顧客体験(CX)とは?顧客体験価値を高める5つのステップ
「モノより思い出」といったキャッチコピーに象徴されるように、近年は人々の消費に対する価値観が変化してきています。営業・マーケティングの世界でも盛んにに「顧客体験価値を高めることが大切」「優れた顧客体験の提供に力を入れるべき」と言われるようになりました。
これは、顧客体験と業績の相関関係が、米国Forresterなどの調査会社から発表されたことが強く影響しています。昨今は顧客体験価値のランキングも発表されるようになっています。
●米国KPMG社が「2020年米国カスタマーエクスペリエンスエクセレンス(CEE)レポート」を発表
●日本でも2019年からC Space Japan社が「顧客体験価値(CX)ランキング2019」を発表
「顧客体験」は経営指標としてますます重要度を増していると言えるでしょう。
しかし、そもそも「顧客体験(CX)とは何か?」と考えると、今一つピンとこない人も多いのではないかと思います。
そこで、本記事では顧客体験とは具体的に何を指すのか?なぜ重要なのか?顧客体験価値を高める方法を解説します。
※この記事はセールスハックスに掲載された記事の転載です
顧客体験(CX)とは
顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)とは、Customer(顧客)と Experience(体験)を組み合わせた用語であり、「顧客体験価値」「顧客経験」「顧客経験価値」と表記されることもあります。
顧客体験とは、商品・サービスと顧客が触れ合う「顧客接点」での体験に対して、顧客側が感じる「合理的価値」や「感情的価値」のことを指す概念です。
わかりやすい例としては以下のような顧客体験があります。
●商品の広告を初めてみたときの印象
●Webサイトに訪れたときの印象、サイトのわかりやすさ
●SNSでの評判を調べたときの感想
●店舗やモデルルームに入ったときの感覚
●営業マンの説明を受けたとき(印象、振る舞い、知識への評価)
●商品を試してみたときの満足度、ワクワク感
●購入後にカスタマーサービスに連絡したとき(つながりやすさ、親切さ)
●ユーザーコミュニティでの他ユーザーとのやりとり(楽しさ、向上心)
●購入後にサプライズなメッセージを受けたとき、他
など、さまざまな接点において顧客が感じる好感度、満足度のことです。前述のように顧客体験価値を高めると収益向上につながると判明してきたため、多くの企業が顧客体験向上に力を入れ始めています。
顧客体験(CX)がなぜ大切なのか
なぜ、顧客体験が大切なのかというと、昔と比べて顧客接点の場が激増しているからです。今は先進国でも新興国でも多くの人がスマートフォンを所有し、企業からの情報だけでなくWebメディア、SNS、口コミサイトから価値のある情報を簡単に得ることができるようになりました。
これまではリアルの店舗で直接会って感じたことも、今ではオンラインで先に印象が決まってしまいます。各タッチポイントでの顧客体験が悪い印象であれば企業のブランドやイメージに影響が出てしまいますし、逆に心地よい体験であれば、ブランドやイメージのアップにもつながるなど、オンライン上での顧客との接点も企業にとって認知や信頼の醸成に欠かせないものとなりました。
技術の進化も影響しています。例えば、不動産業界などはすでにARを活用したVR設計、VR内覧(自宅にいてもモデルルームを訪れた感覚で住宅を見ることができる)が可能になっています。スマートフォンからも手軽に内覧できるシステムがリリースされるなど、営業シーンでの顧客体験のレベルも向上しています。
例:VR内覧システム(スマホで物件の内覧)
サービス業界でも、2020年10月にオープンした「変なホテル奈良」が、フロントのチェックインを「非接触のホログラム(忍者、恐竜、執事)」で行い、古都の魅力を味わってもらいながらコロナウイルス感染症に対する不安を払拭するサービスを提供しています。安全かつ快適、顧客の想像を超える顧客体験の提供だと言えるでしょう。
BtoBでも、ビジネスマンの多くが煩雑に感じる契約書の捺印や事務業務を劇的に減らした「クラウドサイン」は導入企業に高く評価され、契約継続率99%を超えています。もう「紙の契約にもどれない」という声が出るほどの顧客体験です。
顧客の変化を理解し、最新の技術を積極的に導入して自社のサービスを進化させて、常に良い顧客体験を提供しようとする企業とそうでない企業は、成長力に大きな差が出てくる時代になっているのです。
顧客体験(CX)が重要視される背景
ここでは、顧客体験(CX)が重要視されるようになってきた背景を解説します。
インターネットの普及
まず、2000年以降のインターネットの普及です。誰もが手軽に商品・サービスについて情報収集し、比較検討できるようになりました。それだけでなく、今の消費者は発信者でもあります。SNSを通じて購入前はもちろん、購入後の使い勝手、アフターサービスの良し悪しなどを気軽に発信します。
2011年にNTTレゾナント株式会社が調査した「購買行動においてクチコミが与える影響」では購入時に情報収集をする手段としてWebと答えた人が96.7%。「口コミが購入に影響したと回答した人」は67.5%にのぼります。BtoCにおいては消費者=発信力を持つ一人メディアに変化したと言えるでしょう。
BtoBではSNSからの発信こそまだ少ないものの、情報収集についてはやはりWebが中心です。2018年にITコミュニケーションズ社が実施した「BtoB商材の購買行動に関するアンケート調査」によると、購買行動のおもな情報源のトップは「各種Webメディア」で43.8%。次が「企業のWebサイト」で27.4%。営業担当者はたった14.6%でしかありません。
BtoCであれBtoBであれ、オンラインでの顧客体験に力を入れなければ、いかに商品・サービスが優れていても購入の検討にすら上がらなくなる可能性がある時代なのです。
企業の発信力の向上
企業の発信力向上も理由の一つです。今はデジタル技術が進歩したため、オンライン上での発信方法に柔軟性が出てきました。TVCMのようなマスメディア広告と違いWeb広告、メールマガジン、SNSなどははるかに少ないコスト・労力で発信できます。昔なら宣伝やPR活動はテレビCM・新聞・雑誌くらいでしたが、今は多くの企業が広告、ネットメディア、SNSなどから見込み客に対して情報を発信できるようになり、必然的に企業と顧客の接点が増えるようになりました。
発信手段の例:
●メディア:オウンドメディア、一般メディア
●SNS:Twitter、Instagram、Facebook、TikTok
●レビューサイト:比較サイト、Googleマイビジネス
●イベント:ウェビナー、カンファレンス、展示会
●広告:リスティング広告、リマーケティング広告
●メールマガジン、他
モノ消費ではなくコト消費へ
先進国では「欲しいモノがない」という人が増え、代わりに体験や時間を楽しむ価値観を持つ人が増えています。いわゆるコト消費です。コト消費はそれ自体が顧客の体験へとつながるので「顧客体験が商材」と言っても過言ではありません。
2016年にGfK社が世界17カ国で「時間」と「お金」、「所有」と「体験」のどちらを重視しているかを調査した結果、日本では「所有」より「体験」が大切という人が他の国々と同様にかなり多い結果となりました(グラフ右側)。
また、令和2年版の「消費者白書」では、20歳代後半を中心にSNSに写真や動画を投稿することを目的として、行動している傾向があることが指摘されるなど、コト消費は若い世代に顕著です。
サブスクリプションビジネスの普及
モノ消費からコト消費、テクノロジーの進化などを背景にサブスクリプションビジネスが普及しています。音楽配信、動画などはもちろん、今やファッション、ソフトウェア、自動車、産業機器などさまざまな商品・サービスのサブスクリプションモデルが登場しています。
サブスクリプションは、企業にとっては長期的に継続活用してもらうことがメリットを生むビジネスモデルです。顧客体験がよくないと途中で解約されることになるため、企業はますます顧客体験を高めることに力を入れる必要が出てきました。
顧客体験(CX)と顧客満足度(CS)
顧客体験(CX)と似ている概念に顧客満足度(CS)があります。多くの企業が、これまで顧客満足度調査を実施して経営に活かしてきています。以下に、簡単に違いを説明します。
顧客満足度(CS)=購入後の満足度。顧客満足は顧客が商品を買ってみてどのくらい満足しているかを測るものであり、商品・サービスを購入したお客様の満足度に限定されます。
顧客体験(CX)=見込み客がSNSや検索で最初に商品・サービスを発見したとき、検討のために情報を入手した時、購入した時、活用中の満足度など、商品の検討段階から実際に使い続けるまでの一連の接点での体験に対する満足度です。「既存顧客」と「見込み客」の両方が対象です。
顧客体験(CX)を分析するためには
自社が提供する顧客体験を分析する手法はいくつかありますが、ここでは比較的簡単なNPS(ネットプロモータースコア)を使った方法を紹介します。NPSは一つの質問による調査ですが、収益性や業績との高い相関関係があることで知られる有用な手法です。
Step1:「あなたがこの〇〇を友人や知人に薦める可能性はどのくらいですか?」という趣旨のアンケートに0~10の数字で評価してもらいます。
Step2:結果を集めて下記の基準で「推奨者」「中立者」「批判者」に分類します。
9~10をつけた人=推奨者
7~8をつけた人=中立者
0~6をつけた人=批判者
Step3:計算式でNPSのスコアを出します。NPSスコア=推奨者の割合―批判者の割合となります。推奨者が10%で批判者が60%なら、以下の数値がNPSです。
推奨者10%-批判者60%=-50(NPSスコア)
NPSのスコアが高いと(推奨者が多いと)顧客体験価値も高く、SNSなどを通して拡散してくれる可能性があるので業績にもプラスになります。このNPSを事業所ごと、主要な顧客接点ごとに定期的に実施すると自社の顧客体験(CX)のレベルや、施策によって顧客体験が改善しているかどうかがわかります。
注意事項としては、日本人の場合は回答が中央値による傾向があるため批判者が多くてもあまり気にしないことです。「2020年NPSランキング&アワード」の業界トップも軒並みマイナススコアです。自業界での比較や自社の顧客接点ごとのスコアの比較に目を向けることがポイントです。
顧客体験価値を向上させる5つのステップ
ここでは、NPSを活用して顧客体験の価値を高めるステップを解説します。
カスタマージャーニーを描く
顧客体験価値を高めるには、まず自社の理想的な購買顧客像(ペルソナ)を描きます。ペルソナは顧客インタビュー、アンケートなどを行った上で設定します。
そして、カスタマージャーニー(初めて商品を知るきっかけやタイミング~購入~愛用して他者への推奨にいたるまでの行動・感情の変化の道筋)を描いてみることが大切です。
見込み客はどのような人物なのか? → どのようなキーワードで検索するのか? → 最初はどのSNSで情報収集するのか? → どのような気持ちで情報を探しているのか? → どのような情報を欲しいと思っているのか? → その人は商品・サービスを購入して何を成し遂げたいのか?などをイメージしながらカスタマージャーニーを描くことで、自社と見込み客との接点を見える化することができます。
また、自社はWebあるいはリアルの「どのような接点で見込み客に見つけてもらえばよいのか」が見えてきます。
現状の顧客接点の課題を明確にする
カスタマージャーニーで「顧客接点を見える化」したあとは、現状の顧客接点で足りないところを明確にし、必要な顧客接点を増やすことを検討します。現状の顧客接点を以下の3フェーズで分類して、どの段階の接点が手薄であるか把握しましょう。
興味・関心の段階:広告、Webサイト、CM、DM、店舗の印象、営業マンの第一印象等
検討段階:Webサイトの情報の質・量、SNSでの評判、営業マンの能力、信頼度等
利用段階:商品の満足度、定期的なフォロー、ユーザーコミュニティの楽しさ、カスタマーサービスの対応等
NSPを活用して分析を行う
すでに存在している顧客接点に対して、NPSの現時点でのスコアを測定します。以下のように自然にリサーチできるタイミングで実施するとよいでしょう。
●カスタマーサポートへの問い合わせ後
●WEBサイトでチャットボットとのやりとり後
●電話相談会の後
●ウェビナー後
●モデルルーム来場後
●VR内覧(オンライン内覧)の後
●購入3ヶ月後、1年後等
※BtoBの利用段階におけるNPSは、営業マンが窓口として対応しているため、NPSをあまり頻繁に行うと顧客のストレスになる可能性があります。年に1度程度であれば、定点観測として受けとめてもらいやすいでしょう。可能であれば担当者だけでなく管理職層、企業規模によっては経営者なども対象にするとより確かな分析ができます。
解決策を策定する
上記の3フェーズで、明らかに顧客接点が少ないところに接点を新たに増やします。例えば、興味・関心の段階が少ないのであれば、ウェビナーを企画したりメールマガジンを新設します。
また、現時点でNPSスコアの低い顧客接点を洗い出し、課題を明確にして顧客接点ごとの解決策を策定します。特に、推奨者が備考欄で辛口のコメントをしている内容は重要です。多くの批判者は、コメントせずに黙って去っていくかNPSすら答えません。商品・サービスに愛着を持っている推奨者の意見は企業に対する真摯なアドバイスです。逆に、もし改善されなければ優良顧客を失うかも知れません。
例:
検証を行う
新しく設けた顧客接点での施策についても、NPSスコアが低かった顧客接点に対策を講じた場合でも、スパンをおいてNPSを実施して効果を検証します。一般にすぐに良い結果が出ることはそうなく一定の期間が必要です。どのような施策も100%成功することはないので、検証しながら新たに仮説を立てて実行し、さらに改善を繰り返していくことこそがもっとも重要です。
あわせて、データとは過去の産物なので、直近の環境の変化、自分のアイデア、新たに登場した革新的なツールなどの情報も踏まえながら、常に顧客により素晴らしい体験を提供できないかを意識し続けることが大切です。
まとめ
最近は、VRで部屋を見る際に不動産会社の営業担当者がオンライン上で部屋の特徴を説明するケースもあるようです。高額な商品・サービスを購入する際に、営業マンの介在があると安心する人はまだ多いもの。これからはリアルな顧客体験とオンラインの顧客体験のスムーズな連携が、より重要になっていくのではないかと思います。
顧客体験は時代とともにどんどん進化します。幸い、ITツールを活用すれば新しい施策の効果をある程度検証できる時代なので、リアルでもWebでも素晴らしい顧客体験を提供できるように、常に仮説を立ててPDCAを回していきましょう。
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※こちらの記事は『セールスハックス』より転載しております
>>元記事はこちら
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