キャリア Vol.260

アメリカでは外回り営業よりも主流に! 注目の営業職種『インサイドセールス』とは

一般的に新規開拓営業と言えば「外回り」が当たり前。しかし、この鉄板の常識が近年崩れつつあるという。その先陣を切るのが、世界最大の経済大国・アメリカだ。今、アメリカの営業スタイルは、従来のフィールドセールス(外勤型営業)から、電話やメールを通じて顧客と関係構築を図るインサイドセールス(内勤型営業)にシフトしつつある。

2015年3月にアメリカの労働局が発表したデータによると、米国内での営業時間配分は、09年の時点でインサイドセールスがフィールドセールスを上回っており、17年の時点でアメリカ国内の営業活動の約84%がインサイドセールスに移り変わると推測される。

とはいえ、日本でもテレアポ・テレマといった電話営業は古くから存在する。果たしてインサイドセールスは旧来の電話営業と何が違うのか。インサイドセールスを導入し、受注率3倍を実現したという株式会社イノーバの飯塚靖大氏と三門義明氏に話を聞いた。

株式会社イノーバ、インサイドセールスの三門義明氏、営業部部長の飯塚靖大氏

(写真左から)インサイドセールスの三門義明氏、営業部部長の飯塚靖大氏

「アポ取り屋」じゃない、インサイドセールスの本質

そもそも『インサイドセールス』とは何か。飯塚氏は、「例えるなら、問診医のようなもの」と独自の表現でその真髄を定義する。

「皆さんも健康診断を受けられると思いますが、そこでは何か病名を特定したり、薬を処方したりはしませんよね。問診の役割は、患者さんの症状や病歴を聞いた上で、本格的な検査を受けた方がいいとか、然るべき方向性を指し示すことです。ビジネスに置き換えるなら、さまざまな課題を抱える経営者や担当者から話を聞き、自社サービスを導入するための検討のサポートをしてあげることが、インサイドセールスの役割なんです」(飯塚氏)

同社では、インドサイドセールスは三門氏1名。フィールドセールスには飯塚氏含め3名の人員を配置している。まずHPへの問い合わせや資料請求、あるいはセミナーの出席など、何かしら同社に関心を持ってアクションを起こした顧客に対し、インサイドセールスである三門氏が電話・メールなど適切な手段でアプローチを行う。そして、商談化した案件をフィールドセールスへパスするというのが大まかな流れだ。

これだけだと一般的なテレアポと大差ないように見えるが、実はここに大きなミソがある。従来のテレアポ部隊の主目的は「アポを取ること」。多くの組織が、アポの取得率を指標に置き、評価を行う。そのため、テレアポ担当者は確度の低い案件でも強引にアポを取り付けてしまい、不毛な商談に駆り出されたフィールドセールスが、疲弊と非効率の無限ループに陥る現象が営業現場では多発している。

だが、インサイドセールスの目的は「検討のサポート」だ。サービス導入を検討する上で、どんな情報があれば良いかを聞き出し、顧客が必要とする最適な情報を取りそろえ、提供する。その末に、「じゃあちょっとうちへ来て話をしてもらえますか」という言葉を顧客の口から引き出すことが、インサイドセールスのミッションだ。ニーズとタイミングが熟すのに半年や1年以上の時間をかけることもある。「アポ取り」が目的ではないからこそ、高い受注率が見込めるホットな顧客だけをフィールドセールスへとパスできるのだ。

放置状態の潜在顧客を、優良な見込み客へと育成する

インサイドセールス導入のメリットとして、三門氏は「効率の良さ」を挙げる。

かつてレンタルビデオ店にビデオソフトを卸す仕事をしていた三門氏。彼自身、飛び込み営業の効率の悪さに辟易としていたと話す

かつてレンタルビデオ店にビデオソフトを卸す仕事をしていた三門氏。彼自身、飛び込み営業の効率の悪さに辟易としていたと話す

「実は私も若い頃は、新規開拓の飛び込み営業をしていたんですよ。正直、いくら飛び込んでも門前払い。1日で訪問できる件数も限られているし、移動時間もそれなりにかかります。ものすごく効率の悪さを感じていました。それに比べて、インサイドセールスは限られた時間で多くの顧客と接点を持つことができる。その効率の良さに最初は驚きましたね」(三門氏)

一方、飯塚氏は「インサイドセールスを導入することによって、機会損失を回避できる」と主張する。

「一人の営業がファーストコンタクトから受注まで全フェーズを担当していると、自然と見積もりを出したお客さまのフォローに注力してしまいます。その結果、新しく問い合わせしてくれたお客さまは手つかずのままほったらかしになって、せっかくの新規案件が陳腐化してしまうこともしばしば。こういうチャンスロスが、世の営業現場には少なからず存在しているのではないでしょうか」(飯塚氏)

特に、まだ興味・関心程度の状態にある顧客は、資料提供など細かい宿題を求めることが多い。にもかかわらず、実際に購買に結びつくかは不透明だ。いくら種まきが大事とはいえ、目先の売上目標に追われる営業マンが受注確度の高い顧客を優先してしまうのは、心情としては十分に理解できる話だろう。

しかし、フィールドセールスとインサイドセールスで役割分担を行えば、ニーズの見えない問い合わせ顧客にも丁寧に対応することができる。これまでマネジメント層が把握しきれなかった取りこぼし案件も漏らさず拾えるのが、インサイドセールス導入のメリットだ。

検証と改善が、売れる営業マンの共通資質

では、インサイドセールスにはどんな人が向いているのだろうか。

「お客さまと長い時間をかけて関係性を構築していくわけですから根気は必要です。あとはやっぱり約束事を守ることですね」(三門氏)

「対面型の営業なら、外見とか雰囲気とか、そういうパーソナリティが加味されてプラスの評価を得ることはできます。けれど、非対面であるインサイドセールスはそうじゃない。行動が全ての信頼をつくるんです。頼まれたことを、きちんと約束した日付までに実行すること。分かっていないのに、生半可な返事はしないこと。ノリではない、地道なコミュニケーション能力が求められます」(飯塚氏)

その上で、「フィールドセールスであってもインサイドセールスであっても、結果を出す営業マンの資質は同じ」と飯塚氏は断言する。

「大事なのは、活動プロセスを細分化し、どこがボトルネックになっているかを分析・特定する力です。例えば架電数に対し、実際に話ができた件数が少ないとします。その状況で、相手のビジネスモデルやワークスタイルを考えた上で、電話をかける時間帯を変えてみることができるかどうか。そうやって常に自分の活動プロセスを改善し、ある種のゲーム感覚を持って変化を楽しめる人は、フィールドセールスであってもインサイドセールスであっても活躍できると思います」(飯塚氏)

インサイドセールスが、日本の働き方を変えていく

今後は日本でもインサイドセールスという職種が広く浸透していくだろうと飯塚氏は予測している。

以前勤めたアウトバウンド企業の立上げ期から営業部長として参画していた飯塚氏。営業員数の増加と共に売上規模は伸びたものの、営業効率の限界を感じていた

以前勤めたアウトバウンド企業の立上げ期から営業部長として参画していた飯塚氏。営業員数の増加と共に売上規模は伸びたものの、営業効率の限界を感じていた

「なぜなら今後ますます日本は少子高齢化が進みます。このアンバランスな人口ピラミッドの中で健全な労働社会を維持していくためには、“働きたくても働けない層”の掘り起こしが急務。子育てのために一線を退いている優秀な営業ウーマンや、定年退職したもののまだまだ十分に働けるシニア層など、現在の労働市場がカバーしきれていない人材も、電話やメールさえあれば働く場所を問わないインサイドセールスなら活躍のチャンスがあるんです」(飯塚氏)

「むしろ高い能力を持った人材が、安いパートタイムの時給で働かざるを得ない今の日本の悲しい現実を変える可能性を持っている」と飯塚氏は言葉に力をこめる。フィールドセールスで培った、経営を見る目とPDCAを回す力。それを活かして輝く次の場が、インサイドセールスなのだ。

「インサイドセールスは、フィールドセールスよりもプロフェッショナルであると私は考えています。だからこそ、日本でこのインサイドセールスというキャリアをしっかりと確立させたい。現場を知った営業マンがマネージャーを目指すように、次のキャリアパスとしてインサイドセールスという職種を認知してもらうことが、今の私の目標です」(飯塚氏)

効率性が重視される昨今、新たに登場したインサイドセールスというキャリア。はたしてインサイドセールスは日本の営業のあり方を変えるのか。その動向に注目したい。

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取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴


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