ひと足先に選ぶ次世代のMVE : 曽根大地
バンダイでのエンジニア育成方法は徹底したOJTだ。商品企画から製造・生産まですべてを1カ所で行っているのは、パーツ一つ一つのリアリティにこだわり、隅々にまで高いクオリティを維持する方針を貫いているからだ。それだけガンプラファンが求める水準は高いということでもある。 「最初の1年間は、先輩に付いて来る日も来る日もガンプラの表面に貼り付けるシールの設計を経験しました。スキルはまったくのゼロでしたから、作ってみてはやり直しの繰り返し。入社していきなり、モノづくりの難しさに直面しましたね」 最新・最先端の3DCADツールをはじめ、完成前の試作品を短時間かつ低コストで作ることのできる光造型機、最大4種類の異なる色や材料を用いたパーツを1つのランナー(切り離す前のパーツが複数つながっているもの)に収めることができる多色成形機など、バンダイには世界でも例のない施設・設備が完備している。それでもファンの期待に応えるモノづくりは設計開発を担うエンジニアのセンスやスキルにかかっている。リリースされるたびに厳しい評価が寄せられるのは、ガンプラならではの大きな特徴だ。 1キャラクターすべての設計開発を手掛けてこそ一人前――。この現場での不文律を、曽根は入社から2年経った時にクリアした。厳密には先輩などにサポートしてもらったと言うが、初めて担当した『HGガンダムアストレイ(レッドフレーム)』が無事に量産・発売され、ファンからも一定の評価を得られたことが大きな自信になったと話す。 「アニメ制作のメカデザイナーが書き起こしたスケッチを基に設計するわけですが、2次元のものを3次元にしていきながら全体のプロポーションをバランス良く仕上げなければいけません。それも予算内に収めつつスケジュールも厳守する。QCDの基準すべてを満たす仕事の方法というのを、自分なりに短期間で学ぶことができました」 徹底して質にこだわれる商品に携わりたい ガンプラには『SD(エスディー)』『FG(ファーストグレード)』から『HG(ハイグレード)』『MG(マスターグレード)』『PG(パーフェクトグレード)』といった、縮尺と使用材料、対象とするユーザーが異なるラインナップがある。SDやFGは約30?50のパーツで、子どもにも組みやすいものになっているが、HGになると100を超えるパーツ数になる。グレードが上のものほど高い完成度が求められ、要求も強くなってくる。 「最初に手掛けたのがHGだったのも経験として役立ちました。こだわるべき部分と、自分なりの創意工夫でリアリティを出せる部分をどう考えるかが、とても勉強になりましたね」 最初の1体を手掛けたのが20歳前後。今、25歳の曽根は以後、人気シリーズを1カ月に1体のサイクルで担当するエンジニアとして、設計開発の最前線で活躍している。 「入社から満7年が過ぎましたが、キャリアも実績もまだまだというのが実感。ファンが求めるハードルは高いけれど、やはり徹底してクオリティにこだわれるMGやPGを手掛けて、これまで蓄積してきた知識やスキルをすべて注ぎ込んだ“自信作”を実現してみたい。そこからどんなことを学んで、どうプラスになっていくのかが楽しみですね」 2007年10月から2008年3月にかけては、テレビ番組『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』の放映に合わせて、3体を続けてリリースするという難易度の高い設計開発も経験した。また、最新作は地元・静岡で2008年5月に開催されたホビーショーにも出展された。 バンダイでエンジニアとして採用されたことを奇跡と感じ、使命と受け止めてきた若きガンプラの設計者は、向上していくことだけを毎日考えている。幼いころ、病院での偶然の出会いから約20年。彼が次々に生み出すガンプラが今、新たな出会いへ向けてバンダイのホビーセンターからの旅立ちを待っている。 |