本田翼が学んだ、プロの仕事を続けるための“70%理論”「完璧主義に固執せず、時には割り切る潔さも必要だと思う」
とびきり明るい笑顔で見る人を元気にしてくれる本田翼さん。
4年ぶりの復活となる映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』で、前作に引き続きヒロイン・ウィンリィを演じている。
今回、本田さんはある「初めての挑戦」に立ち向かったという。待望の続編にして堂々のフィナーレとなる本作で、どんな「Another Action」が待ち受けていたのだろうか。
※この記事は姉妹サイト『Woman type』より転載しています。
フルCGの撮影現場で求められた、そこにないものをイメージする想像力
映画『鋼の錬金術師』は、世界累計発行部数8000万部超のメガヒットコミックが原作。人気漫画家・荒川弘が描くダークファンタジーの世界をフルCGによって再現した。
あの伝説的映画『タイタニック』のCG制作にも携わった曽利文彦監督によるVFX技術はまさに圧巻の一言だ。しかし、演じる者にとっては、そこにないものをあるように見せるという高い表現力が求められた現場でもあった。
本当は海外で撮影する予定だったのですが、コロナ禍ということもあり、国外でのロケができなくなってしまって。
だから、今回はほぼグリーンバックでの撮影(合成のために緑色の布やスクリーンを背景にして撮影を行うこと)でした。これは、私にとって初めての挑戦でした。
ヨーロッパ調の美しい街並みも、鎧姿のアルフォンスも、撮影に臨む本田さんの目には見えない。それを見えているように演じるには、豊かな想像力が必要だった。
撮影の前に、監督がこのシーンはどういう状況なのかを説明してくださるんですけど、それがどれくらいの大きさで、どんな色をしていて、どれくらいのスピードでこちらに向かってきているのかはまったく分からない。
ほぼ想像でやるしかなかったので、仕上がりが不安でした。
エドワード役の山田涼介くんは、一作目の撮影の時からずっとグリーンバックで撮っていたので、改めて難しさについて話したのですが、『俺も不安だったし、仕上がりがどうなるのか想像できなかった』と言っていました。
だが、その不安や恐怖は初号試写で完全に吹き飛んだ。
街並みもCGと思えないくらいリアルだし、スカーとの戦いも迫力満点。一作目よりキャラクターが増えた分、よりストーリーに緊迫感が増していると思います。
仕事はタイミングを選べない。だから、常に準備が必要
さらに、演じるウィンリィにも前作以上に大きな見せ場が待っていた。
本作から登場する傷の男(スカー)は、ウィンリィにとって最愛の両親を殺した仇。スカーと対峙したウィンリィは復讐心と良心の間で激しく揺れ動く。
第三者からしたら絶対復讐なんてしてはいけないというのがベストな回答だとは思うんですけど、実際に自分が親を殺された立場であの場にいたら、冷静な判断はできないと思う。
それくらい葛藤の大きい場面でした。
でも、スカーがウィンリィの両親を殺したのも、自分の民族を殺された怒りからなんですよね。だから、ウィンリィはこの憎しみの連鎖を止めなきゃいけないと分かっている。
スカーと同じことをしてはいけないという正義の心と、スカーを許せないという悔しさがせめぎ合っているようなシーンでした。
その複雑な感情を自分のものにできるよう、原作を読み込み、アニメを見直して、撮影に備えた。
だが、実はこの撮影スケジュールも本田さんにとっては大きな挑戦だった。
実はウィンリィがスカーと対峙する場面が、撮影の初日か2日目だったんです。
まだ他の場面を演じてもいないのに、いきなり山場からだったので、緊張する余裕すらなかったというのが正直なところでした。
映画もドラマも、必ずしもストーリーの展開通りに撮影するわけではない。前後の文脈を考慮した上で、感情の流れに破綻がないように整合性をつけながら演じるのも、俳優にとって重要なスキルだ。
できれば、このシーンは撮影の終盤にあった方が気持ちが入りやすいのは確かです。
でも、これはどのお仕事もそうだと思うんですけど、タイミングは選べない。私の準備ができているかどうかなんて待ってくれないんですよね。
だから、その時が来たら何が何でもやるしかない。そこで言い訳がきかないのが仕事の大変さだなと思います。
確かにその通りだろう。突発的な案件に振り回されたり、スケジュールが急遽前倒しになったり。複数の人たちの利害が絡む分、仕事は往々にしてアンコントローラブルな状況に陥りやすい。
準備万端な日なんて来ない。万全でなくても最善を尽くすのが、プロというものだ。
本番はほぼ一発OKでした。まだインして間もないのに、そのシーンを撮り終えた瞬間、2作目をやり遂げたくらいの気持ちでした(笑)
燃え尽きたと思えるくらいの感情は出せたのではないかと思います。
いつどこでどんな仕事をすることになるか、そのタイミングは選べない。
だからこそ、いつもちゃんとできるように準備をしておくことが大事なんだと、今回の撮影を通じて改めて学びました。
「完璧主義すぎる自分」を手放した
急遽プレゼンをしなければいけない。明日までに急いで資料を完成させなければいけない。
そんな悪条件下に立たされて、「時間さえあれば、本当はもっとちゃんとしたものができたのに……」とはがゆい思いを味わったことがある人は多いのではないだろうか。
本田さんもかつてはそうやって「完璧なもの」を作り出せない自分が嫌になってしまいそうになったことがあるという。
だけど、ある時からそんな「完璧主義すぎる自分」を手放すことにしたと打ち明ける。
きっかけはYouTubeの編集だったんです。
動画を作っていると、ここでこんな音楽を入れたいとか、こんな効果音をつけたいとか、いろいろやりたいことが浮かんでくるんですね。でもそれを全部やっていると、いつまでたっても完成しない。
結局、時間がないからって完成しないまま途中でやめちゃった動画もいくつかありました。
だが、ある時、これではいけないのでは、と自身の考え方を改めた。
大事なのは、毎回完璧なものをつくることではなくて、まずちゃんと完成させること。
常に100%を目指さなくていいんです。70%くらいの出来を維持できればいいのかもしれない。もっと言うと、『70%の出来でも満足できる』くらいのものを作らないといけないんですよね。
時間は無限にあるわけじゃない。限りがあるからこそ、ある程度のところで『今回はこれで完成』と割り切る潔さも必要なんじゃないかと思うんです
70%を目指すことは、メンタルの面でも効果的だと本田さんは語る。
例えばですが、『常に100%』にこだわり続けてしまって、もしそこに到達しないままプレゼンの日を迎えたら、きっとすごく焦ると思うんです。
でも、もともと70%をゴールにしていたら、70%はできてるしって気持ちが安定する。心に余裕ができて、プレゼンも堂々と臨める気がします。
全部100%で完璧にやりたいというのは、実は一番甘い考えなのではないかと思うようになりました。
完璧主義になりすぎて身動きがとれなくなるくらいなら、『これが今回の私の精いっぱい』というくらいのものをしっかり見せていく方が経験値もたまるし、結果としてプラスかもしれないですよね。
そして、プロとして仕事をする上でもっとも大事なのは「健康維持」と本田さん。
常に準備万端な自分でいるために、睡眠、食事、運動などの基本的な健康管理は欠かさないという。
100%を目指して徹夜するくらいなら、70%で終えて、しっかり睡眠をとる。
私も今年で30歳。27歳を過ぎたあたりから、若さでカバーできなくなった分、ちょっとほっとくと、いろいろな体の不調に見舞われるようになりました。
だから、100%を目指すのはやめて、空いた時間でしっかり健康管理を意識して、運動をするようにしています。
ジムに行ったり、家でも寝る前のちょっとした隙間時間にストレッチをしたり。座っている時間が長いと、腰回りがむくむし、体が凝ってしまうので。
そうならないように、きちんとケアをすることの方が、長いお仕事人生にとっては大事なんじゃないかなと思います。
100%を目指さないという言葉は、そこだけ切り取ると消極的に聞こえるかもしれない。けれど、何か新しいことにチャレンジするときも役に立つ考え方だ。
やる前から完璧を求めるとハードルが高くなる。でも「70%でいい」と思えれば、フットワークを軽く、いろいろなことにトライできるはず。
本田さんの「Another Action」は、そんな“70%理論”に支えられていた。
<プロフィール>
本田 翼(ほんだ・つばさ)さん
1992年6月27日生まれ。2006年、ファッション雑誌『Seventeen』の専属モデルとしてデビュー。2012年に女優デビューを果たし、以後、ドラマ・映画・CMなど幅広く活躍。主な出演作にドラマ『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』『チート〜詐欺師の皆さん、ご注意ください〜』『オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ』、映画『都会のトム&ソーヤ』などがある。YouTuberとしても人気で公式チャンネル『ほんだのばいく』はチャンネル登録者数220万人超え。また、YouTube、Tiktokは一週間足らずで150万人フォロワーを獲得し話題に
■Instagram/ ■YouTube/ ■Tiktok
取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)編集/栗原千明(編集部)
作品紹介
映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』 公開日:2022年5月20日(金)
映画『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』 公開日:6月24日(金)
■原作:『鋼の錬金術師』荒川弘(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
■監督:曽利文彦
■脚本:曽利文彦、宮本武史
■出演:山田涼介、本田翼、ディーン・フジオカ、蓮佛美沙子、本郷奏多、黒島結菜、渡邊圭祐、寺田心、内山信二、大貫勇輔、ロン・モンロウ、水石亜飛夢、奥貫薫、高橋努、堀内敬子、丸山智己、遼河はるひ、平岡祐太、山田裕貴、麿赤兒、大和田伸也、舘ひろし、藤木直人、山本耕史、筧利夫、杉本哲太、栗山千明、風吹ジュン、佐藤隆太、仲間由紀恵、新田真剣佑、内野聖陽
■映画公式HP/Twitter
©2022 荒川弘/SQUARE ENIX ©2022 映画「鋼の錬金術師 2&3」製作委員会
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