杉本すみれさん1994年生まれ。大学卒業後、Deloitte Japanへ就職。監査法人にて国際人事の仕事に就いたが1年で退職し、花の道へ飛び込むことを決意。JFTD学園日本フラワーカレッジを成績最優秀賞で卒業後、都内生花店でのインターンやアルバイト、花とグリーンの総合企業での企画営業職を経て、2019年1月にEPOCH Floral Studioを立ち上げる。 2020年2月に大田区にアトリエを構え、現在はワークショップやブライダル、ギフト販売を中心に活動中 ■Instagram
大手企業を新卒2年目で退職→フローラルスタジオを開業した20代の「学校に戻る」選択
安定した仕事に就いたけど、なぜか満たされない自分がいる──。
自分の正直な気持ちに気づいた時に、勇気を出して一歩踏み出せるかどうか。その行動によって人生は大きく変化する。
フローラルスタジオ『EPOCH Floral Studio』を運営する杉本すみれさんは、自分の意思で人生を変えた人の一人だ。
杉本さんは大学卒業後、大手監査法人に入社した。希望していた英語を使う仕事に就いたものの、「花を扱う仕事がしたい」という思いが芽生え、入社後1年で退職。
花をゼロから学ぶために専門学校に入学し、2019年にフローリストとして独立を果たした。
杉本さんはなぜ、大企業で働く安定を捨てて、自分のやりたいことをかなえる道を選んだのか?
新しい世界に挑戦できた理由、そして「学生に戻る」ことで見つけた「私らしい未来」について聞いた。
※この記事は『Woman type』の記事を原文ママ転載しています。
新卒で手に入れたのは希望通りの仕事、でも「これじゃなかった」
実は、学生時代に「お花の仕事がしたい」と思ったことは、一度もありませんでした。
就職活動の時に考えていたのは、とにかく「英語を使う仕事がしたい」ということ。それが確実に実現できそうだったのが、監査法人の国際人事の仕事でした。
業務内容は、海外事務所の人事と連携してビザの取得や飛行機の手配をすることや、海外転勤する会計士のサポートなど。職種限定のバックオフィス採用だったので、望まない部署に配属される可能性が低かったことも、応募の決め手になりました。
そう、私は新卒の時点で、やりたい仕事を手に入れたはずだったんです。
ところが入社して半年ほど経ち、ほとんど全ての仕事を一人でこなせるようになると、「私のやりたい仕事はこれじゃなかったのかもしれない」と考えるように。英語を使うだけでは満たされていない自分に気づいてしまいました。当時の私は、自分が組織の一員であることに違和感を抱いていました。「この仕事は自分以外の人でもできる」と考えるとモヤモヤするし、ルーティン業務ばかりで刺激がなく、先のキャリアを考えてもワクワクしない。
いつの間にか、「会社の一部としてではなく、私個人で何かを表現したい」という強い意志が、私の中に芽生えていました。
そんな時にふと頭をよぎったのは、大学時代にオーストラリアへ留学した際に目にした光景でした。
休日にビーチに行ったり、キャンプに行ったりして、自然とともに幸せに過ごしていた日々。自分が心からワクワクしていた日々に思いをはせていると、何となく、目の前にあったお花が目についたんです。
ふと気になって調べてみると、お花を扱う仕事は花屋での店舗販売だけではなく、ウェディングとか空間装飾とか、ビジネスの可能性が広がっていることを知りました。
自分だったらどんなビジネスができるだろう? と考えるうちに、どんどんワクワクしてきて。
「私はお花がやりたいのかもしれない」という考えがぱっと浮かんできたら、あっという間に退職を決意していましたね。
お花を習ったことはなかったので、基礎から学ぶためにお花の専門学校へ通うことにしました。
退職したら安定収入は失いますが、まだ給料は新卒1年目の水準でしたし「これからなんとかなるだろう」と思って。金銭面の大きな不安はありませんでした。
友人の中には、私が有名企業を退職したことについて「もったいない」と言う人もいましたが、私はそうは思いませんでした。
なぜなら、今会社を辞めれば、その分早く新しい知識や技術を身につけられるから。モヤモヤしたまま働き続けて時間を無駄にするほうが、よっぽどもったいないと思ったんです。
そう思えたのは、高校時代に一度大きく体調を崩した経験があったからかもしれません。
「やりたいことは健康な時にやらないと、いつかできなくなってしまうかもしれないんだ」と感じた気持ちは、今も私の中に鮮明に残っています。
今までの「普通」は通用しない。花屋業界を知り、過去のプライドを捨てた日
「社会人から学生に戻って、ゼロから新しいことを学ぶのは大変なのでは……?」と思う方もいるかもしれませんが、専門学校での日々はすごく楽しかったです。
興味のあることを勉強しているからか、お花の名前などはどんどん覚えていけましたし、頭よりも感性を使う学びが中心なので、今までしてきた勉強とは違う面白さがありました。
何よりエネルギーをくれたのは、一緒に学んだ仲間たちの存在です。
私が通ったJFTD学園日本フラワーカレッジは、1学年のうち半分は実家の花屋を継ぐ目的で入学した方たちでした。まだ18歳ぐらいなのに、自分の将来を決めて一生懸命勉強しているのはすごいなと思いましたね。
また、自分と同じようにキャリアチェンジのために入学した20〜30代の方や、主婦の方などもいて、バックグラウンドはさまざま。ここに来ないと出会えなかった人たちと過ごした日々は、刺激に満ちあふれていました。
ところが専門学校から一歩外に出ると、そこでは今まで私が過ごしてきた世界と花屋業界とのギャップが待ち構えていました。
今まで私は、大学を出て就職する道が「普通」だと思っていたのですが、花屋業界では決して「普通」ではなかったのです。
それを実感したのは、花屋でインターンの面接を受けた時のこと。昔働いていた会社名や仕事内容を話しても、ほとんど理解してもらえませんでした。「ただガッツがなくて会社を辞めたOLさん」としか見られていないと感じることも多々ありました。
悔しかったです。でもこの経験を通じて、「もう過去のプライドは捨てないとダメだ。これからは自分個人の力でしか私は見られないんだ」と気づき、覚悟が定まりました。
そして専門学校を卒業し、企業での企画営業などを経て、2019年に『EPOCH Floral Studio』を設立しました。ついに私は、念願のフローリストとしての独り立ちを果たしたのです。
独立を決意できた理由は、大きく二つあります。
一つは、インスタグラムから海外の情報を得られたこと。
どんなビジネスで独立しようかと考えていた時に、海外で活躍している「オンラインフローリスト」の存在を知れたことは大きかったです。
彼女たちは店舗を持たずにネットショップで商品を売ったり、お花のワークショップを開いたりしている新しいフローリストでした。「こんな働き方があるのか!」と驚くと同時に、写真に映っていた若い参加者たちの、楽しそうな表情が目に留まりました。
「そういえば、日本には若い女性向けのお花のワークショップは少ない。同世代の人が気軽に学べる機会を作れば受け入れられるのではないか?」と思えたことが、ワークショップを中心とする現在のビジネスにつながりました。
独立を決意できたもう一つの理由は、「なんとかなる」という自信があったことです。
私は学生の頃から、自分で立てた目標はかなえ続けてきました。留学もそうですし、専門学校で最優秀賞を獲得して卒業したこともそう。
その一つ一つの積み重ねが、自分の中で自信を形成することにつながっていたのだと思います。
独立してすぐに成功するのは難しいかもしれないけれど、きちんとステップを踏んで進めていけば絶対に大丈夫。独り立ちを決めた時は、そういう確かな自信があったんです。
「学生に戻る」選択がくれたもの──技術、仲間、そして揺るがない自信
私は現在、「店舗を持たないフローリスト」として、お花のワークショップを中心にギフトやウエディングなどのサービスを手掛けるスタジオを運営しています。
ワークショップをしていると、お客さまとの距離を縮められるのがうれしいですね。昔から人の相談に乗るのが好きだったので、教室では人生相談のようなことも含めてさまざまな話をしています。
プライベートな話になりますが、先日私が結婚式を挙げた際に、なんと10人もの生徒さんが有志で装飾を手伝いに来てくれました。こうしたお客さまとの深いつながりは、これからも大切にしていきたいなと思います。
フローリストとして独立してから3年半が経ちました。振り返ると、新卒1年目で「学生に戻る」という選択をしたことは、本当に良かったと思っています。
専門学校では基礎からしっかりとお花を学べたので、技術だけでなく自信も身につけることができました。また、先生や同級生との貴重な出会いもありました。
それに、会社員を経験してから学生に戻ると、それだけ学ぶ意欲は強まるもの。学生の頃よりもずっと1日1日を大切に学べたなと思います。
今、新卒一年目の頃の私に声を掛けるなら……「迷ったら行動してみて」ということ。人と違う選択だったとしても、自分の意思で行動を起こした先に「私らしい今」がありました。
人は年を重ねると、つい「やらない理由」を探してしまいがちですが、やりたい気持ちが少しでもあるなら、今すぐ挑戦した方がいい。そこから“何か”が始まります。自分らしく生きるためには、自分の気持ちに正直になることが大切ですね。
そして、やりたいことへ一歩踏み出す段階になったときに、自分を信じられるだけの自信をつけておくことも重要です。
自信とは、目標を達成することによって生まれるものです。私は目標を立てる時、とっても高い目標ではなく、「頑張れば達成できそうな目標」を立ててきました。自分にとってちょうど良い目標を設定し、それをクリアすることで、少しずつ自信を積み上げていけると思います。
今後やってみたいことはたくさんあるのですが、その一つは、お花業界で私の後に続く人たちのサポートです。
実は最近、生徒さんの中に「自分もお花業界で働きたい」と話してくれる人が増えているんです。
私の経験をシェアすることで、昔の私と同じように「新しい世界で挑戦してみたい!」と思っている人たちの背中を押せたら、こんなにうれしいことはないですね。
取材・文/一本麻衣 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)編集/柴田捺美(編集部)
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