いま、若手営業がAI領域に挑戦する旨味とは? 世界初のAI×量子サービス『MAGELLAN BLOCKS』代表に聞く
いま、世界中で「AIベンチャー」が台頭しており、AI領域を扱う企業に興味を持つ若手営業パーソンも増えている。では、実際にAI領域の企業にチャレンジすることは、若手営業パーソンのキャリアにどんな良い影響があるのだろうか?
その答えを探るべく、量子コンピュータ技術(※)とAI技術を組み合わせた『MAGELLAN BLOCKS』を提供し、その独自技術で話題を集めるグルーヴノーツの代表・最首英裕さんのもとを訪ねてみた。
※量子コンピュータ技術……現在のコンピュータより、はるかに強力な計算能力を持つコンピュータ技術。量子力学を用いて、複雑な問題をより早く解くことができる
最新技術は‟使うこと”が目的ではない
最首さん率いるグルーヴノーツは、量子コンピュータ技術とディープラーニングを始めとするAI技術によって、目的に合った多様な予測モデルを簡単に構築できる『MAGELLAN BLOCKS』を提供する企業だ。
「MAGELLAN BLOCKSは、複雑な売上予測や来場者数予測、不正・異常検知、不良品の検品などといった課題をAIによって解き、膨大な計算を必要とする『組み合わせ最適化問題』を、量子コンピュータを駆使して解決するのに適したSaaSツールです。現在、さまざまな業界のトップ企業を中心に、3800社を超えるお客さまに利用いただいています」
世界で初めて量子コンピュータによる商用サービスを実現した同社だが、量子コンピュータありきで立ち上げた企業ではないという。
「AIも量子コンピュータも、現実に要望の多い課題を解決するのに適していたから採用したにすぎない。つまり最新技術を使うことが目的ではなく、この社会が抱えている課題を解決することが目的だと考えています」
MAGELLAN BLOCKSが予測し、全体最適化を計る対象は企業だけにとどまらない。都市空間全体へと広げようとしている。「目指すは、ディープラーニングと量子コンピュータによる『City as a Service』の実現」と最首さん。
「店舗の売上予測に基づくテナントの最適配置や、交通量予測と信号制御を組み合わせた渋滞の解消など、都市全体をサービス空間と捉え、社会の中にいる企業という存在が、社会とうまく折り合い、支持されていきながら、人間らしい社会の実現に貢献したいと願っています。そのためには企業と企業、企業と行政機関が連携するような取り組みも始めています。
人や車の移動データやエネルギー需要、消費動向、路線価などの統計データを取り込み、“街全体”をデータ化。そこから予測計算・最適化を行う計画です」
例えば、三菱地所が管理する丸の内エリア内のビルで生じた廃棄物を効率的に収集・運搬するルートを最適化する取り組み。これは廃棄物収集・運搬に関わる人手不足の解消や街全体のCO2排出量削減にも貢献している。
セールスの役割は「依頼を言葉通りに実現すること」ではない
『MAGELLAN BLOCKS』が多くの企業に導入された理由の一つは、プログラミングの知識がなくても使いこなせる点だ。誰でも簡単に、目的に応じた予測モデルを構築できる。
予測モデルの構築自体はシンプルだが、同社が高い成果を生み出した背景には、顧客への綿密な提案があったからだという。
「AIサービスにおけるセールスの役割は、見込み客にツールを売り込むことでも、事前の計画通りにシステムを納品することでもありません。目的・課題は何なのか、どうすれば顧客の現状を変えられるのかを考え、データの取得方法や改善すべき数値をコンサルタントのように提案することが求められます」
例えば「来店数を上げたい」と顧客に言われた場合に、やみくもに「来店数を上げる施策」を考えるのではなく、その企業の本質的な意義を考えていく。その上でセールスは課題解決に向け、さまざまなデータを使ったアプローチ方法を考える必要があるのだ。
「コンビニ大手のファミリーマートさんの事例では、これまで新規出店前に行っていた平均日商の予測をMAGELLAN BLOCKSに切り替えたところ、店舗で予測値と実売の誤差が大幅に減少しました。その結果、失敗の少ない出店計画を実現することができるようになったのです」
AI技術を使用したツールは、単純に企業に納品するだけでは「ただ計算ができるだけ」のツールになりかねない。そんな商材を扱うセールスに求められるのは、ツールを使って「どんな課題を解決できるのか」を考える力だ。さらに言えば、その課題は単なる業務の効率化にとどまらない。
「人も会社も社会を構成する要素である以上、顧客が直面している課題の背後には必ず社会課題が潜んでいます。顕在化している課題の解決にだけ光を当てるのではなく、より大きな社会課題を狙い撃ちすることで、影響力のある解決策の提示が可能になるのです」
最首さんはこのプロセスを、ある種の「社会学的アプローチ」と呼ぶ。
「顧客の依頼を言葉通りに実現することに固執していては、本当の課題を解決することはできません。これまでとは違ったアプローチをすることで、社会課題を解決し、顧客の現状を変えていくことができるのです」
セールスは「ストーリーテラー」になれ
これまでの話を振り返ると、MAGELLAN BLOCKSのセールスには、一般的なIT系の商材を扱うセールスとは異なる資質が求められそうな印象がある。実際はどうなのだろうか。
「私は『セールスはストーリーテラーであるべき』だと考えています。お客さまに『どうしたいですか?』『何をしたいですか?』と尋ねても答えは得られません。なぜなら、顧客は現状を打破するために、私たちに依頼してくださっているから。
AIツールを使ったセールスの仕事は、主人公である顧客を社会という舞台の上で輝かせることで、そのためのオリジナルストーリーを描く力が求められます。そのストーリーに合わせ、主人公をハッピーエンドに導くことがセールスの使命なのです」
もはや、知りたいことが明確であれば人手を介す必要はない。ウェブサイトを検索するか、チャットボットに尋ねれば大抵のことはこと足りるからだ。
最首さんは、これからAI領域でセールスとして活躍するには、いま挙げた「成功ストーリーを紡ぐ力」に加え、「複雑な現象を解きほぐす力」「課題の本質を見抜く力」が必要だと考えている。
「何が正解なのか以前に、何か問題なのかすら、すぐには分からない時代です。定義が明確な問いに対する答えは機械に任せられても、複雑な事象が絡む問題を解きほぐし、核心を突くことはまだ人間にしかできません。
こうした力を秘めたセールスは今後、重用されるでしょうし、たとえセールスを辞めても、自分で事業を立ち上げたり、成長企業の事業戦略立案に携わったりすることにも役立つはずです」
紋切り型のトークや定型マニュアルに頼りがちなセールスが活躍できる場は少なくなる一方だと最首さんはいう。必要なのは「行き過ぎたカスタマーファースト」からの脱皮だ。
「先ほども申し上げたように、『来店数を上げたい』という顧客の声の裏には、もしかすると、売上や利益についての悩みや、仕入れや品揃え、スタッフの配置にまつわる課題が隠れているかもしれない。
それに気付き、どうやったら本質的な解決に結びつけられるかを考えることが、これからのセールスにはますます求められます。まずはそうした意識を持つことが、“行き過ぎたカスタマーファースト”からの脱皮につながるのではないでしょうか」
MAGELLAN BLOCKSを始めとする、AIや量子コンピュータ技術を取り入れた商材は、不確実性の高まる現代にこそ必要とされる。
「セールスの提案一つで価値が変容するプロダクトを商材とすることで、新時代のセールスとして求められるスキルを身に付けることができます。それは若手営業のキャリアにとって間違いなくプラスになるでしょう」
技術が発達したいま、顧客の“御用聞き”ができるだけの営業職はその価値を失っていくだろう。だからこそ「成功ストーリーを紡ぐ力」「複雑な現象を解きほぐす力」「課題の本質を見抜く力」を鍛えていくことが重要なのだ。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/吉山泰義
RELATED POSTSあわせて読みたい
“王道イケメン俳優”だった三浦春馬が、仕事の幅を広げられたワケ
“年齢制限に勝った”奇跡のプロ棋士・瀬川晶司さんが会社員を経験して気付いた、「好きなことを仕事にしろ」の本当の意味
“部屋にVRアートを飾る未来”に選ばれる作品をつくりたい。VRアーティスト・せきぐちあいみが目指すもの
‟めっちゃ儲けた”歴史的偉人の共通点って何? 歴史コメンテーター・金谷先生に聞いてきた