【酒向萌実】ベンチャー社長→大手会社員→政治家へ「20代で転職を重ねて、いい意味で諦めがついた」
クラウドファンディング事業を行うGoodMorningの代表に25歳で就任し、数々の社会課題解決に取り組んできた酒向萌実さん。
2022年に代表を退任して大手企業の一会社員になったことで周囲を驚かせた彼女が、23年明けにまた新たな選択を発表。
それは、政治家に転身し、自身が生まれ育った武蔵野市で政治活動にチャレンジするということだった。
新しいチャレンジはじめました!地元、武蔵野市で政治活動をしています🐘🌿
「もっと武蔵野市を良くするアンケート」実施中💡https://t.co/XT1zTfwdsP
これからの武蔵野市をよくする政策を考えるため、武蔵野市のみなさんの意見を聞いています。
5分で回答できます。ご協力よろしくおねがいします! pic.twitter.com/SexJdbCv7v— さこうもみ|武蔵野市 🐘Ⓜ️(she/her) (@SAKOMOMI) January 25, 2023
今年2月に大手企業を辞めて政治活動に専念するようになった酒向さんは、「ほとんど収入がないので、貯金を切り崩してやっています」と言いつつ、明るい笑顔を見せる。
「私にはこういう生き方しかできないんです。29歳になった今、いい意味で諦めがつきました」
そう言い切る彼女はなぜ今、政治活動に乗り出したのか。仕事を続けていく上で、自分にとって“最も大事なもの”に酒向さんが気付くまでの道のりを聞いた。
※この記事はWebマガジン『Woman type』より転載して掲載しています
政治家になれば、もっと根本的に社会課題解決ができるかも
最初に政治家になりたいと思ったのは、グッドモーニングを辞める前でした。
クラウドファンディングを通じて3000件以上の社会課題解決のサポートに関わってきましたが、「これって税金を使って行政が解決すべき課題なのでは?」と思うことがいっぱいあったんです。
例えば、クラウドファンディングで「子ども食堂」のサポートに携わった時のこと。
一日の食事もままならない、ご飯が十分に食べられない、そういう子どもが少なからず存在するなら、それを民間企業や善意の個人だけがサポートし続けるのは現実的じゃない。行政が継続的に支援していくべき社会課題なんじゃないかと思いました。
そして、数々の現場で「行政が動いたことで世の中が大きく変わる」様子をたくさん目にする機会があったので、私が政治家になればもっと根本的に社会課題を解決していけるんじゃないかという思いが次第に強くなっていったんです。
でも、選挙に出られるのは4年に一度なのでタイミングは決まっているし、自分が次の選挙に出られるようになるまでにはまだ数年時間があった。
そこで、グッドモーニングの代表を退任して大手企業で会社員として働いてみることにしました。
なぜなら、大手企業を内側から変える難しさを自分の身をもって体験してみたかったから。
自分の中では理屈の通った選択だったんですけど、周囲の人は驚いていましたね。「なんで企業の代表をやっていた人がいまさら会社員になるの?」って本当にたくさんの人から言われて(笑)
でも、別に経営者はキャリアの上がりじゃないし、私はまだ20代。ずっと経営者でいなくちゃと思うより、その時々でチャレンジしたい働き方ができればいいのかなと思って転職することにしました。
ベンチャー代表から大手企業の会社員になって感じたギャップ
入社した大手企業では、企業のサステナビリティー推進に関わる仕事をしていましたが、これまでずっとベンチャー企業で働いていたので、入社後のギャップは大きかったです。
例えば、これまで自分は社会課題の解決それ自体が目的で、そのために必要な資金を会社の利益として生み出している感覚でした。
でも、大手の場合は会社を継続すること自体が目的。株価を上げたり、会社の評判を下げたりしないようにサステナビリティー関連事業に取り組んでいるように思えました。
もちろん、大手企業がサステナビリティー推進に取り組む社会的な影響度は大きいから、経営に新しい切り口が加わったことはすばらしいこと。
ですが、私個人としては「社会課題を解決する」ことそれ自体が仕事をする目的だから、意識のズレを感じることもありました。
それに、大手は部署や組織ごとにいろいろな方向を向いていて、色も形も違うバラバラの船で進んでいる感じがして、どこをどう動かせばみんなが一つの方向に進むのかが分からなかった。
ベンチャーは船が一個あってそこにみんなが乗っていて、船頭が「こっちに行こう」って力強く言えばみんながそっちに向かえる感覚がありましたが、それがまったく通用しないということも知って。
大きな組織になると、一つのことにみんなで向かうことがこんなに大変なのか……と本当に痛感しましたね。そういう意味で、会社員として過ごした時間もいい経験になったし、間違っていなかったなと思います。
ただ、政治活動を本格的に始めるにあたって、両立生活が体力的にも気持ちの面でも難しくなってきたので、今年の2月に会社を退職しました。
今は政治活動に専念していますが、ほぼ無収入(笑)。貯金を切り崩す生活をしばらくする必要がありますが、これから政治家としてやっていくための準備に集中して取り組んでいるところです。
「楽しく働く政治家」のロールモデルになりたい
政治活動って「政治団体」と呼ばれる人たちがやる必要があるんですけど、新しい政治団体を選挙管理委員会に登録すると、事務所の住所がサイトで公開されるんですよ。
私が最初にぶつかったのはこの住所をどうするかという問題。
自宅の住所を登録している人も多いようなのですが、防犯上それも怖いし……事務所としてどこか借りなければということになったんです。
でも、シェアオフィスなどは「政治・宗教団体NG」のところがほとんどで、事務所として使用可能な場所を個人の方から借りられるまで、2カ月くらいかかってしまいました。
そこからは、自己紹介リーフレットをつくったり、市民の皆さんが集まる場に顔を出したり、SNSで活動報告をしたり、武蔵野市の皆さんに自分のことを知ってもらうための活動に力を入れています。
先ほどお話しした通り、会社員を辞めてしまったのでまだ収入はないんですけど、心と体は健やかだし、政治活動に楽しく取り組めている感覚があります。だから、今の働き方を選択してよかったなと思えますね。
実際、「政治家=楽しそう」というイメージを持っている人って多くはないと思います。でも、それだと政治家になりたい、政治活動に挑戦したいと思う若者も生まれない。
私が楽しそうに政治活動をする姿を見せることで、政治家になることに興味を持ってくれる若い人が一人でも増えたらいいなと思っています。
「私は私にしかなれない」30代を目前に“いい意味”で諦めがついた
私がこうして政治活動を通して「自分らしく働く」ことを始められたのは、いい意味で諦めがついたからかもしれません。
20代の頃、新卒でアパレルの世界に入って、CAMPFIREに転職して、そこで子会社の社長を任せてもらって、直近は大手企業で会社員をしました。
その中で、自分がどんなものに対してならパワーを発揮できるのか分かったんです。私は、自分がやるべきだと納得したことじゃないと、エネルギーが湧かない人間。
そして、私のパワーが一番みなぎる状態になるのが、「社会課題解決」に取り組んでいるときでした。
それは、何度か転職して、いろいろな仕事、立場を20代で経験してきたからこそ分かった事実だし、「私は私にしかなれない」と痛感しましたね。
今だって、大手企業で働いている友だちを見てうらやましくなることはありますよ。
「あの子はいいな、給料が良くて、福利厚生もよくて、社会的信用もあついからローンも簡単に組めていい家だって買えて……」という感じで(笑)
でも、そういう時に「でも、あなた(自分)にはこういう生き方しかできないでしょ」って言い聞かせられるようになったし、最後には「これでいいんだ」と思えるようになった。
30歳を目前にして、そういう自分になれたことで、すごく生きやすくなりましたね。時々、人をうらやましく思うこともあるけれど、「私は私の生き方でいい」という考えが、ストンと腹に落ちた感じです。
20代を振り返れば、迷ったりもがいたりして、環境を変えたり、付き合う人を変えたり、仕事を変えたりしながら「こういう生き方しかできないな」っていうものを見つける作業をしてきたんだと思います。
そうすることで、30代からの人生をまっすぐ自分らしく生きられるようになった気がしますね。
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)
RELATED POSTSあわせて読みたい
25歳の筑波大発ベンチャー代表が挑む、オンラインフィットネスの新常識「未来を予測する確実な方法は、それを発明すること」
【ひろゆき】まだ人気企業で働きたいとか言ってるの? “ロクでもない未来”を生きることになる20代に決定的に欠けている視点
【椎木里佳×正能茉優】女性のキャリアは短期決戦!? 20代のうちに必ずやるべき「自分の価値の高め方」とは
「“無名の同年代”を軽視しない方がいい」25歳で独立したベンチャーキャピタリストが気付いた、切磋琢磨の効果
「うさんくさいことを避ける若者はチャンスを見逃してる」HIKAKIN所属・UUUM代表が“普通の総務”から話題の新興企業トップになるまで