キャリア Vol.426

あまちゃんプロデューサーが若手営業マンに“瞑想”を奨める理由「客観視すれば、人生は所詮ゲーム」

 株式会社NHKエンタープライズ 制作本部番組開発 エグゼクティブ・プロデューサー 吉田照幸/よしだ・てるゆき

株式会社NHKエンタープライズ 制作本部
番組開発 エグゼクティブ・プロデューサー 吉田照幸/よしだ・てるゆき

1969年、福岡県生まれ。1993年にNHKに入局し、エンターテインメント系番組の制作を担当。2004年に「サラリーマンNEO」の企画および演出を手がけ、話題の人気シリーズとして映画化された際は脚本・監督を務める。13年春、異動とともに朝の連続テレビ小説「あまちゃん」の演出を担当して一大ブームを巻き起こす。以後、コント、コメディ、ドラマなど幅広い番組を手がけるとともに16年11月公開の映画「疾風ロンド」で監督・脚本を担当

近年の若手ビジネスパーソンの特徴とされるのが「マジメ」。仕事でもプライベートでも、要領よく立ちまわったり個性や独自性を発揮することなく“正攻法”“王道”で取り組むタイプが多いと言われている。

だが時に、この「マジメ」な姿勢がかえって本人を過酷な状況に追い込んでしまうことも……。残業手当のない“サビ残(サービス残業)”や有給休暇はあっても取得できない過酷な時間外労働が続いていても、ひたすらガマンを続けてしまい、過労死につながりかねない心身の不調などを招いてしまうケースもたびたび報じられている。クライアントの要望にすべて応えなくてはと、ムリをしている営業マンも多いかもしれない。

そんな「マジメ」な若手営業マンへ向けて、“自分のことをゲーム上で操るキャラクターだと思って客観視せよ”とアドバイスするのは『折れる力 流されてうまくいく仕事の流儀』の著者、NHKエンタープライズの吉田照幸氏だ。

『サラリーマンNEO』や『あまちゃん』の演出家として知られ、現在は商業映画の監督・脚本も手掛ける彼は、自分から“折れる”ことで自分自身を客観視できるようになり、仕事がうまく進んでいくようになると語る。その真意とノウハウについて話を聞いた。

自分の「価値観」にこだわるとマイナスの印象を与えてしまう

僕らのような番組制作の現場では、我々をはじめ裏方さんから出演する俳優さん、事務所の方々など、立場も、抱えている事情もそれぞれ違う人たちが集まって一つの作品づくりに取り組みます。ですから、まず自分の価値観にしがみついていても決していい結果は出ないということが大前提です。

どんな人にもその人なりの価値観がありますから、これは価値観を“持つな”、“捨てろ”ということではなくて、一度、自分自身がこだわっている価値観、しがみついている価値観から距離を置いてみませんかという提案です。

吉田照幸氏

例えば商談の場で、一度、断られたにもかかわらずしつこく相手に食らいついたり、想定していなかった質問をされると慌ててしまったり感情的になってしまった経験はありませんか? これが、まだ自分の価値観にこだわっている、しがみついている状態なんですよ。

“この話の内容と、この話し方は間違っていない”、“取引先(お客さま)にはこの質問にさえ答えられればいい”と思い込んでいるから、そうならないと慌てたり感情的になってしまう。そんな態度を見せることは、相手に「自分はこんなに意固地な人間ですよ」とアピールしているようなものです。もしも営業マンがそんな印象をクライアントに与えてしまっているのだとしたら、売れるものも売れません。逆効果だし、当然、成果も出ないですから損ですよね。

自分自身を客観視するために。眠る前の“瞑想”のすすめ

自分自身を客観視できていれば、商談中に断られたり、想定外の質問があった時に「あぁ自分は慌てているな」、「感情的になっているな」と認識できます。こういう認識ができている時は、周囲からは冷静で落ちついているように見えるんです。仕事の現場では、自分が考えたプランや方法が受け入れられなくて、他の人が出したアイデアややり方を押しつけられるケースもあります。そんな時に、気に食わないとか面白くないと考えるのではなくて、「ま、いっか」と思って、一度その人のプラン、方法でやってみることです。

実は、他人が考えたプランやアイデア、やり方の方がうまくいくっていうことだってあるんですから(笑)。

吉田照幸氏

そうは言っても、なかなか自分自身を客観視する習慣を身に付けるのは難しいですよね。そこで提案したいのが、瞑想です。いろいろな人に薦めているんですけど、みんな話を聞いている時は「良いですね」と言うわりには広まっていない“瞑想”の方法を伝えます。

眠る前が良いんですけど、部屋を真っ暗にして座ってその日1日、自分がどんな時に慌てたり感情的になったかを思い出して振り返るんです。どんな仕事で誰と会ってどんな会話があってどう感じたか。で、その時の感情を素直にボールを持つようにそっと手で包んで、目の前に川が流れているのをイメージしながら一つ一つ流すんです。そうすると、自分が感情的になったことは流されていきますから、自分自身を客観視するきっかけになります。これはぜひ試してみてほしいですね。

自分を客観視できるようになれば、冷静で適切な行動ができる

僕は学生時代、女性をスカウトするアルバイトをしていた経験があります。お店で働く女性に声を掛けるんですが、そっけなく断られたり、ものすごくイヤな顔をされたり、ひどい言葉を投げかけられたりとなかなか厳しい状況だったんですよね。僕はすぐに辞めてしまいましたが、アルバイトを続ける仲間を観察していたら、ある法則を発見したんです。

うまくスカウトできる人たちは、どんなにひどい態度や言葉を返されても平然としているんですよ。つまり、冷たく拒絶されたからといっても自分が否定されたわけじゃないし、嫌われたわけでもないと考えているから、平気でいられるわけなんです。うまく自分を客観視できているな、と感心しましたね。

撮影の現場でもあります。ある俳優さんとの衣装合わせで、なんだか不機嫌だったり細かいところが気に入らないと言われることがあるんです。でもそれは何も自分自身が否定されたり、嫌われているわけじゃないんですよ。相手も人間ですから、ただ単に機嫌が悪いだけかもしれないし(笑)、ちょっと気に入らないところさえ直せば機嫌よく仕事をしてくれるかもしれない。営業現場でも同じようなことはあると思いますが、全く臆病になることはないと思います。

自分をゲームの主人公に置き換えよ!
新しい分野の仕事にチャレンジするときの心得

もう一つ、若手にぜひ試してもらいたいのが自分をゲーム内で操作する「主人公=勇者」のような感覚を持つことです。

例えば、営業マンの方も担当するエリアや業界が変わったり、転職したりするなど、全く違う風土の中で仕事をしなければいけなくなることってあると思います。僕も以前、それまでエンターテインメント系の番組ばかりを担当していたのが、2013年に突然、朝の連続テレビ小説で演出をするように言われました。コントとかコメディばかりだった人間が、演出家として小泉今日子さんや薬師丸ひろ子さんと仕事をするっていうのは、自分が強いキャラクターになってニューゲームを始めるようなものだって考えましたね。

吉田照幸氏

ゲームの中のキャラクターだったら何回ゲームオーバーになってもコンティニューできますから。一度倒れても何度でもやり直せる。次にやり直す時は、前にダメだったところや理由を知っていますから、ちがった考え方や方法を試すことができる。これが強さになるんですね。

だから1度や2度、自分のアイデアややり方が否定されたからといって「自分が否定された」とあまり真剣に受け止めないことです。それは「負け」ではないし、もしかしたら他のプランや方法でならうまくいくかもしれないと考えるチャンスを与えられたって考えることです。

「ま、いっか」とわりきって次のアイデアや方法へとシフトしていく「折れる力」って実は、自分にも他人にも“寛容”になれるノウハウ。自分もまわりの人もハッピーになって仕事がうまくいく方法の1つなんですよ。

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文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴


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