、採用される可能性も少しは高まるでしょう。しかし紹介されたという事実は、最後までついて回ってしまう。安易に飛びつくのではなく、最悪な結果も想定すべきでしたね」
つまり岸さんは総じて「転職後のシミュレーション不足」だったということ。自分がどのように活躍できそうか、その場合給与はどうなるのか。紹介されたことに負い目を感じることはなさそうか。その‟転職前チェック項目”にも抜け漏れがないか、入社前にしっかり確認することが必要だ。
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