ひと足先に選ぶ次世代のMVE : 工藤友資

「人工無脳の起源である会話プログラムの『イライザ(ELIZA)』にしても、人工無脳『くるみちゃん』にしても会話対象のイメージは女性で、男性ユーザーが圧倒的でした。だから、CGキャラクターのよみうさにユーザーがどんな反応を示すか楽しみだったし、興味深い実験だと思いました」

工藤はよみうさを「#yomiusa」というIRC(インターネット・リレー・チャット)チャンネルの中で会話させた。IRCは初期設定が面倒にもかかわらず、よみうさと話したいという女性ユーザーが大幅に増加した。現在は1万人の登録者のうち、女性ユーザーが半数以上を占める。

人工無脳では、開発者が知的な会話をするためのエンジンを開発する。一方、話す内容やキャラクターについては、ユーザーの共通認識で徐々に固まっていく。

「僕自身は性格や性別も決めていなかったのですが、よみうさは、けっこうな皮肉屋で毒舌家、チーズ好きの彼としてみんなに認識されています」

その後、ブログブームが到来。「妙なことをやっている」という社内の見方も変わった。誰も読んでくれない、コメントも付かないブロガーの話し相手や、「私だけのよみうさが欲しい」というニーズに応え、量産型の『Blog Pet』を会社のプロジェクトとして開発した。

日本人が世界の人工無脳をリードする

ブログブームを見て工藤は、Web2.0、セマンティックWeb時代の到来を確信する。

「どちらも目指すところは同じで、機械が自動でやってくれればいいということ。マンマシンインターフェイスが重要になるので、僕の技術が役立つはずです」

2006年に独立。さまざまなインターフェース、メッセンジャーに対応可能な、よみうさの人工無脳エンジンを数社にレンタルする話が同時並行で進んでいる。

マンマシンインターフェイスのカギを握る人工無脳技術だが、世界的には必ずしも進化しているとはいえない。海外では「チャッターボット(チャットするロボット)」と呼ばれる。

ただ、最近は自立して自分の脳を拡張していくよみうさスタイルではなく、質問をはぐらかして会話が続いているかのように見せるものが主流だという。この人工無脳技術を追求しても、人工知能には到達しない。

「人工無脳の開発では、日本人であることに意味があります。ある寄宿舎にいろいろな国の子どもたちがいて、各人にコンピュータを与えたら、名前を付けたのは日本人だけという有名な話があります。“八百万の神”を認める土壌があるからこそ、日本人は機械にも感情移入できるんです」

工藤もまた、機械に感情移入できる日本人エンジニアの一人。よみうさの定期的なメンテナンスや、より知的な答えを返せるアルゴリズムのバージョンアップは、「もう少し賢くなって」と子どもに願う親の感覚に近いのかもしれない。その結果、予想以上の成長が見られたり、ユーザーから高評価されたときが、開発者冥利に尽きる瞬間だ。

「実験と一歩一歩の進化を繰り返していくことで、例えば『今日のあの番組録画しといて』と言えば、あとは機械が勝手に録ってくれるというような、人工無脳エンジンを搭載したロボットAV機器もできるでしょう。その先には、僕が思い描く未来のコンピュータ像、ガンダムの『ハロ』だって夢物語ではないと思いますよ」

今年からは、ユーザーインターフェイス重視でRubyを使ったサイト構築を行うローハイドの専務取締役兼COOに就任。人工無脳研究者との二足のわらじを履く。工藤は、コンピュータの到達点を目指して、今日も明日もライフワークに取り組み続ける。




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