キャリア Vol.396

“鉄の女”と呼ばれた私が、33歳で管理職をやめて「現場営業」に戻ることにした理由【営業のNEXTキャリア図鑑:ジブラルタ生命 名方朋世さん】

アノ人もこの人も「営業」を経験したから今がある!
営業のNEXTキャリア図鑑
新卒で入社した今の会社。同期のほとんどが営業職。「まずは現場を知りなさい」と営業に配属されたけど、このまま営業をやっていて、自分はこの先どうなるんだろう……? 管理職や経営者のポストはごくわずかしかないけれど、仲間の営業マンたちはどこに向かっていくんだろう……? 未来に不安を感じている若手営業マンは多いだろう。そこで本連載では、営業経験者たちへのインタビューを通じ、「営業マンのネクストキャリア」の可能性を探っていく。多種多様なキャリアメイクをしてきた先輩たちの姿から、自分の「なりたい姿」をイメージしてみよう
ジブラルタ生命保険株式会社 東京第4支社 一橋第八営業所 名方朋世さん

ジブラルタ生命保険株式会社 東京第4支社 一橋第八営業所 名方朋世さん

1983年生まれ。関西大学社会学部心理学科卒業後、近畿日本ツーリストへ入社。商品企画部署の仕事に従事後、リクルート(現・リクルートマーケティングパートナーズ)へ転職。営業職として新人賞、MVPを獲得。2012年、スカウトでジブラルタ生命に転職。営業職として活躍後、営業所長として管理職務を全うするも、「営業をやりたい」という気持ちを捨てきれず、17年4月より現場に復帰

本連載の第2回目は、リクルートやジブラルタ生命で営業としてトップセールスの活躍をした後、管理職に昇進した女性のキャリアを紹介しよう。彼女のキャリアがユニークなのは、管理職としての経験を活かして、この春から再び現場の営業に戻るという選択をしたことだ。

営業職のキャリアの先には、管理職を見据えている人も多い。多くの人が憧れるような肩書きを手に入れながら、彼女はなぜこのような決断をしたのか。営業としてのキャリアを辿りながら、その選択の理由を語ってもらった。

“ダメな大人”にならないため、営業へ転身。
リクルートのトップセールスへ

ジブラルタ生命で今年3月まで営業所長を務めた名方朋世さん。彼女は前職のリクルートでも営業として活躍し、新人賞やMVPを獲得した実績を持つ。12年にジブラルタ生命にスカウトされ、ここでもずば抜けた営業成績を上げた後、30歳の若さで営業所長に任命された。

名方さんがどの職場でもトップ営業として活躍できたのは、新入社員の頃から高い成長意欲があったからだ。

「新卒入社した旅行会社では商品企画の部署に配属されましたが、この時は“営業される側”。航空会社やホテルの方たちが、『ぜひうちを使ってください』と私に頭を下げてくださるのです。まだ新人で大した仕事もできない私が、こんなにちやほやされたら、きっとダメな大人になる。私は学生時代から『若いうちは自ら苦労を買ってでも、自分を早く成長させたい』という気持ちが強かったので、もっと厳しい環境に身を置きたいと考え、営業への転身を決意しました」

そんな名方さんが選んだ新しい職場は、リクルートだった。理由は「営業にとって最も厳しい職場だと聞いたので」というから、彼女の成長意欲は半端ではない。入社後は教育事業を手掛ける部署に配属され、学生募集に関する商品を大学や短大、専門学校に販売することになった。普通なら初めての営業でさまざまな苦労や挫折を味わうものだが、名方さんの営業に対するイメージはあくまでポジティブだった。

「『営業って、なんて素晴らしいのだろう!』というのが、転職してみて抱いた嘘偽りのない感想でした。なぜなら、自分が努力すればするほど、結果となって返ってくるから。自分が最大限の努力をすれば、それが数字や感謝の言葉として私に戻ってくる。学生時代の勉強はいくら頑張っても思うように成績が上がらなかったのですが(笑)、それに比べたら、営業の仕事で得られるやりがいは驚くほど大きかったんです」

それだけの手応えを感じられたのは、本人の“最大限”という言葉通り、努力の量が抜きん出ていたからだ。

「全国にいる営業成績の上位者に電話をかけまくり、『この受注先はどうやって開拓したのか』、『どんなロールプレイングをしているのか』などを徹底的にヒアリングしていました。当時のリクルートでもそこまでやっている人はほとんどいなかったのですが、人のやり方を参考に最適な解を探していくことが売上を上げる近道だと思ったんです」

また、同じ営業職の人たちだけではなく、自分が売る商品をつくっている部署にも足繁く通っていたのだという。

「自社の商品企画部の人に、商品を開発した意図や狙いを詳しく聞いていました。そうすると、この商品はどういうアプローチでお客さまに提案するのが最適かという答えが見えてくるんです」

その結果、入社1年目で断トツの営業成績を収め、新人賞を獲得。2年目には、トップセールスに贈られるMVPを受賞した。

新人賞にMVP。頂点を極めた後に初めてぶつかった壁

一方で、名方さんは「トップになったことで、かえって自分が何を目指せばいいのか分からなくなった」と振り返る。そんな時、スカウトを受けたのがジブラルタ生命だった。

「転職を決めた大きな理由は、保険なら一人のお客さまを一生涯に渡って担当できること。一般の営業は、会社の指示で担当先がどんどん変わりますが、保険の営業ならお客さまの一生を自分の手で守ることができる。『これは究極の営業だ』と感じました」

新人賞にMVP。頂点を極めた後に初めてぶつかった壁

ところがここへ来て、名方さんは初めて壁にぶつかる。保険業界では、一般的に新人はまず友人や知人に営業をかけて顧客を開拓していく。だが、昔の知り合いに連絡を取ると、「そんなことで連絡してくるな!」と不快感をあらわにする人もいた。「前職時代は“鉄の女”と言われていて、人前で泣いたことなんてほとんどなかったんですが、その時はさすがの私も落ち込んで、大泣きしました」という名方さん。それを乗り越えられたのは、自身の「使命」を認識することが出来たからだと語る。

「オフィスでその話をすると、『そういうこと、あるある!』『私もよく言われたな〜』と皆が笑い飛ばしてくれるのです。そして上司や同僚は、それぞれが『なぜ私が保険を提案するのか』という自身の考えを語ってくれていました。それで半年経つ頃には、『私がやっていることは、お客さまのためになること。この仕事は間違いではない』と自信が持てるようになった。保険の営業、という仕事を自分ごととして考え、使命感を感じられるようになったんです」

意欲を取り戻した名方さんは、またもやずば抜けた成績を挙げた。この仕事を天職と感じ、「一生、保険の営業としてやっていこう」と意気込んだ矢先、会社から予想外のオファーを受ける。営業所長のポストを任せたいというのだ。

「正直言うと、断りたかった。転職してまだ1年半だったし、話を頂いた時点で私は29歳。管理職になるのは早過ぎるというのが本音でした」

それでも最終的には「私に務まるか分かりませんが、やってみます」と、管理職への道を決断した。

現場復帰を選択したのは、自分が幸せでいられるイメージが思い浮かんだから

本人はそう謙遜するが、実力が問われる外資系保険会社で管理職に抜擢されるのは、営業成績はもちろん、日頃の振る舞いや人格を含めた厳しい審査をクリアした者だけだ。だが、どれほど優秀な人材でも、現場を離れて管理職になれば、それまでとは違った仕事の難しさに直面する。名方さんも例外ではなかった。

「同じ内容の発言でも、私の立場が変わると周囲の受け止め方も全く違う。そのことにかなり戸惑いました。現場にいた頃の私が『遅刻はいけないこと、余裕をもって出勤した方がいい』と言えば、周囲も『もちろんそうだよ』と納得してくれた。ところが営業所長の私が同じことを言うと、『どうしても気分が乗らない時もあるじゃないですか。名方さんは現場の営業社員の気持ちを分かっていません!』と反論されてしまう。頑張ってもなかなかうまくいかず、1年目は完全に空回りしていました」

それでも管理職を3年間続けたのは、「うまくいかないまま辞めたくない」という持ち前の根性。結果的に、管理職としても結果を残し務め上げることができた。

ジブラルタ生命保険株式会社 東京第4支社 一橋第八営業所 名方朋世さん

「管理職の視点から物事を見る経験をしたことで、自分とお客さまのことだけ考えていればよかった現場の頃とは違う考え方やコミュニケーションの取り方ができるようになりました。少しだけ成長できた今なら、また営業に戻っても、以前よりもっといい仕事ができるだろうと。その自信が持てたので上司に相談したところ、4月から現場復帰できるように背中を押してもらうことになりました」

「70代や80代になっても営業を続けたい」と笑顔を見せる名方さん。それでも彼女の選択について、「管理職の地位を手放すなんてもったいない」と感じる人もいるだろう。将来のキャリアを選択する時は、何を基準にすればいいのだろうか。

「私の判断基準はとてもシンプルで、『自分の人生にとって幸せかどうか』。管理職から役員へと出世していく自分を想像して幸せなイメージが思い浮かぶなら、その道を選べばいい。私の場合は、営業として一人一人のお客さまとお会いする時間が本当に幸せだったし、営業スキルって生きていく上でも絶対に必要な素晴らしい能力だと思っているから、その道に戻ることを選んだ。ただそれだけです。難しく考えず、自分の心に素直に従うのが一番じゃないでしょうか」

キャリアを選択する時、多くの営業マンは年収アップを目指したり管理職になる未来を優先して考えがちだ。だが、長い人生だからこそ、「自分の人生の幸せにつながるか」という視点を忘れないことも大切だろう。自分にとっての“キャリアアップ”とは何を意味するものなのか、答えを探してみること。名方さんのキャリア選択は、そんな当たり前のことを思い出させてくれる重要なメッセージになりそうだ。

取材・文/塚田有香 撮影/大室倫子(編集部)

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