「口だけの大人になりたくない」テロ・紛争解決スペシャリスト永井陽右を突き動かす“健全な反抗心”
テロや紛争の解決のために、現地のテロリストやギャングと直接対話を行い、投降の促進や投降兵・逮捕者の脱過激化、社会復帰支援を推進しているNPOがある。
その名はアクセプト・インターナショナル。代表を務めるのは現在31歳の永井陽右さんだ。
活動を始めたのは2011年。「ソマリアのような危険な地域を支援するなら、高い英語力と専門性、そして最低10年の経験が必要」と諭す有識者の反対を押し切り、大学一年生の時にソマリア支援団体を立ち上げた。
それから10年がたった。永井さんは今まで誰も手を伸ばしてこなかった紛争リスクの高い地域で、現地の平和に直結する高い成果を上げている。
命の危険が伴う活動であることは言うまでもない。しかし、どんなに危険な目にあっても、永井さんの意思は決して揺るがない。
「テロや紛争のない世界を実現する」という困難なミッションに挑み続ける、永井さんの原動力、そして“自分軸”とは。
人を殺した元テロリストでも、まずは「受け入れる」
私たちは現地のテロリストやギャングたちと向き合い、対話を通じて彼らのマインドと行動を変える支援を行っています。
投降して会話ができる状態になった相手に対し、カウンセリングやスキルトレーニング、ワークショップなどを通じて、過激化防止や社会復帰支援を促すのです。
大切にしているのは「受け入れる」姿勢です。相手は過激派組織にいた人たちですから、今までに何人も殺している、ということはよくあります。それでもまずは相手の存在を認めて、対等な関係性を立ち上げることから支援を始めています。
「人を殺した人を『受け入れる』だなんて、信じられない」と思う人は多いかもしれません。しかし実際のところ、感情はあまり関係ありません。テロや紛争のない世界を実現するためには、対話の姿勢が絶対に必要だと分かっているから、そういう姿勢で接するのです。
私はどんな時も「テロや紛争の解決」というミッションを手放しません。だから相手がどんな人間であろうと、向き合い続けられるのだと思います。
この活動を始めたきっかけは、東日本大震災にさかのぼります。
大学入学を目前に控えていた私は、東北でボランティア活動に取り組んでいました。その時に偶然、ソマリアで起きた飢饉によって26万人が亡くなったというニュースをネットで目にしたのです。
震災の直後は、世界中の人々が日本を励ましてくれました。ところが、日本の10倍以上の人が亡くなっているソマリアに対する世界の関心は、比べ物にならないほど低いものでした。
「これはおかしい。自分が支援するべきはソマリアだ」。そう思って調べるうちに、全ての問題の根源は武力紛争にあることが分かりました。
しかし、紛争解決は世界で最も難しいイシューの一つです。対話が困難な過激組織と和解する方法が載っている教科書などもありません。
私は日本の大学を卒業した後、ロンドン大学で紛争研究のマスターを取りましたが、どのテキストにも正解は載っていませんでした。そして実際に現地で動いてみると、外から観察していたものとは何もかもが異なる世界が広がっていました。
10年前と比べると、課題に対する解像度は圧倒的に高まりましたが、いまだに難題にタックルしている感覚は変わらないですね。
皆さんの想像するように、この仕事はとても危険です。命を狙われますから、防弾具などの装備は常に身に付けていますし、自分の居場所は絶対に明かさないようにしています。
現に、自分たちの協力者がこれまでに何人も亡くなっています。つい先月も、連携していた市長が過激組織のメンバーと思われる人物に爆弾攻撃を仕掛けられて、本人を含む11人が一気に命を落としました。
活動の中でこうした事件が起きてしまうことを、私は重く受け止めています。
言い出しっぺである私は、このイシューに関わると決めた以上、何があっても責任を果たさなくてはいけない。その決意は、今日まで続く原動力の一つになっています。
困難なイシューの解決に必要なのは「10年の下積み経験」ではない
私の原動力はもう一つあります。それは、社会に対する反抗心です。
子どもの頃から、親や学校のような存在に対して争う気持ちがありました。いつも「いい人ぶっている奴らめ!」「良いことしか言わない社会め!」と思っていたんです。
その反抗心は、大学1年生の時に最高潮に達します。あの頃は「口だけの大人め!」と強く感じていました。
なぜそう思うようになったのか。ソマリアの支援を始めるために、私は平和活動の有識者に話を聞いて回っていました。そこである人が、私にこんなことを言ったんです。
「ソマリアのような危険な地域を支援したいのなら、最低でも高い英語力、高い専門性、そして10年の経験が必要です。まずは東南アジアなどの比較的安全な土地で経験を積んだらどうですか?」
信じられないと思いました。今この瞬間もテロや紛争で人が死に続けているのに、10年も指をくわえて見ていろだなんて。
それに、すでに「高い英語力」「高い専門性」「10年の経験」を持っている大人はごまんといるはずなのに、誰もその力を使ってテロや紛争の解決に取り組もうとしていないじゃないか。
その時に自分は悟りました。困難なイシューに立ち向かうために必要なのは、「高い英語力」「高い専門性」「10年の経験」といった誰にでも手に入れられる三つの要素などではなく、不退転の決意なのだと。
あれから10年がたち、私はその三つの要素を持つ大人になりました。そして今、過去の自分に今の自分が厳しく問われているのを感じるんです。
「口だけの大人め!」と叫んでいた自分が、結局口だけの大人になってしまったらダサすぎますよね?
過去の自分からのプレッシャーはきついですが、それを糧に前に進み続けられているのは、健全なことだなと思っています。
「信念を手放さない」キャリアには、見通しと準備が必要
もし皆さんに「このイシューを解決したい!」と心に決めたものがあるのなら、キャリアプランニングをする際には、いかにそこから「離れないか」を考えてほしいなと思います。
多くの人は、「あの会社でコンサルタントになりたい」というように、ジョブポストからキャリアを組み立ててしまいがちです。しかし、自分が一番やるべきだと思っているイシューに取り組めるジョブポストは、まだ世の中に存在していないかもしれません。
私の場合はそうでした。似たような領域にアプローチできる仕事はあっても、その方法ではイシューを解決するには甘すぎると感じていたので、自ら団体を立ち上げました。
そして、この活動で給料が出るのは当分先になるだろうと思っていたので、大学院を卒業する時点で一定の貯金をためていました。途中でどこかの企業に就職するなどして、ミッションをうっかり手放してしまうことがなかったのは、将来の見通しを立てて虎視眈々と準備をしてきたからだと思います。
信念に従って突き進めるのは、若さの特権です。しかし、何年経っても自分の心に決めたことに向き合い続けていくには、それを実現するための「見通し」と「準備」が欠かせません。
誰にも譲れない大切なことがあるのなら、それを決して手放さないでください。解決したいイシューに真っ直ぐに向かっていける道を考えて、最適なアプローチ方法をひたすら研ぎ澄ます。そうすれば、道は開けるかもしれません。
仕事は憂鬱でいい。なぜなら絶対にやめないから
今後については、テロ組織や武装勢力にいる若者たちの権利を保護するための国際条約を作りたいと考えています。
私たちの団体では、相手の元テロリストたちが18歳以下の場合、子どもの権利を守る強力な国際法を背景にさまざまな支援の手を尽くしています。
しかし、それより上の年齢の若者は犯罪者と見なされてしまうため、思うような支援ができないジレンマがありました。
もし条約が成立すれば、若者たちを支援する正当性ができますし、彼らをエンパワーする新たな枠組みを導入することもできます。それは、テロや紛争のない世界に近づく大きな一歩になるはずだと確信しています。
今まで続けてきた現場での活動を拡大しつつも、これからは世界の枠組みを変える活動に注力することで、より強力なインパクトを生み出していきたいです。
いろいろとお話ししましたが、皆さんが仕事に行くのが憂鬱なように、私も現地に行くのは憂鬱です。ものすごく危険ですからね。
でも、それでいいのだと思います。もし現地に行くのが楽しみだったら、嫌になった時に続けられなくなってしまうからです。
私だって、安全な国に遊びに行きたいなとか、ビールを造ってみたいなとか、やりたいことはいろいろあるんです。でも、そういうものを全部超越して「嫌だけど行くか」と思えている。
「やるべきこと」とは、飽きちゃったとか、他にやりたいことができたとか、そういう理由でやめるものではないのではないでしょうか。どんな時もミッションを手放さず、やるべきことをやる。それが自分にとっての“仕事”です。
意志を貫ける人間としての役割を、これからも果たしていきたいと思います。
Information
永井さんが代表を務めるNPO法人アクセプト・インターナショナルでは、「テロや紛争のない世界を創る」ための寄付金および、活動を継続的に支援する「アクセプト・アンバサダー」を募集中。
>>詳細はこちらから
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