ノウハウ Vol.488

「あなたが売れない理由はただ1つだ」リッツ・カールトン元日本支社長が語る“最強営業論”

「売れない」不安、焦り、プレッシャー。営業マンなら誰もが感じたことがあるだろう。どうしたら売れるようになるのか、あれこれ理由を考えて苦しくなってしまうこともある。そんな悩みに、「営業で売上が上がらない理由は、究極的に言うとたった一つしかありません」と答えるのは、ザ・リッツ・カールトンの元日本支社長・高野登氏。

「売上が上がらないのは、『あなたから買う理由がない』からです。あなたに任せたい、あなたのチームがいい、お客さまにそういう‟買う理由”がなければ、買ってもらえなくて当然。ホテルマンだろうと営業マンだろうと、その根源は変わりません。そしてリッツ・カールトンでは『お客さまが私たちから買う理由』を意識的につくってきたからこそ、他のホテルよりは高価であっても、予約を継続的にいただくことができているのだと思います。そこには究極のおもてなし力、つまり最強の営業力があるのです」

35年もの間ホテルマンとして活躍し、リッツ・カールトンを日本有数のホテルへと育て上げた高野氏が語る、“最強の営業力”とは何だろうか。2017年10月21日(土)に浅草橋ヒューリックホールで開催された『ウレフェス2017』の講演内容から紹介する。

高野 登氏

高野 登氏

1953年5月、長野県長野市(旧戸隠村)生まれ。21歳でニューヨークに渡り、ヒルトン、プラザホテルなど名門ホテルを経て90年、リッツカールトンへ移籍。94年にリッツ・カールトン日本支社長として帰国。97年に大阪、2007年に東京の開業をサポート。2010年、人とホスピタリティ研究所設立。同年より始めた、「寺子屋百年塾」は全国十数カ所で開催されている

営業の極意1.仮説力=相手の価値観を想像する力を養うこと

自分の立場や価値観ではなく、お客さまの価値観を仮説立てて実行すること。それが高野氏が最も大切にする営業哲学だ。

「お客さまの価値観というのは、想像できているようでできていないものです。それを痛感したのは、私の知人で、障がいを持って車いす生活を送っている人の話を聞いた時でした。

ホテルマンであれば彼が過ごしやすいように、食事の際はテーブルに用意された椅子を外し、車いすが入るスペースをつくるでしょう。だけど私は、彼の本心を聞いて驚きました。

『僕にとって今乗っているものは車椅子ではなく、‟椅子車“なんです。移動のための乗り物です。あなたは、自転車に乗ってごはんを食べたいと思いますか? 皆さんが気を使ってくれているのはありがたいので笑顔で応じますけど、本当は私だって、ごはんを食べている時くらい皆と同じようにフカフカの椅子に座りたい』というんです。

私はこの言葉にドキッとしました。私は彼の価値観を想像することなく、『この人はこうすると喜ぶのだ』と思い込んでいた。彼がこう思うかもしれない、という想像力が足りなかったんです。相手にとって大事なことや必要なことを想像できる力、仮説する力を養うことが、売れるようになるための第一歩だと思います」(高野氏)

営業の極意2.「心のセンターピン」を見極め、外さないこと

ボーリングのストライクの条件は、中央先頭に立つ‟センターピン”を決して外さないことだ。高野氏はおもてなしをボーリングに例えて「人とコミュニケ―ションを取るときには、相手のセンターピンを外さないことがストライクを狙う絶対条件だ」と話す。

「リッツ・カールトンのスタッフは常に、お客さまの“心のセンターピン”を意識しています。その大事さを思い知ったのは、ホテルではなくイスラム圏内のある国で実際にあった話を聞いたときです。

その国では、あるメーカーのTV端末が大ヒットしました。なんとそのTVは、ある一定の時間になるとコーラン(イスラム教の聖典)が流れる仕様になっていたのです。他の国のメーカーは、『TVがもっと薄く、画素数が増えました』、『スピーカーがグレードアップしました』といった性能の良さばかりをアピールしていましたが、あまり売れていませんでした。

技術面の改良はどのメーカーでも出来ます。しかし、その国の人たちにとってのセンターピンは“1日5回のお祈り”にあったのです。

このTVのおかげでどの番組を観ていても時間を気にしなくてもよくなった。このメーカーはイスラム圏のユーザーの‟センターピン”を狙い『お祈りの時間を知らせる機能』を搭載したことで、ストライク、つまり大ヒットを生んだのです」(高野氏)

営業の極意3.「知識」ではなく「智恵」を磨くこと

ありとあらゆる情報にアクセスできる今の時代、膨大な知識を簡単に手に入れられるからこそ、高野氏は「これからは、たくさんの知識をどう活かすのかを考える“智恵”を磨くべきだ」と語る。

「旅行業大手のエイチ・アイ・エスが、長崎のハウステンボスに『ロボットホテル』をつくりました。ホテルマンに代わって、ロボットが働いているホテルです。従業員の人間は6~7人くらいしかいません。これは全国のホテルマンへの挑戦ですよね。人間がロボット以上の仕事をしていなければ、仕事を奪われてしまいますよという。

接客の知識量や情報量は、コンピューターに太刀打ちできません。そんな時代に突入してきているからこそ、私たちは智恵を手に入れ、お客さまの細かい心のセンターピンにヒットさせる工夫を日々考え続ける必要があるのです」(高野氏)

3つのポイントを、自然にできるように身に付けていくことが大事

「最後にご紹介するのは、東北のあるホテルで本当にあったお話です」

高野 登氏

「真夏の午後に散歩に出かけた家族が、ホテルのカフェに立ち寄りました。おじいちゃんは麦茶、息子夫婦はアイスコーヒー、子どもはアイスクリームを頼みました。しかし注文を待っている間に、なんとおじいちゃんが失禁してしまったそうです。散歩の疲れと真夏の暑さで、油断してしまったのでしょう。家族全員がその事態に気付き、周りをキョロキョロと見ながら、うろたえています。

ようやくウエートレスが注文を持って近付いてきました。彼女は遠目にそのテーブルを見た時、その異変に気が付きます。

しかしその後、何事もなかったかのように息子夫婦にアイスコーヒーを出し、子どもにはアイスクリームを出します。そしておじいちゃんに麦茶を渡すときに、わざと手を滑らせたのです。彼女の手からこぼれ落ちた麦茶は、おじいちゃんのズボンに飛び散ります。そして彼女は店内に聞こえる大きな声で、『申し訳ございません。手が滑ってしまいました』と謝り、『何か着替えを探して参りますので』と言って、おじいちゃんを大浴場に連れ出しました。

おじいちゃんの異変に気付いた時、彼女は瞬時に「お客さまには絶対に恥をかかせてはいけない」こと、そして「その恥は自分が引き受ければいい」ということに気付きました。彼女は仮説力を持ち、お客さまのセンターピンに沿って、智恵を活かして行動したのです。

こうした行動は、常日頃からチーム全体で自分たちの仕事の意味、お客さまのこと、価値観などを共有していなくては出来るものではありません。組織の価値を決めるのは、規模の大きさやブランドの名前ではなく、そこで働く人の想いであることがよく分かります」(高野氏)

いつでもどこでも、モノやサービスが簡単に買えてしまう時代に、営業マンが介在する価値は何だろうか。改めて、問い直してみたい。今回高野氏が語った“最強の営業力”の中に、その答えがあるといえそうだ。「売れない」ことに悩んだら、まずはこの“3つの力”を意識してみよう。そうすればきっと『あなたから買う理由』が生まれてくるはずだ。

取材・文・撮影/大室倫子

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