キャリア Vol.958

“根拠”はなくても“自信”はある。プロテニス選手・西岡良仁が「勝つために離れる」選択をする理由

スポーツもビジネスも、勝ち続けるのは困難だ
ビジネスパーソンは、常に目標をクリアしていかなければならない。毎日厳しい仕事に立ち向かうその姿は、1試合の勝利のために練習を重ね、努力し続けるアスリートのよう。ビジネスの世界に通ずる「勝利の哲学」をさまざまなスポーツのプロフェッショナルたちに学ぶ!
西岡良仁さん
西岡良仁さん
1995年、三重県生まれ。プロテニス選手。世界ランキング52位(10月6日時点)。SNS、YouTube、オンライン教室と、インターネットを利用した自己発信を積極的に行う。日本男子テニス選手史上、5人目のATPツアーシングルス優勝者となる。錦織圭に次ぐ存在として知られ、現在は全日本男子プロテニス選手会理事も務める
公式サイト Twitter YouTube

勝つも負けるも当たり前。勝敗に一喜一憂せず、「負け」から学ぶ

プロテニス選手の西岡良仁さんは、現在25歳。世界ランク51位、国内では2位と、錦織圭選手に続くトップ選手だ。4歳でテニスを始めてから、「勝つこと」へのこだわりが芽生えるまでに、時間はかからなかった。

「初めてテニスの試合に出たのは、小学一年生の時。二つ上の兄にダブルスで負けて、すごく悔しかったんです。兄の存在は常に大きくて、僕はテニスに限らずなんでも兄に勝ちたかった。ゲームで負けてもめちゃめちゃ泣いてましたね(笑)」

戦績を見ると、数々の大会で着実に勝利を積み重ねてきている。

勝ち続けるための秘訣を問うと、「勝ち続けるのは、すごく難しいです。テニス選手には波があって当然」と、その語り口は冷静だ。

「テニスって一年間でものすごくたくさんの大会があるんです。自分は毎年20大会ぐらい出ていますが、その中で優勝に絡める大会は年に一つあるかどうか。

一年を通じてほとんど負けない選手は、ジョコビッチとか、数人しかいません。僕が大事にしているのは、いい波が来た時にちゃんとピークをつくり、勝ちたい試合でしっかり勝つことです」

そして、勝利だけでなく敗北も大切な経験なのだと、西岡選手は続ける。

「負けが続いてしまうときがあるのは、仕方ないんです。でも、その負けは決して無駄ではなくて。

『次にこの選手と当たったらどうするか』と考える習慣が、後でたくさん勝つことにつながってきます。負けたときに何を得られるかがすごく大事です」

勝ったり負けたりするのは当たり前。一喜一憂などせずに、負けた試合からも真摯に学ぶ姿勢が、今の西岡選手の強さを生み出してきたのだろう。

初めての大ケガで帰国。試合ができなかった一年が、人生を変えた

今から3年前、西岡選手は大きなケガを経験している。世界ランキングで当時の自己最高である58位を記録した直後の大会で、左膝を負傷。靭帯の断裂により、一年間の戦線離脱を余儀なくされた。

手術を要するケガの経験は初めてだったという。当時の心境を問うと、西岡選手は意外な感情を吐露した。

「もちろん驚きましたし、試合ができなくなることに対する悔しい気持ちはありました。ただ、一年間日本で生活せざるを得ないと分かった時は、正直うれしかったんです。

12歳から海外遠征を始め、15歳からアメリカで生活していたので、10代の頃は日本で過ごした時間が本当に短かった。『家族や友達がいる日本で暮らせる!』と思って。

その後すぐに『じゃあその一年間で何しよっかな?』と考えるようになり。ずっとポジティブなマインドで過ごしましたね」

療養中は、これまでのテニス生活ではできなかったことにも手を伸ばした。ビジネス書や自己啓発書を読み漁り、興味のある人の話を積極的に聞きに行った。

YouTubeやSNSでの発信も、この期間に本格的に始めたものだ。その結果、西岡選手はある貴重な武器を手に入れたと話す。

「以前よりも『考える』ことをするようになったんです。復帰後は、ケガをする前には勝てていた選手に負けたのがすごく悔しかったので、『どうすれば勝てるのか』をめっちゃ考えて、体づくりの方法も変えました。

単に努力するのではなく、考えた上での試行錯誤を重ねたことが、復帰した年の優勝につながったんだと思います」

もし、あの一年がなければ、今よりもランクは高かったかもしれない。それでも、「自分の人生を変えた、大切な一年だった」と、西岡選手は実感を込めて語る。

「アスリートは競技だけやっていればいい」とは思わない理由

「考える」習慣に加え、西岡選手がケガの期間を通じて学んだことがある。それは、「あえてテニスから離れる」選択だ。

「調子が悪くなったら一回テニスをやめて、『そろそろテニスしたいな』と思ったらまた練習を始めます。『勝つために、あえて離れよう』という感じですね。

勝てば自己最高の成績を残せる試合の前日に、ゴルフで遊んだこともありました。疲れてたので、リラックスしようと思って。

もちろん、練習は大事です。でも僕の感覚では、1日練習したところで上手くならないんですよね。試合の前日は疲れを癒すか、感覚を掴むために少しだけ打つか運動するかと決めています」

試合前日に競技から離れることをタブー視している選手も多そうだが、世間の「こうあるべき」には過度に縛られないのが西岡流だ。

「『アスリートは競技だけやっていればいい』って考えてる選手は多いんですけど、僕はそうは思いません。違う活動から、テニスに通じるものを得られるかもしれませんよね。

メンタルも変わるかもしれないし、どんな影響があるか分からない。無駄なことなんてないはずです」

テニス以外の楽しいこともちゃんとやる。そのおかげで、プレッシャーに押しつぶされることは一切ないという。「競技から離れる」という、勇気ある選択ができるのは、誰よりも勝つことにこだわっているからなのだろう。

西岡良仁さん
写真提供:YONEX

でも、テニスの他に楽しいことを見つけてしまったら、もしかしてテニスに戻りたくなくなってしまうのでは……?そんな不安は1ミリもないかと問うと、西岡選手は笑いながら首を振った。

「それはないですね。怪我した時もそうでしたが、テニスから離れると、『試合したい!』ってなるのが分かってるんで(笑)」

後悔しないのは、自分で選択したから。大切なのは「根拠なき自信」

努力して超えた目標の先には、また新しい目標が待っている。壁を超えてもキリがないのは、仕事もスポーツも同じ。西岡選手は、一体どのようにモチベーションを保っているのだろうか。

「僕は人生を楽しむことをモットーにしているので、テニスは楽しいと思いたいんですね。試合をやるのが楽しい、強くなっていくことが楽しいって。だって、楽しくないと生きていけないじゃないですか?

確かに、壁は超えてもキリがないかもしれません。でも、その壁を乗り越える楽しさを見つけるのが、継続する理由の一つになるんじゃないかと思います。

それが難しいなら、一旦離れてみるのがおすすめです。別のことしてみると、やる気が出るかもしれないので」

とはいえ、仕事にせよスポーツにせよ、「離れる」のは勇気がいるもの。一体何が、西岡選手の決断を支えているのだろうか。

「自分で選択をした、という事実です。僕は何でも、イエスかノーかを自分で判断したいと思っているんです。結果の責任は自分に降りかかりますが、自分が選んだからこそやり切れる。

よく起業家の方が『根拠のない自信が大事』って言いますけど、僕もまさにそうで。試合前日に休んだからといって、明日ベストプレーができる『根拠』なんてないんです。

でも、今日練習しなくても明日上手くできる『自信』はある。根拠があろうがなかろうが、自信をもって選択するのが大事なのかなと思います」

そんな西岡選手がいま目指すのは、次の二つの目標だ。

「東京オリンピックへの出場。これが一番重要です。その次は、グランドスラムでのシード権を獲得したいので、少なくともベスト32以上。20位台には入っていきたい。来年、この二つを果たせたら」

目標達成はできそうか、との質問に「いけると思います」と、力強く答えてくれた。

勝ちにこだわるのは、人生を楽しむため。今を楽しいと感じられないのなら、一度その場所から離れればいい。壁を越え続けることに疲れてしまったときは、西岡選手の言葉を思い出し、何のために勝ちにこだわっているのかを自らに問い直してみたい。

取材・文/一本麻衣

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