キャリア Vol.968

第二新卒採用が活発な業界・職種とは? 2度目の緊急事態宣言下で求人数が顕著に増えている理由【森本千賀子さん】

新型コロナウイルスの感染拡大は、20代ビジネスパーソンのキャリア設計にも色濃く影響を残している。

2020年3月の緊急事態宣言発令の際には、多くの企業が採用活動をストップ。ネクストステージに羽ばたきたいと希望を抱きながらも、足踏みを強いられた人は多かったかもしれない。

だが、縮小傾向にあった求人数は昨年末から徐々に回復し、今年に入って一気に好転。2度目の緊急事態宣言が出るも、企業の採用活動は活発化している。

では、新卒3年目くらいまでを対象とする「第二新卒採用」にはどんな変化が出ているのだろうか。全体傾向と同じく、ポテンシャル層の採用も回復傾向にあるのだろうか。

人材紹介やコンサルティング事業を手掛ける株式会社morichの代表取締役・森本千賀子さんに、現在の第二新卒採用の状況を聞いた。

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株式会社morich 代表取締役 森本 千賀子さん1970年生まれ。93年、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など輝かしい実績を残す。2017年3月、株式会社morich設立、代表取締役に就任。25年在籍していたリクルートを17年9月で卒業。同年10月に独立。HRに限定せず外部パートナー企業とのアライアンス推進などさまざまなソリューションを提供している。 Twitter: morich_Corp

今年に入って求人数が急増。その背景にあるものは?

――2020年は、コロナの影響で緊急事態宣言が発出されて求人数がかなり減りましたよね。2度目の緊急事態宣言による、企業の採用活動への影響はいかがでしょうか?

確かに、昨年の緊急事態宣言直後は、いろいろな企業が採用をクローズし、感染対策のため選考活動もままならないという時期がありました。

けれど、2021年の2度目の緊急事態宣言に関して言うと、前回のそれとはまったく事情が異なっています。むしろ求人数に関しては増加傾向にあるんです。

――そうなんですね。一体なぜなのでしょうか。

私たち人材エージェントが利用しているデータベースには、毎月企業から多くの新規依頼が登録されるのですが、今年1月の求人数は2541件と過去最大級。ここに来て、一気に採用に積極的な企業が増えています。

昨年の緊急事態宣言時は、まだ企業も面接のオンライン化にほとんど対応しておらず、たとえ採用が決まってもコロナ禍における入社後の研修体制が整っていないなど、経済的要因とは別の事情で求人を一時ストップする企業が多かったんです。

それが、この1年で整備が進み、リモートワーク下でも面接や研修ができるようになった。このことから、採用活動を再開するケースは非常に多く見受けられます。

――確かにビジネスシーンにおけるオンライン化はかなり前進しましたよね。

もう一つは、こうした状況の中で新たな職種ニーズが発生していることが挙げられます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、今やどの企業もデジタル化は急務。しかしながら、これらに対応し得る知識や資質を持った人材はなかなか社内では補えないというのが実際のところなんです。

そこで、社内のDX化を進めるべく、外部から即戦力を採用しようという動きが活発になってきています。

――そういったポジションで、20代の若手や第二新卒が採用されるケースもあるんでしょうか。

十分あると思いますよ。経験はなくても、ITやWebに関心があり、学習意欲の高い方であれば、企業にとっては十分採用ターゲットになり得るはずです。

特に第二新卒の方であれば、ビジネスの基本を身に付けている分、新卒採用と比べれば教育コストもカットできますので、企業としてもメリットがありますから。

20代の採用ニーズが高い、DX企業とカスタマーサクセス

森本 千賀子さん

――特に第二新卒の採用が活発な業界はどこでしょうか。

デジタル技術を活用し、ビジネスモデルや業務プロセス、サービスや製品の改革を行う企業のことを「DX銘柄」と呼びますが、こうした企業の採用活動は非常に活発です。

サブスクリプションモデル、つまり製品を売って終わりではなく、契約期間の間サービスを利用できる継続課金型のビジネスモデルに、今、世の中全体がどんどんシフトチェンジしていますよね。

こうした製品・サービスを提供しているBtoB企業は今後も業績の伸びが期待できますし、必然的に人材ニーズも上昇し続けます。

また、企業規模で言うなら、大手はまだ採用を抑えているところも多いですが、スタートアップやベンチャー企業の多くは第二新卒採用に意欲的です。

――逆に、新型コロナの影響で、第二新卒採用の抑制が顕著な業界はどこでしょうか。

コロナ禍で大きな打撃を受けた外食産業や金融機関などは、ポテンシャル層の採用をまだ抑制していますね。これらの業界は、新卒を大量採用してきた業種なので、新人を一気に迎える余裕はないのではないかと思います。

一方で、新卒採用を絞った分、第二新卒採用にフォーカスする企業も一部存在しますが、外食や金融機関などの業界では少数派と言えるでしょう。

――コロナ禍に、採用ニーズが高まった職種はありますか?

やっぱり営業職ですね。特に営業職の場合、経験がなくてもポテンシャルを見込んで採用することが多く、第二新卒など20代の需要は高いです。

しかし、ここでいう営業職は、非常に細分化されているのが特徴です。

――というと?

一般的に皆さんがイメージするのは新規開拓やルートセールスのようなアウトバウンド営業だと思うのですが、最近需要が高まっているのが、カスタマーサクセスと呼ばれる職種なんです。

簡単に言うと、契約している顧客に対し、自社の製品やサービスを使うことで成功体験を得られるように提案や支援を行う職種です。

例えば、顧客管理システムを導入している企業があるとします。けれど、そのシステムがどんなに優れていても、機能をフルに活用できていなければ、導入効果は激減しますよね。

顧客が何のためにシステムを導入したのか。導入の目的を達成するために何が必要なのか。そのプランを立案し、顧客をリードするのがカスタマーサクセスの役割です。

先ほどもお話しした通り、今、サブスクリプションモデルの製品・サービスが広まっています。これらは売って終わりではなく、どう利用してもらうかが重要。その伴走役として、カスタマーサクセスという仕事の価値が高まっているんです。

――なるほど。そうなると、営業系の職種と言っても、アウトバウンド営業とは求められるスキルが違いそうですね。

そうなんです。こうしたカスタマーサクセスはアウトバウンド営業と違い、ある程度リレーションができている状態からさらに顧客との信頼関係を深めていきます。

ですから、飛び込み営業やテレアポは自分にはできないと思っている人にも素質はありますし、業績好調に伴い人材ニーズは右肩上がりなので、キャリアチェンジを考える20代の皆さんにはぜひ一度検討してほしいですね。

リモートワーク疲れや自粛疲れが、転職の引き金に

森本 千賀子さん

――緊急事態宣言下で、20代からはどのような転職相談が増えていますか?

会社がコロナ対応に追われる中で、なかなか十分な教育や研修を受けられず、自身のキャリアアップやスキルアップに不安を抱いている人は非常に多いなと感じています。

特に2020年度の新卒に関して言うと、まだリモートでの研修体制も整っていなかったため、研修期間の間、「この本を読んでおいて」と課題図書を指定されただけで、あとは放置という人も少なくなかったようです。

一方で、運良くデジタル対応がスムーズに実現できた会社に入社できた大学の同級生は、しっかり研修を受けた上で、すでにバリバリ活躍している。そんな現状の差に不安や焦りを感じて、転職を考え始めたという声は、この1年、非常に多かったです。

――同じ世代の中で、どんな会社に入社したかで、経験格差が大きくなってしまったわけですね。

その通りです。デジタル化に乗り遅れた企業やこれまでのやり方をフットワーク軽く変えられなかった企業に入社した場合、体系的な研修もOJTもろくにないまま、何となく社会人生活が始まってしまい、成長実感を得られないまま……という20代の不安の声をよく聞いています。

また、仕事が終わっても狭いワンルームで一人暮らし。在宅で仕事をするにも、仕事用のデスクもなく、段ボールを机代わりにしているなんて人も。

そういう状況の中ではつい思考もマイナスになりがち。東京にいても仕方ないし、実家に帰って地元で働こうかなと考えて相談にいらっしゃる方も以前よりグッと増えました。

――では、そんなコロナ禍だからこそ、求職者が企業をチェックする上で重視すべきポイントはありますか。

やっぱりどれだけ時代に合わせた対応ができているかですよね。会社の方針によりますが、一次面接から対面というところだと、入社後もリモートワークに関しても消極的なのかなと、ちょっと不安になってしまいます。

どうしても、対面で働く必要がある業態もあると思いますが、そうでもないにもかかわらず、柔軟な働き方を取り入れられていない企業は、これから先も成長限界がくるのではないでしょうか。

説明会や面接といった初期ステップで、どれだけオンライン対応ができているかをチェックして、その企業のデジタルリテラシーを確認するとよいと思います。

オープンイノベーションの時代に求められるコミュニティー感度

森本 千賀子さん

――逆に、企業はどんな20代を採用したいと思っていますか? withコロナの時代に、第二新卒のようなポテンシャル層に特に期待されていることは何なのでしょうか。

一番は学習意欲です。リモートワークを導入している会社では、従来のように手取り足取り新人に仕事を教えることができないのは事実です。ですから、何でもかんでも「教えてください」という姿勢の人では採用されにくいと思います。

余暇の時間が増えた中で、いかに自主的に新しいスキルや知識を学びに行ったか。何かしらの資格をとった方や、TOEICのスコアをこれだけ上げたという方は、強いアピール材料になると思います。

――なるほど。自走できる人かどうかを、分かりやすく証明することが大事というわけですね。

はい。あとは、特に20代の方だからこそ、コミュニティーに対する感度の高さは評価の対象になりやすいと思います。

――コミュニティーに対する感度とは?

今はオープンイノベーションの時代。会社の仲間だけでなく、組織の枠を飛び越えて、どれだけのつながりをつくっていける人なのか、そして、そのつながりをビジネスに生かすことができるのか。そうした能力がよりいっそう求められるようになってきています。

さまざまなコミュニティーに所属し、積極的に活動している人は、そうしたセンスがあると評価される可能性は高いです。

――企業が働き方をアップデートしなければいけないように、働く人たちもまた常にアップデートし続けることが大事なんですね。

まさしくその通りだと思います。

今は半年先の景色がどうなっているかの見通しすらつかない時代。硬直化した考えを持っていると、変化に対応できません。常に学び続け、変化にワクワクできる。そういった方が、こんな時代でも自分のキャリアを切り開いていけるのです。

取材・文/横川良明


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