生きづらさ感じる若者に居場所を。TIEWA合田文に見る「副業スライド起業」のカタチ
誰もが自分らしくいられる「居場所」をつくりたい。そんな想いを抱き、セクシュアリティやジェンダーの課題に取り組む合田文さん(28歳)。
性やフェミニズム、ダイバーシティについて漫画で紹介するWebメディア『パレットーク』や、異性間や恋愛関係に限らない安全でクリーンな出会いを提供するマッチングアプリ『AMBIRD』などを手掛ける株式会社TIEWA(タイワ)の経営者だ。
「いつか起業できたらいいなと考えていたけれど、こんなに早く経営者になるとは思わなかった」と語る合田さん。2年前までは、人材系の企業で働く会社員だった。
合田さんの転機は、自身が興味を持っていたジェンダーやセクシュアリティ分野の副業を始めたこと。それが現在、彼女が手掛ける事業へとつながっている。
自分の新たな可能性を探して転職
――合田さんは、新卒でサイバーエージェントに入社したそうですね。
はい。サイバーエージェントでは約4年働いて、新規事業の立ち上げなどを経験しました。
特に印象に残っているのは、当時全盛期だったスマホゲームの企画からローンチまでを一気通貫で手掛けたこと。大変でしたがやりがいは大きかったし、ビジネスパーソンとして成長もできました。
ただ、一つのゲームが世に出るまでには、1~2年という長い時間がかかります。それゆえ、目に見える成果がなかなか生まれず、同期が次々と実績を残して昇進したり、転職したり、起業したりしていく姿を見て焦りを感じていました。
――ご自身も、その頃から起業は意識していたのですか?
可能性の一つとしては考えていました。
でも、10年くらいは会社で働いて、30代後半になったら自分で何か事業をやってみるのもいいな、くらいに当時は考えていて。
そんな感じでしたから、まさかこんなに早く自分が経営者になるとは思わなかったですね。
――起業の前に、人材系の企業に転職されていますよね?
はい。自分の可能性をいろいろと探ってみたいという好奇心から、転職活動を始めて。
そこで、元上司の経営者の方から聞いた話が、何だかすごく心に刺さったんですよ。
――どんな言葉だったのですか?
「世の中には週5日間、会社でつまらない顔をして過ごしている人もいれば、イキイキと楽しく働いている人もいる。イキイキと働いて結果を出せる人が増えたら、会社も成功できるし、最終的には社会全体が元気になる」という趣旨の話でした。
一人一人の人生に目を向けることが、社会全体を良くすることにつながっているのだ、と深く共感したんです。
副業が本業に。「やるべきこと」を見つけた
――働き始めていかがでしたか?
楽しかったし、やりがいもすごくありましたよ。でも、約8カ月働いたところで、退職することにしました。
――それはなぜ?
本当はもうちょっと働きたかったのですが、ちょうどそのタイミングで、「やるべきこと」に出会ったんです。
――自分がやらなければ、と思えるようなことを見つけた、と。
その通りです。
私はもともとセクシュアリティやジェンダーの分野に関心があり、学生時代から学んでいました。
それで、LGBT向け求人情報サイトを運営するJobRainbow代表の星さんと一緒に、イベントを開いたことがあったんです。
そこで、自身のセクシュアリティについて会社でカミングアウトすることができず、本来の自分を隠して悩みながら働いている人たちがたくさんいることを知りました。
働くことは、生きること。本来は一人一人それぞれの才能や、やりたいことがあるはずなのに、居心地が良くない場所で、力を発揮しきれず働いている人がたくさんいるのは本当にもったいないと感じました。
それ以来、セクシュアリティやジェンダーについて発信するメディアの仕事に副業で携わるようになったのです。
――いきなり起業するのではなく、副業からチャレンジを始めたわけですね?
はい。自分の興味があることだったので、副業ではありましたが、すごく熱中していきました。
そのうちに、副業先から「事業責任者をやってほしい」と打診されて。イエスと答えました。
ただ、さすがに副業で事業責任者の仕事を全うするのは難しいと思い、思い入れのあった人材系企業を離れることにしたんです。
――周囲から反対されませんでしたか?
新しい仕事に挑戦したいという意志を当時のマネジャーに伝えたところ、応援してくれました。
結果として退職したものの、その会社で働いたからこそ、心からやりたいと思えること、私がやらなければと思うことに出会うことができたと感じていますね。
「居場所」をつくっていきたい
――二度の転職を経て、昨年TIEWAを立ち上げています。なぜこのタイミングで起業を?
転職先の企業が解体されて、私が事業責任者をしていた部署だけ存続することになり、現在のTIEWAの基になりました。
なので、タイミングを見計らって起業したというわけではなかったんです。
――今はどんなサービスを展開していますか?
SNSで性のあり方やフェミニズム、ダイバーシティについて漫画で紹介するウェブメディア『パレットーク』や、異性間や恋愛関係に限らない安全でクリーンな出会いを提供するマッチングアプリ『AMBIRD』などを運営しています。
――経営者になって、ご自身の中で変わったことはありますか?
社員一人一人の意見を軽視しないことを、より意識するようになりました。
今、一緒に働いている仲間は、「こういう社会になったらいいね」「この事業でこんなことを実現したいね」と目標を本音で語り合える人たちばかり。
実現したい未来に向かって、皆と一緒に進んでいきたいからこそ、一人一人が尊重され、安心して活躍できる場所にしたいと思っています。
――起業から1年が経ちましたが、振り返ってみて、一番大変だったことは?
やはり新型コロナの影響で売り上げが伸び悩んだ時期は厳しかったですね。
一方で、そんな時期だからこそ、私たちのプロダクトが孤独を感じている人たちの支えになっていることも実感できました。私たちの事業には、大きな意味があると再確認しましたね。
――合田さんがこれからチャレンジしたいことはありますか。
今後もやはり、「居場所」をつくることをテーマにしていきたいです。
経営者としては、利益を生むことに貪欲になるべきなのかもしれない。ただ、私にとっては、社会課題の解決につながるプロダクトを世に出していく方が、自分らしい経営のカタチだと思えます。
――経営者として、いまやりたいことは?
もっと対面でのコミュニケーションがとりやすい時期になったら、生きづらさを感じる若者たちがオフラインで交流できる場所を増やす活動がしたいですね。
また、マイノリティーに厳しい社会や組織の在り方を変えるには教育も重要だと思うので、日本の教育者の意識変革にも取り組みたいです。
取材・文/高橋実帆子 撮影/赤松洋太
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