スピルバーグが選んだ男・森崎ウィンに聞く、グローバルで戦うための3つのマインドセット
競争相手は、“世界”だ――。20’s世代なら、学校や職場でそんなふうに教えられた人も多いはず。
さまざまな企業で国際競争力の強化が求められ、労働市場においてもグローバル化が急進。海外で働くことはもちろん、日本にいながらも隣の同僚は外国人という環境が当たり前の時代になりつつある。
俳優・アーティストの森崎ウィンさんが世界へ打って出たのは、20代半ばの時。スティーヴン・スピルバーグ監督の手がけるSFアドベンチャー大作『レディ・プレイヤー1』で主要キャストに抜擢。多くの日本人俳優が憧れてやまないハリウッドデビューを現実のものにした。
20代で世界の最前線を見た森崎さんだから語れるグローバル時代の戦い方とは?
仕事の大小なんて関係ない。自分の役割への誇りが、プロ意識の第一歩
映画産業の頂点・ハリウッド。中でも、スティーヴン・スピルバーグの名前は別格だ。『インディ・ジョーンズ』『E.T.』『ジュラシック・パーク』など、代表作は数知れず。どんなに映画に無関心でもスピルバーグの名前やその作品をまったく知らないという人はほとんどいないはずだ。
そんなスピルバーグ作品にメインキャストの一人として選ばれた森崎さん。世界最高峰の映画づくりの現場で目の当たりにしたのは、圧倒的なプロ意識だった。
「ハリウッドの現場はどのスタッフさんもそれぞれのセクションのプロとしての自覚がめちゃくちゃある。それもチーフクラスの人だけが、ということでもなく、それこそコーヒーを運ぶ係の人でさえ自分の役割に誇りを持って働いている。
肩身の狭そうな顔をしている人なんていないし、無駄にペコペコしない。一人ひとりが毅然と自分の仕事に取り組んでいる姿勢がカッコいいなと思ったし、自分も俳優のプロでいなくちゃって刺激を受けました」
森崎さんがハリウッドで見つけた、グローバルで戦うためのマインドセットは3つある。その1つめが、自分の仕事に誇りを持つこと。引け目を感じている人間に、いい流れは来ない。
どんなに小さな仕事でも、どんなに末端のポジションでも、胸を張って働いている人間と、人は仕事がしたくなるのだ。
虚勢は不要。分からなければ分からないと素直に言うこと
2つめが、常に柔軟であることだ。
「文化の違いってめちゃめちゃ大きいし、土地によって仕事のやり方も全然違う。そこにいちいち戸惑っていたら身が持たない。多様な国籍の人たちと一緒に働くには、臨機応変に切り替える判断力と頭の回転の速さが必要です」
これまでとは異なる環境に身を置いた時、自分のこだわりやローカルルールに固執していたら、とても順応はできない。森崎さんは「自分のやり方を持っておくことも悪くはないんですが」と前置きを入れた上で、こう話す。
「相手に違うやり方を求められた時、やる前から無理と断っていたら先へ進めない。できるかどうかなんて分からなくてもいい。まずはトライする勇気を持つことが大事です」
そして3つめ。これが、森崎さんがハリウッドの現場に揉まれていちばん強く感じたことだ。
「現場に入って最初の頃は、周りに対して張り合おうとしている自分がいたんですよ。ここで俺は戦うぞって必死にもがいていて。でもそうやって周りと張り合おうとすることで、いつの間にか自分で自分の首を締めていたんです」
主演は『X-MEN』シリーズで知られるタイ・シェリダン。他にもハリウッドで活躍するムービースターが集結した。その中で、世界的にはまったく無名の自分が加わった。肩に力が入るのも無理のない話だ。
パンパンに膨らんだプライドとプレッシャーに気付いた時、森崎さんがとった行動は「あきらめること」だった。
「もういいやって。無理して張り合おうとするんじゃなく、わからないことはわからないって聞こうと切り替えたんです。
何か指示された時も、うまく聞き取れなかったり、意味がよく呑み込めなかった時は、素直に「ごめん。分からないからもう1回言ってくれる?」ってお願いする。
そしたら、そこからすごく気持ちが楽になって。一気にやりやすくなりました」
自分よりも遥かにすごい世界の人たちと肩を並べた時、つい虚勢を張りたくなるのはごく自然な心理。だけど、自分を大きく見せたっていいことなんて何もない。それよりも大切なのは、ありのままの自分をさらけ出すこと。
分からないことを認めてちゃんと聞く。その心掛けが、グローバルで戦うために最も必要なマインドセットだ。
自分のピークはまだここじゃない。“現状不満足”の精神が、成長を加速させる
20代半ばでハリウッドデビューという快挙をなし遂げた森崎さん。若いうちに大きな成功体験を積んでしまうと、どうしてもその成功体験を過信して、抜け出せなくなってしまいがち。だが、そんな心配も森崎さんには無用のようだ。
「だってあっちに行ってコテンパンにやられましたもん(笑)。世界を見て、すごい人がこんなにもたくさんいるんだということを知って。今の自分じゃ絶対に勝てないと悟ったからこそ、もっと頑張らなきゃと思えた。
僕はまだ自分で成功したとも思っていないし満足もしていない。ハリウッドデビューが自分のキャリアのピークだとも思っていないし、思いたくないです。
自分を信じるという意味では自信にはなったけど、それが全てではないので。もっと大きい目標があるから、成功体験に縛られるということはないです」
その目標とは、いつか必ずオスカーを獲ること。見据えているのは、常に世界だ。
「僕がバラエティーに出させていただく時って、やっぱりハリウッドの話になることが多くて。『レディ・プレイヤー1』の公開ももう2年前。そろそろもういいよ、という気持ちは自分の中にあります。
だから今は早く日本での代表作がほしい。昨年主演を務めさせてもらった『本気のしるし』が今度のカンヌ国際映画祭の『Official Selection 2020』に選ばれたんですけど、それはすごくありがたいお話で。そんなふうにどんどん海外に出ていけるチャンスを掴んでいきたいです」
そのために、常に努力を怠らない。
「やっぱり語学力は大事なので、英語は常に勉強しています。
ちょっとした空き時間に使えるのが、Googleの『Word Coach』。無料英単語学習ツールで、類義語や対義語の二択問題とか、いろんな出題形式があるので、よくこれを使って勉強しています」
この8月20日で30歳を迎える。20’sを走り終えた森崎さんにとって、30代とはどんなイメージだろうか。
「余裕もあって、視野も広くて、知識も豊富な大人っていうのが、僕のイメージする30代。今のところ全然そのイメージに届いていないので、まずはもうちょっと勉強をしないとなと思っています(笑)」
そんな30年間を記念し、『森崎ウィン 30thメモリアルブック-Partner-』が発売。この1冊を、森崎さんは「人生の記録」と位置づける。
「僕の人生の一部を切り取ってもらえたという感じです。めちゃくちゃうれしいですし、ここに写ったものって一生消えない。そういう意味では、10年後に読み返すのがすごく楽しみな作品に仕上がったなと思います」
そう晴れやかに笑う。世界を知り、自分の小ささを知った20代。だからこそ、一度の成功体験にしがみつくことなく、新たにギアを入れられた。
まだまだ自分のキャリアは、ここがピークじゃない。もっと高い場所を目指して、森崎ウィンの30代が今、始まった。
取材・文/横川良明 撮影/岩田えり ヘアメイク/KEIKO スタイリスト/添田和宏
書籍情報 『森崎ウィン 30thメモリアルブック-Partner-』
価格:本体2,273円+税
発売:2020年8月20日
出版社:ぴあ株式会社
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