ノウハウVol.549

脳科学者・中野信子が教える、絶対に提案がうまくいくコミュニケーション3つのポイント

仕事をする上で、コミュニケーション力は欠かせないスキル。だが、自分の考えや思いをうまく伝えられず、相手を動かすことが苦手な”提案下手”な人もいるだろう。どうすれば上手く相手に「Yes」と言ってもらえるのか、経験値だけではカバーできない確かなノウハウが欲しくなる。そんな若手ビジネスマンに、脳科学者の中野信子さん流のコミュニケーション術を教えよう。

5月16日の『Advertising Week Asia 2018』で、中野信子さん、simpleshow Japanの吉田哲さんらのトークセッション「コミュニケーションの科学的なアプローチ~成功の秘訣~」内で語られた、3つのポイントを紹介する。

脳科学者 中野信子さん
(写真右)simpleshow Japan代表取締役の吉田哲さん
短時間でメッセージを伝える「解説動画のプロフェッショナル」
(写真左)脳科学者 中野信子さん
脳科学者。東日本国際大学教授。1975年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から2010年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』(幻冬舎新書)『脳はどこまでコントロールできるか?』(ベスト新書)『サイコパス』(文春新書)『科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)ほか。脳や心理学をテーマに研究や執筆活動を精力的に行っている。公式ブログInstagram

【ポイント1.「脳の認知負荷」を減らす】
メッセージはシンプルなほど伝わりやすい

まず大前提として、「人間は脳を使わずに生きたい生き物である」と中野さん。

「例えば、恋人に『何したい?』って聞かれると最初はうれしいけれど、だんだん自分で決めなければいけないことに苛立ちを感じてくることがあります。『今晩のご飯、何にする?』に対して『何でもいいよ』と言われるとムカつくのも同じことですね。このような苛立ちをなぜ感じるかというと、自分の脳が疲れを感じるから。何かを決断するって、脳に負荷がかかるんです。これを『認知負荷』といいますが、まずはここを意識していただきたいですね」(脳科学者 中野信子さん)

「提案資料は1枚にまとめろ」、「一言で言えるくらいシンプルに削ぎ落とせ」。ビジネスの現場ではよく言われることだが、分かりやすく伝えることは、相手の認知負荷を軽減させることと同義だ。

「脳は酸素もカロリーもたくさん消費する、非常に浪費家な臓器なんです。でも重要な働きをしているので、機能を停止させることはできない。だから体からすると、なるべく脳は使わずに節約したいもの。多くのことを詰め込んで負荷がかからないように、脳としては情報が少なければ少ないほどいいんです。なのでメッセージをなるべくシンプルに、一言で言えるくらいにしないと、相手に認知されないと思った方がいいですね」(脳科学者 中野信子さん)

複雑な課題を分かりやすく解説する動画を製作しているsimpleshow Japan。彼らがつくる動画は基本的にモノクロだが、これも認知負荷の軽減に繋がっている。

※会場で紹介された富士通の動画

「色が少ないのは意外性があるし、スマートフォンの小さい画面で見ると、白黒の方が目立つ。クライアントには色を使わなくて大丈夫なのかって心配されることも多いですが、あえて白と黒だけでシンプルにするこで情報を伝達しています」(simpleshow Japan・吉田さん)

強調のために、提案書や広告にはつい色を多用してしまいがちだが、使う色を絞ることでメッセージが伝わりやすくなるそうだ。

【ポイント2.「ミラニューロン」を刺激】
ストーリーを語り、共感を促す

脳にはミラーニューロンという神経細胞がある。他人の行動を見るだけで、自分が同じ行動をしているかのように脳を反応させるもので、「共感脳」とも呼ばれる。simpleshow Japanの動画製作には、このミラーニューロンを意識した“共感のノウハウ”が用いられているという。

「どんな複雑なメッセージでも、端的な物語にして説明をすることで、同調できるようになります。動画の場合だと、3分の中での時間軸が重要で、日本昔話のように、主人公が登場し、困難に直面して、人と出会い、物事を解決する。そういった型にはめることで、主人公と自分を重ね合わせやすくなります」(simpleshow Japan・吉田さん)

脳科学者 中野信子さん

「さらに動画で使用しているイラストは、印刷したものを切り抜いて、それを手で動かしています。人の手が登場することで親しみが湧き、物語にすることでミラーニューロンを刺激して共感を促す。そして最後のソリューションの部分でBGMのドラムやシンバルが強くなっていき、心が高揚することでさらに共感を強めるような仕組みになっています」(simpleshow Japan・吉田さん)

【ポイント3.相手の脳に”程よい満足感”を】
ちょっとした負荷が、相手の行動を促す

「負荷を避けたい」と思う一方で、「自分の意思で決めて行動したい」とも思う。人間の脳は、そんな相反する意思を抱えている。つまり、人に行動を促すためには、ストレスにならない程度の“わずかな負荷”を克服してもらう必要があるのだ。

「わずかな負荷を増やすことが人の行動を動かす事例として、『募金を増やすための調査』があります。次の4つの言葉が書いてある箱の中で、一番募金が集まったのはどれだと思いますか?

・どんなにわずかでもいいので寄付してください
・1ドルでもいいので寄付してください
・1セントでもいいので寄付してください
・あなたの行動が世界を変えます”

脳科学者 中野信子さん

正解は『1セントでもいいので寄付してください』です。日本で言うところの1円ですね。つまり、これが一番克服しやすい負荷だということ。そのくらいなら募金してもいいかなと思えるけど、これが1ドル、つまり100円だと『このお金があればいろいろできるな』と思ってしまう。“わずかな負荷”というのは、このくらいの負荷なんです」(脳科学者 中野信子さん)

少しの負荷で「いいことができた」と思えることが喜びにつながる。決断までのハードルをできる限り低くすることで、相手の脳に満足感を与えることを意識してみよう。

【おまけ:相手の「愛情ホルモン」を刺激してみよう】
スキンシップで相手への親しみが増加する

冗談のつもりだった発言がSNSで炎上する。最近よく見る光景だが、遊び心と不謹慎の違いは、愛情や親近感を深める働きを持つ「オキシトシン」、通称“愛情ホルモン”にある。

「ありがたいことに私はSNSであまり炎上しないんですけど、気を付けているのは、相手にオキシトシン(愛情ホルモン)を出させること。仲間と思わせ、親しみを持たせる。感動させるとか、温かい心を起こさせるといったことを念頭におくと、『不謹慎だ!』と炎上する事態は避けられます」(脳科学者 中野信子さん)

脳科学者 中野信子さん

普段のコミュニケーションの中で、相手にオキシトシンを出させる効果的な方法が、スキンシップだ。

「オキシトシンは触覚によって分泌されることが多いんです。セクハラには気を付けなければいけないですが、親しくなりたい人とのコミュニケーションでスキンシップを取ることはすごく大事。二の腕に軽く触れることで、相手に仲間だと思ってもらいやすくなるという調査もあります」(脳科学者 中野信子さん)

相手に親しみを持ってもらうことで、メールなどのテキスト上での炎上や、コミュニケーションエラーを避けることができるのだ。

脳の特性や働きを理解することは、提案相手とより良いコミュニケーションを取る近道と言えそう。上司を説得する、クライアントに提案する……ビジネスのさまざまな場面でも、“相手の脳の動き”を意識して「提案下手」を克服していきたい。

取材・文・撮影/天野夏海

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