川上洋平が明かす[Alexandros]を躍進させた三つの改革「自信なんてない。だから、自信が持てるまで努力した」
プロという言葉を聞くと、「特別な才能を持った人」をイメージするかもしれない。
ロックバンド[Alexandros]のボーカル&ギターとして、オーディエンスを熱狂させる川上洋平さんは、まさに選ばれしプロフェッショナル。
しかし、川上さんは自分のことを「基本的に60点の人間なんですよ」と語る。
それは決して自虐ではない。自分という人間と向き合い続けてきた川上さんだからこそ出る言葉だ。
今でこそ多数のヒット曲を抱える[Alexandros]だが、その下積みは意外なほどに長い。大学を出てからの数年間は、会社員との二足のわらじ生活だった。[Alexandros]を人気バンドへと育てた、川上洋平のプロフェッショナリズムとは。
※この記事は姉妹媒体『Woman type』より転載しています。
60点だと分かっていたからこそ、120点を取るために努力し続けた
自身にとって初のエッセイ『余拍』(宝島社)を上梓した川上さん。
幼少期から学生生活、音楽で食べていくことを目指して試行錯誤を重ねた20代の日々をつづる作業は、自分自身を再発見する思索の旅でもあった。
僕は、基本的に60点の人間なんですよ。
何に対しても高得点をとれず、全部そこそこのタイプというか。
でも僕は、自分がいつも60点の人間であることに満足はしていなかった。
目指していたのは、120点の自分だったんです。
じゃあ、残りの60点を上積みするためにはどうすればいいのか。
そんなことをただひたすら考えてきた人生だったと思います。
60点という謙虚な自己評価を口にする川上さんだが、エッセイにしたためられた文章には確かな自信があふれている。
私の場合、音楽に自信を見出すことが出来た。自分の作る楽曲が素晴らしいと信じ切れた。しかもロックという比較的、好きか嫌いかだけで判断出来るジャンル。大いに勘違い出来たし、自信を持てた。
引用:『余拍』(宝島社)より
いいパフォーマンスをする上で自信は不可欠。では、どうやって自信を持てるようになったのか。その根源を探ろうと川上さんに聞いてみた。
もともとは自信なんてないんですよ。
自信がないからこそ、自信をつけてから大一番の仕事に挑むんです。
例えば、何か大きなステージがあるとします。でもそこに立つには、自分にはまだ能力が足りない。
そういう今の自分に足りないものが、僕はわりと分かる人間なんですよね。
そう言って振り返ったのは、『余拍』にも描かれた小学生時代のことだ。
クラスメートの笑い声でにぎわう教室で、川上さんは気付いた。「自分はただそこにいるだけで人が集まってくるような人気者ではない」と。
その自覚が、今日へとつながる正確な自己分析能力の起点となった。
クラスに40人いる中で女子からの人気ランキングはこれくらい、勉強ランキングはこれくらい、体育ランキングはこれくらい、というものってあると思うんですね。
その自分のポジションを知ることが、自分という人間を知る最初の気付きになりました。
今はA地点にいるとして、いずれC地点に到達したいと思ったら、どういうB地点をたどればいいのか……。ということを考えるようになったし、分かるようになった。
そういう自分を俯瞰する視点というのは、今この仕事をする上でも生きていますね。
自分の現状を正しく知ることは、理想に近づくためのルートを把握することでもある。ルートさえ分かれば、やることは一つ。努力するだけだ。
だから目の前のステージに向けて足りないものがあったとしても、そこで自信を失くしたりはしない。
むしろ、その足りないところさえ補えたら自信を持ってステージに立てるんだと考えるタイプ。
そして、その足りないものを身に付けられるだけの努力をする。
そうやってひたすら自分の立ち位置を把握して、努力することを繰り返して、「自信のある僕」の状態でステージに立ち続けているんです。
[Alexandros]が「売れる」ために行った三つの改革
北米ツアーを成功させるなど、今や海外にもその名をはせる[Alexandros]。ブレークまでの道のりは長かったが、スターダムへと駆け上がる転機がやってくる。
きっかけとなったのは、三つの改革だった。
まずは音を変えました。
駆け出しの頃、[Alexandros](当時は[Champagne])は代々木公園で路上ライブを敢行していた。路上ライブで注目を集め、自身のライブへと集客する。それは確かに新人バンドの正攻法だった。
公園って平和なんですよ。家族連れやデート中のカップルがいて、穏やかな時間が流れている。
いつの間にかその雰囲気に合わせた曲ばっかりやるようになっていたんです。
でも、そうじゃない。自分たちのやりたい音楽は、もっと激しくてロックな曲だったはず。
それを思い出してから、自分たちはどういう音楽をやりたいのか、もう一度原点に返りました。
イメージしたのは、ライブハウス。
そこでお客さんたちが熱狂するようなカッコいい曲をやりたい、と。
そのためには自分たちが心の底から音を出している感覚になれる曲をつくらなきゃダメだと考えて、出来上がったのが1stアルバムの『Where's My Potato?』。そこからすべてが変わっていきました。
二つ目の改革は、見た目だった。
レザージャケットを着て奏でるエレキと、Tシャツ一枚で奏でるエレキでは、同じ曲でも全然違う。
そこはちゃんとこだわっていこうという話になって。当時、僕と磯部(寛之)は太っていたので、スキニーデニムを履けるようにダイエットをしました(笑)
ロッカーなら、見た目よりも音で勝負すべき。そんな声もありそうだが、川上さんの考えは逆だった。
ロックバンドこそ、さまざまなファッションを生み出したカルチャーアイコン。
お金を払ってくださるファンの皆さんの視覚を楽しませることも大事だし、そこをないがしろにするのは職務放棄だと思う。
もちろんいろんな考えがあっていいし、それを否定はしないけど、僕たちはそれも一つのアートだと思って、“カッコつけきる”ことを選びました。
そして三つ目の改革が、パフォーマンスだ。
売れなかった頃の演奏を聞き返すと、がむしゃらなのはいいけれど、単純に下手だったんですよね。
そこで、自分たちのライブ映像を見たり、スタジオのリハーサル風景を撮ってみんなで見直したりしながら、とにかくうまくなるために練習し続けました。
音、見た目、パフォーマンス。この三つが高いレベルで融合したとき、初めて[Alexandros]は突き抜けた。自分に足りないものを知り、それを埋める努力をする。川上さんはそうやって夢を現実に変えたのだ。
プロとは、常に中心に立って物事を考えられる人のこと
こうして話を聞いていると、川上さんのロジカルな思考が際立ってくる。
実際、「[Alexandros]のフロントマンであることにはそこまでこだわっていない。ただ、[Alexandros]のプロデューサーとして君臨したい」と自身のエッセイでも明かしている。
僕は自分の中でアーティスト脳とプロデューサー脳を完全に切り分けています。
曲を作ったり、ライブをやったりしているときは完全にアーティスト脳。
でも、ステージを降りれば、そこからはプロデューサー脳。
バンドはマネジメント会社とレーベルとの契約の下で音楽を世に届けていますから、ちゃんとその二社の意向をくみ取らないといけないし、その上で自分たちのつくり上げたい世界観を打ち出していかなければならないと思っています。
そんな川上さんの考えるプロとは何か。その答えは、実に川上さんらしいものだった。
プロとは、中心であることかなって。
中心とはどういう意味だろう。そんな疑問に先回りするように、川上さんは自身の会社員生活を振り返った。
僕は会社員時代、メーカーで営業をしていました。
でも、メーカーには営業以外にも企画や製造などいろいろな役割があり、彼らがどういうものをつくっているのかを知らなければ、物は売れません。
だから、他の部署のこともすごく勉強しました。
そこで学んだのが、お互いの仕事を知る重要性です。
この世のほぼすべての仕事は、一人ではなし得ないものだ。
どんなに独立した作業であっても、他の人たちの多種多様な業務が有機的に絡み合うことで、一つの仕事として価値を発揮する。組織に身を置くことで、川上さんはそのことを理解した。
それは今の仕事でもそうなんですよね。
マネジメントの人も、レーベルの人も、アーティストがどういう気持ちで仕事に挑んでいるのかを分かっていないと、いい関係性は築けない。
例えば、アーティストが「用意された服が気に入らない」と言ったとします。
スタイリストからしたら、すげえワガママなやつに見えるかもしれない。
でも、アーティスト側の意見で言えば、やっぱり自分がいいと思った服でないといいパフォーマンスはできないんですよ。
そのことをちゃんと理解してくれている人なら、はたから見たらワガママに見えることも、その人のこだわりなんだと分かる。
そして、こだわりだと思ったら、そのこだわりをかなえるためにベストを尽くそうという気持ちになるはずです。
そうすることで、全体の仕事が良くなりますよね。
会社の仕事に置き換えたら、よりイメージしやすいだろう。デザイナーやエンジニアはより良いものを作ろうとして、時に予算や納期を度外視する。
一方、営業や管理は数字を厳守する。大切なものを違えたときに、衝突が生じる。そこで相手をなじることは簡単だ。でも、敵対関係からは何も生まれない。
お互いの考えを尊重し、こだわりをプラスに変換できたとき、思ってもみない相乗効果が生まれるのだ。
自分の仕事なんてほんの末端だからって軽く見ていたら、相手がどうしてそんなことを言うのか、相手が何を求めているのかまで考えられない。
でも、自分の仕事を中心として捉えたら、周りにいてくれる人たちのために何ができるか、もっと真剣に考えられる。
その上で大切なのが、自分なりの軸を持っておくこと。
僕の立場で言えば、こういうことがしたいというものがあったとしても、それはマネジメント会社やレーベルから見たらワガママかもしれないと、いったん周りのフィルターを通して考えられるようになった。
そして、それでもこだわりとして守りたいものがあるなら貫き通す。
相手の立場に立つことと自分のこだわりとなる軸を貫くこと、それらを両立できるのが、本当のプロなんじゃないかと思いますね。
それは、「仕事を自分ごと化する」という感覚に近いのかもしれない。当事者意識を持ち、常に全体把握し、背景や理由を考えた上で、最善を尽くす。
協働が求められるからこそ、仕事を他人ごと化してはならないのだ。
圧倒的な自信は、圧倒的な努力によってつくられる
2022年10月から12月にかけて、名古屋・大阪・東京の3カ所を回るアリーナツアー「But wait. Arena? 2022 supported by Panasonic」を行う[Alexandros]。
最高のライブにするために必要なことは何か。川上さんの答えはシンプルだ。
練習あるのみです。
僕が唯一自信を持っているのは、いいものが分かっている人間だということ。
これがいいものだというイメージが、僕の中に明確にある。
でも、自分はまだそこに届いていない。
だから、そこに到達するまでひたすら練習あるのみなんです。
そう愚直に突き進む姿に「僕は基本的に60点の人間なんです」という冒頭の言葉がリフレインした。
スポットライトを浴びるのは、完成された、完璧な人たちだと思っていた。でもそうじゃない。ステージの裏側では、いつも自分に足りないものを求めて、必死にあがいている人がいる。
そして、その努力の量が、彼らに自信をもたらしているのだ。理想に向かって己を磨き続ける人たちのことを、人はプロと呼ぶのかもしれない。
プロフィール
川上洋平(かわかみ・ようへい)さん
神奈川県出身。6月22日生まれ。4人組ロックバンド[Alexandros]のボーカル&ギター。バンドのほぼ全曲の作詞・作曲を手がける。2022年7月、8枚目のフルアルバム『But wait. Cats?』をリリース。2022年10月現在、アルバムリリースツアーを敢行中。また2021年には俳優として『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』でドラマ初出演を果たし、話題を集めた
■Instagram ■Twitter
書籍情報
2022年9月28日発売
[Alexandros]川上洋平エッセイ『余拍』(宝島社)
シリアで過ごした幼少期、帰国後の学生生活。20代後半でデビューし、駆け抜けてきた音楽への思い、そしてこれからの人生について、川上さんがこれまで明かすことのなかったエピソードが描かれたエッセイ。
刊行にあたり、かねてから親交のある岩井俊二さん、スガシカオさん、GLAY・TERUさん、TAKUROさんが本書へメッセージを寄せています。
さらに、バンドのメンバーでベース&コーラスの磯部寛之さんも川上さんとの出会いやバンド結成、ともに歩んできたこれまでを振り返り、思いをつづっています。 カラー30ページに及ぶ撮りおろしカットも含む、ファン必見の一冊。
取材・文/横川良明 画像/[Alexandros] 川上洋平エッセイ『余拍』(宝島社)
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