新型コロナウイルスの影響で、人々の生き方・働き方が大きく変化している。これから何を基準に、人生やキャリアをデザインすればいいのか、自分は今後どうしていきたいのか。悩む若手ビジネスパーソンは多いだろう。
そこで今回紹介するのは、10月17~18日にオンライン開催されたイベント『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2020 supported by CHINTAI』内のセッション『人生をデザインする ~新しい時代の生き方・働き方~』だ。
登壇したのは、「レンタルなんもしない人」こと森本祥司さんと、『食べチョク』代表の秋元里奈さん。
2人はそれぞれ会社員を経て、森本さんは「なんもしない」サービスを、秋元さんは農家や漁師から直接食材を購入できる通販サイト『食べチョク』を立ち上げた。二人がなぜいまのキャリアを選択し、どう人生をデザインしてきたのか。今後のキャリアを考える参考にしてみよう。
食べチョク代表 秋元里奈さん(写真右)
株式会社ビビッドガーデン代表取締役社長。慶應義塾大学理工学部を卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月にvivid gardenを創業
レンタルなんもしない人 森本祥司さん(写真中央)
1983年生まれ。既婚、一男あり。理系大学院卒業後、数学の教材執筆や編集などの仕事をしつつ、 コピーライターを目指すも方向性の違いに気づき、いずれからも撤退。著書に『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』、2020年には、TVドラマにもなった
Twitter:@morimotoshoji
モデレーター・渡邉 康太郎さん(写真左)
森本:「レンタルなんもしない人」というのは、レンタルビデオの人間版のようなイメージです。僕をレンタルしてもらって、簡単な受け答えと飲食以外は特に何もしない。一人で行きにくい店へ一緒に来てほしいとか、ただ話を聞いてほしいというような依頼が多いですね。
秋元:私は、品質にこだわる農家や漁師から、旬の食材を直接お取り寄せできる産直通販サイト『食べチョク』の代表をしています。
森本:僕は3年間会社に勤めていましたが、あまり会社に馴染めませんでした。会社を辞めて、その後5年くらいは、フリーライターなどの道を模索していて。そこで会社勤めというか「仕事自体がそもそも自分に向いていない」と気付き、現在の活動に至りました。その挫折感が、人と違う生き方をするきっかけになったのかもしれないと思っています。
森本:「レンタルなんもしない人」を思いついたときに「すごく自分に向いているな」という感覚がありました。怖さよりも、この仕事をやったときの世の中の反応や、自分自身の変化への興味が大きかったです。
森本:女性の方から、痔の手術に同行してほしいという依頼を受けた時には驚きました。手術後、麻酔が切れるまでの付き添いが必要ということで呼ばれたようです。手術室には入りませんでしたが、診察室には一緒に入り、術前・術後の画像を一緒に見ました。普通なら、家族のような近い関係性の人しかあり得ないことですよね。依頼者の女性は、痔の手術という重いイベントが、少しだけ楽しいものになったと言っていました。
秋元:私は新卒でディー・エヌ・エー(DeNA)に入社して働いていました。私の実家は農家で、私が中学生の時に廃業しています。小さい頃から「農業はビジネスにならない」「農業は継がなくていい」と母から言われて育ったので、「働く」ことの延長線上で農業を考えたことはありませんでした。
秋元:就職してから、久しぶりに実家の農地を見る機会があり、小さい頃に見ていた綺麗な畑とはまったく違う、荒れ果てた様子にショックを受けました。その時、「私はどうして農業をやめてしまったんだろう」と思ったのが最初のきっかけです。そこからいろいろな農家の方に話を聞き、同じ悩みを抱えている人がたくさんいることに気付きました。そこでビジネスとしてやっていこうと決意して、入社して3年目にDeNAを退職しました。
秋元:社内で新規事業を立ち上げたりはしていましたが、DeNAが大好きでしたし、起業をするつもりはなかったです。ただ、就職して3年経ち、周りに退職する人も出てくる中で、「自分が本当にやりたいことは何だろう」という疑問は持っていました。自分は起業家になるタイプではないと思っていたのですが、農業を盛り上げるための手段として、起業しか選択肢がなかったというのが実感です。
森本:ネット上でやり取りをした依頼者と、初めて直接会うときにはテンションが上がりますね。人に会うことが好きというよりは、「この依頼をしてくるのはどんな人なんだろう」ということに興味があるのだと思います。
秋元:生産者さんからお礼のお手紙やメッセージをいただくと、やはりすごくうれしいですね。集まっている社員も同じモチベーションで働いているので、すぐにキャプチャしてみんなで共有しています!
秋元:そうですね。コロナをきっかけに、家での時間を楽しむ人が増え、食にエンタメ性が求められるようになっていると感じます。例えば切り身になっていない、丸ごと一匹の鯛など、時短のニーズが強かったコロナ前とは違う商品が売れるようになっています。
秋元:はい。食べチョクに登録している生産者の方も、今年2月末には750件程度でしたが、現在は2,700件くらいまで増えています。ユーザー数も10倍くらいに増えました。
森本:緊急事態宣言が発令されていた4~5月は、外出ができないので、僕もオンラインで活動していました。コロナの影響でなかなか人に会えない状況になり、話したいことが溜まってしまったから吐き出したい、という依頼が増えています。
森本:まったくないですね。僕は共感能力が低く、他者の感情に同調しにくいことが、一般的な会社員としては評価されませんでしたから。ですが、今の仕事ではそれが良い方向に作用していると感じます。
秋元:私自身は、日本の農業や漁業に貢献したいという思いで仕事をしていますが、皆さん一人一人が、ご自身ならではの思いを持っていると思います。やりたいことが見つからないという人も、気付いていないだけで、きっと自分の中に何かが眠っているのではないでしょうか。いまの時代、思いを実現するための手段はたくさんあるので、恐れずに一歩踏み出して、挑戦する人がたくさん生まれてきたらうれしいなと思います。
森本:「人生をデザインする」というテーマに合った話ができたかどうか分かりませんが、「デザイン」という言葉には意図的なニュアンスを感じます。僕の感覚では、人間は、あるがままの状態で既にデザインされているのではないでしょうか。僕は、デザインされたものに「レンタルなんもしない人」という名前を付けただけだと思っています。
文/高橋実帆子 撮影/アンザイミキ