キャンピングカーで全国を回る自営ミュージシャンから学ぶ、新規開拓営業の極意
日々の営業で辛いことといえば、やはり新規開拓だろう。労力の割にはそっけなく断られることも多く、思わず気持ちが折れそうになってしまうのも無理はない話だ。
だが、そんな泥臭い新規営業を地道に積み重ね、全国の飲食店やライブ会場を回っているミュージシャンがいる。すわだいすけ氏と伊澤ゆくさんによるアコースティックデュオ・Sleepyhead Jaimieだ。彼らは事務所には所属せず、営業から広報まで全て自分たち自身で行っている。
組織の一員として働く営業マンとインディーズのミュージシャン。まるで接点はなさそうに見えるが、商材を売りこむという意味では同じ土俵に立っているとも言えるのではないだろうか。自由と責任の中でフィールドを広げる彼らに、新規開拓営業を含めた独自の生存戦略について聞いた。
ノウハウもパイプもないからこそ行き着いた、今の「稼ぎ方」
Sleepyhead Jaimieの2人はクラウドファンディングを通して資金を集め購入したキャンピングカーに乗って47都道府県でライブ活動を行っている。
きっかけは、伊澤さんがかつてバックバンドを務めたGAKU-MC氏の「(全国でライブがしたいなら)キャンピングカーでも使ってみたら」というアドバイスだった。
「ツアーの間も家賃はかかるし、現地で宿泊費も必要になる。だったら家を引き払っちゃえば、余計なコストは抑えられる。とにかく47都道府県でツアーがしたかった私たちにとって、キャンピングカーを使うのは必然だったんですよ」(伊澤さん)
正真正銘の自営ミュージシャンだが、ツアー中は音楽活動の売上のみで生活する事に成功している。事務所に所属していても音楽だけで生活できないミュージシャンが多い中、なぜSleepyhead Jaimieはきちんと収益をあげられているのだろうか。
「心掛けているのは、収益の入り口をたくさん持つことです。自分たちで通販サイトを運営したり、Google AdSenseを使って広告収入を得たり、ライブではCDや物販以外に、投げ銭用のバケツを持ってチップをもらっています。この投げ銭は僕たちが音楽活動を続ける上での大きな収入源になっています。にも関わらず、他のミュージシャンはほとんどしていない。事務所に所属していない分、ノウハウもパイプも何もない僕らが、切羽詰まっていろいろ試した上で出てきたアイデアなんです」(すわ氏)
アイテムひとつにもこだわりぬくことが、信頼のカギになる
彼らが47都道府県ツアーを始めたのは、2012年秋のこと。もちろんライブ会場となるカフェやバーなどのお店のブッキングも全て自分たちで行う。実績も前例もない中、伊澤さんはテレアポを始めたが、交渉した店舗のうち約8割が会場を提供してくれたという。秘訣は、2人の持つミュージシャンとしてのこだわりとポリシーにあった。
「私たちはアメリカンな文化が大好き。だからお店を選ぶときは、テレアポする前に、ホームページでメニューや写真をチェックしながら、まずは私たちのコンセプトが合いそうかどうかを確認していました。加えて、お店の人たちも私たちのことや音楽を好きになってくれそうというのがリストアップの条件でした」(伊澤さん)
一件一件コンセプトを見極め、共感の持てるところにアプローチを仕掛けているから、アポの精度も自然と上がる。また、興味を持ってもらった相手に安心してもらうための工夫も行っている。
「YouTubeで公開している搬入から撤収までの流れの動画やミュージックビデオは、プロのカメラマンに撮影してもらっています。単に素人がiPhoneで撮った動画をアップしても、逆に安っぽくて不信感を持たれるだけ。大事なのは自分たちの商品価値を把握し、過剰な尾ヒレも付けずにプレゼンテーションすることなんです」(すわ氏)
自分が売り込む商品を信頼してもらうことの重要性については、営業マンにも同じことが言えるのではないかとすわ氏は提案する。
「パンフレットが分かりにくいなと思うようであれば、たとえ自分の業務範囲外でも『もっと伝わるものに作り変えよう!』と声を上げるのもいいかもしれません。一つ一つのアイテムに責任を持つことが、お客さまに自信を持って提案できる裏付けになるんじゃないかと思います」(すわ氏)
自分たちを待っている人がいると思えば、新規営業も苦にはならない
結果、2人は400日かけ、47都道府県165店舗のハンバーガーショップでライブを実現した。そして2015年1月から新たに47都道府県のライブ会場や飲食店をキャンピングカーで回るツアーもスタートしている。再び新規営業活動が始まっているのだ。
しかし「また振り出しから」ではない。
この2回目の全国ツアーを通じ、2人は新規開拓営業を続けるメリットをひしひしと感じているという。それは、「最初は辛かった新規開拓営業が、最近実を結んできたと感じる」と笑顔で話す伊澤さんの表情からも見て取れる。
「前回のツアーで行ったお店が『またうちでライブしていいよ』と喜んで受け入れてくれたり、『ここも行ってみたら?』と他のお店を紹介してくれたり。中には私たちのことをすでに知っていて『いつ電話が来るか待ってたんだよ』っておっしゃってくれた方もいました。新規開拓を続けていくことで、リピーターができると同時に私たちの認知度も高まり、最初の頃に比べると交渉がどんどん楽になってきましたね」(伊澤さん)
ライブ会場が増えればその分、投げ銭などの収益にも還元されるため、経済的にもメリットがある。
彼らの場合、組織の後ろ盾がない分、新規営業は一層難しいはず。なのに、2人が楽しそうに続けているのは、道なき道を攻略する楽しさを知り、その先にある喜びや手ごたえも十分に分かっているから。
「生意気な言い方かもしれませんが、私たちが来るのを待ってくれているお店が必ずあると思っています。私たちの曲を生で聴きたいと思ってくれている人が必ずいると思っています。だからそれを信じて諦めずに探し続けているだけなんです」(伊澤さん)
自分たちの音楽をまっすぐに信じているからこそ、どんな状況でもへこたれず、ハングリーに道を開いていける。まず見習うべきは、この商材を信じる気持ちなのかもしれない。
取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴
http://www.sleepyheadjaimie.com/
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