新卒2年目で営業所長になった男がもがいた末に行き着いた「イジられマネジメント論」
上を目指す営業マンにとって避けては通れないのが、マネジメントという壁。プレイヤーとしては圧倒的なパフォーマンスを挙げていたはずが、マネジャーになった途端、急に業績が下降して、暗中模索。そんな苦い経験を味わった人も多いのではないだろうか。
ベテラン営業マンですら途方に暮れる難壁にわずか23歳で挑み、入社2年目でベストリーダー賞、3年目には全社MVPに輝いた者がいる。それが、ウエディングパークの内田開己氏だ。まだ経験も浅い20代の青年が、なぜ入社2年で営業所長に選ばれ、成果を残せたのか。その柔和な笑顔の向こう側に、旧来の支配型マネジャー像とは一線を画す、新世代のリーダー像が見えてきた。
部下を持った初月に未達。失敗だった“お願いマネジメント”
まだ大学生だった内田氏が、日本最大級の結婚式場クチコミ情報サイト、『ウエディングパーク』を運営する同社をファーストキャリアに選んだのは、いち早く経営に携わるチャンスがあったからだ。同社の親会社であるサイバーエージェントでは、入社1~2年で役員を務めるケースも少なくない。ビジネスの第一線で活躍する同世代の姿に感化された内田氏は、内定式で「営業所長になります」と宣言。その最短距離を進むかのように1年目で新人賞を獲得し、入社2年目の4月に仙台営業所所長に就任した。当初、内田氏ひとりだけだった営業所は、半年後に増員。23歳で5人のメンバーを率いるプレイングマネジャーとなる。
「受け持ったメンバーは、僕の同期が3人に新卒の後輩、そして7歳上の先輩がいました。最初は何を言うにも及び腰。気持ちでは成果を出さなきゃと思っているのに遠慮ばかりで、“お願いマネジメント”しかできませんでした」
日々の営業ミーティングから数字の把握、戦略策定。先輩マネジャーがやっていることを見よう見まねで取り入れてみても、その本質を理解していないために何を言っても言葉に熱が入らない。個々の属人的な能力に頼るばかりのマネジメントで、チームとしてまるで一体感が生まれなかった。当然、初月の目標は未達。プレイヤー時代は達成が当たり前だった内田氏にとって、久々に味わった敗北だった。
「心のどこかで、自分と同い年、ましてや年上のメンバーにあれこれ言うのは申し訳ないという気持ちがありました。でも、みんなにとって一番申し訳ないのは、結果が出ないことなんだって気付いたんです。そこから気持ちが切り替わりましたね」
そんな内田氏に、上司は「背中で見せろ」とアドバイスを送った。薄靄の中で試行錯誤していた内田氏の視界が、その言葉で一気に開けた。
「みんなに、『これをやってもらえますか』ってお願いをすることは、マネジャーの仕事ではない。僕がやるべきことは、まず自分自身が誰よりも行動して結果を出すこと。全力で先頭をひた走っていれば、その背中を見たメンバーがきっとついてきてくれるはず。それが、入社2年目の僕にできるマネジメントなんだって気付いたんです」
そこから内田氏は変わった。プレイングマネジャーとして現場の最前線に立ち、市場を切り開くうちに、上滑りしていた言葉にもどんどん実感がこもるようになった。目指すはチーム成績1位。そう全員で目標を置き、走り始めた。
他のチームに勝つために、あと何件ほしい。そう内田氏が言えば、誰かが必ず自分の担当顧客から数字をつくり出してくれるようになった。仙台営業所と言っても、岩手、山形、福島とテリトリーは広い。離れ離れになることも多いメンバー同士、常に状況を共有できるよう、SNSのグループチャットでリアルタイムで数字を報告し合った。もう結成間もない頃の空疎な空気はどこにもない。強い一体感で結ばれたチームは一気にブレイク。チーム1位の頂点に立ち、内田氏もベストリーダー賞に選ばれた。ベストリーダー賞の対象は部門長クラスになることが多く、入社2年目でベストリーダー賞を受賞したのは、後にも先にも内田氏だけ。文字通り前人未到の快挙となった。
崖っぷちの緊急ミーティング。本音をぶつけ合い、やっと「チーム」になれた
マネジャーとして大きく脱皮を果たしたかのように見えた内田氏。だが、程なくしてその輝きに再び翳りが訪れる。
「3年目の時です。新卒社員の育成も任されるようになった僕は、若いメンバーに自分の成功法を押しつけて、枠にはめようとばかりしていました。結果、チームの空気は最悪。業績も低迷が続きました」
このままではいけない――。覚悟を決めた内田氏は、それまで「特に意味がなさそうだから」と保留にし続けたチーム全員での飲み会を決行。その前に全員でミーティングルームに集まり、チームの問題点について話し合う機会を設けた。
「今、チームは最悪の状況にある。勝つために、何が問題か。正直に全部言ってほしい。そう包み隠さず告げました」
すると、一人、また一人と本音を話しはじめた。中には、内田氏にとって耳の痛い言葉もたくさんあったという。だが、決して目をそらさず、真っ正面から受け止めた。溜めこんでいた鬱憤をすべて吐き出すと、メンバーはみんな今まで見たことないような晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「その後の飲み会は最高に楽しかったです。今でもその時のメンバーの笑顔がパッと浮かんでくるくらい、みんな楽しそうな顔をして笑っていた。もうあれこれいっぱいイジられましたよ(笑)。でも、それはお互い本音を言い合えている証拠。あの時、ようやくそういう変な気遣いをしない関係になれたんだと思います」
社を代表する敏腕マネジャーは、社を代表する「イジられキャラ」
かくして輝きを取り戻した内田氏は、そのリーダーシップが認められ、3年目にして全社MVPを受賞。最年少所長から、同社を代表するマネジャーへと成長を遂げた。だが、そんな敏腕マネジャーも、メンバーから見れば「イジられキャラ。いつも社内でいろんな人からイジられています」と屈託ない。
「マネジャーってあくまで“言葉”であって、決してその人自身が偉くなったわけじゃないんですよね。単にマネジメントという役割を与えられただけ。どんなにプレイヤーとして経験を積んだ人でも新しくマネジャーになれば、新卒と同じで1年生から勉強し直しなんです。あの頃の僕は自分が偉くなったと勘違いして、同期や先輩に変に遠慮をしたり、上手くやろうとカッコをつけてメンバーと距離ができていたんだと思います」
役職が上がれば、誰もが自分がグレードアップしたと思うもの。だが、それは活躍の場が新しくなっただけ。そこでは、全てがまたゼロからのスタートなのだ。真摯に、素直に、一歩ずつ進んでいく。キャリアとは、その繰り返しなのかもしれない。
「だからもし今、新しくマネジャーになって戸惑っている方がいたら、ぜひ周りの人に相談してほしいと思います。振り返ってみれば、僕のパフォーマンスが落ちている時って、大抵相談量が減っているんですよね。それこそ新人営業時代なんて、上司の言うことを疑って自己流を貫き通してたら、同期の中で売り上げが最下位になったこともありました(笑)。そういう自分を救ってくれたのは、いつも尊敬できる上司のアドバイスだったんです。人に相談した方が、絶対解決も早いし、成長スピードも上がる。抱え込まないことが一番です」
自分の弱いところもオープンにする。その不器用なほどの素直さが、内田氏が社内の多くの人間から慕われ、信頼される所以だろう。上から圧迫したり、細かく管理するだけがマネジメントではない。肩肘張らない愛されリーダーが、日本の営業マネジメントを変えていく。
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取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
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