キャリア Vol.555

時代の変化に乗り遅れる“残念な男”たち――「20代は、痛い目を見ても変わるために戦え」【男性学・田中俊之さん】

先日、“男性の生きづらさ”を研究している「男性学」の田中俊之先生に、今の時代に若手男子が「生涯のパートナー」と結婚するために必要なことを聞いた。

>>「男が女に経済力を求めたっていいじゃない」いつかは結婚したい男子が今すぐ捨てるべき3つの常識

すると、これから結婚したい男性は、「従来の“こうあるべき”を捨てた方が良い」とアドバイスをもらえた。

現代は家族のカタチが多様化しているにも関わらず、男性たちは「こうあるべき」にとらわれて、その変化に追いつけていない人も多いという。そんな“残念な男”たちについて、田中先生に聞いてみた

大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中俊之さん

大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中俊之さん

1975年生まれ。男性学・社会学を専門とし、「日本は“男”であることと“働く”ことの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らす。単著に『男がつらいよ』(KADOKAWA)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+α文庫)他。一児の父として育児にも奮闘中

お母さんが2人いる、お父さんがお母さんだ――「いろいろな家族があっていい」が認められつつある現代

『サザエさん』のように、お父さんがサラリーマン、お母さんが専業主婦、おじいちゃん、おばあちゃんがいて孫がいる、かつてはこうした家族にも違和感はありませんでした。

ところが今は祖父母と一緒に暮らしている世帯は多くありません。若い世代に聞いてみると「おじいちゃん、おばあちゃんよりも、一緒に暮らしてる犬のほうがよっぽど家族だと感じる」なんて言うのです。40代の僕ですら、自分の祖父母が「家族」かというとピンとこない。こんなふうに、「家族の形」は変化してきています。

それはアニメや音楽の世界でも顕著です。2006年に放映されたアニメ『おねがいマイメロディ くるくるシャッフル!』には、産みのお母さんが亡くなり、新しいお母さんと暮らす女の子が登場します。お小遣いが少なく、一つしかカーネーションを買えない彼女は母の日に、どちらのお母さんに花をあげようか葛藤する。結局、女の子は新しいお母さんに花をあげることに決めたのですが、新しいお母さんは「亡くなったお母さんのお墓に、カーネーションをあげにいこう」と言ってくれるのです。離婚も再婚も増えている今日、子どもたちが多様な家族について知るきっかけとして、アニメでどのような物語が展開されるかは非常に重要です。

大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中俊之さん

音楽の世界では、星野源さんが昨年リリースした『Family Song』のMVも有名です。星野源さんが母親役で、男装した女優の高畑充希さんが父親役、セーラー服を着た藤井隆さんが娘役という、性別や年齢を超えた家族が登場します。星野さんはこの曲について「これからは両親が同性の家族も増えてくるだろうし、血の繋がりや一緒に暮らしているかどうか、そもそも人間なのかさえも関係ない家族が出てくると思う。そういう多様化を受け止められる歌をつくりたかった」と話しています。

このように、今までとは違う価値観を提示している作品は増えてきました。今まで当たり前だと思っていた、あるいは思い込まされてきた「家族」の形は大きく変わり、多様化の時代を迎えているのです。

昔の人の「常識らしきもの」は、現代の若者にとってデメリットでしかない

家族の形だけではありません。今まで男性の生き方といえば、サラリーマンになって会社で働き、家族を養うのが一般的でした。そうすれば家族も家も持てた。それが男として何かを成し遂げたと思える分かりやすいルートだったんです。しかし今は違う。サラリーマンは平凡なものになってしまいました。頑張って働いたって、結婚したり車や家を買ったりできるわけじゃない。

そんな時代なのになぜ、「一家の大黒柱として家族を養わねばならない」、「男たるもの大成しなければならない」といった過去の「当たり前」を正しいと思い、がんじがらめになってしまうのか

大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中俊之さん

一方で、気をつける必要があるのは、「新しいものは良くて、古いものは悪い」などのメディアが流す中途半端な情報や、一部の先駆者が唱えるバズワードです。

流行りの言説に乗っかって生きたからといって、必ずしも幸せになれるわけではありません。若い世代は今一度考えてみるべきだと思います。

世の中には私たちをいつの間にか絡め取り、がんじがらめにする「常識」で溢れています。気付いたら当たり前のように私たちの中に染み込んでいて、無意識のうちに正しいと思い込まされてしまう。もはや、呪いですね。

盲目的にそういう呪いを信じるのではなく、多面的に見て、メリットとデメリットを冷静に見極める目を持つことが大切です。誰かが煽り立てる「常識らしきもの」に踊らされていたら、その通りに進まない人生の局面にぶち当たった時、「こんなはずじゃなかった」と頭を抱えることになりかねません。「こうすれば幸せな人生を送れるはず」と信じていたことによって、苦しくなってしまうこともあり得るのです。

90年代生まれの優しい若者たちは、もっと傷つきながら生きていい

主に90年代生まれの人たちは、「優しい世代」だと言われています。ただ、彼らの「優しさ」とは、自分も傷つきたくないし、誰かを傷つけることで自分さえも傷ついてしまうという特徴を持つんです。

彼らがなぜこれほど繊細な優しさを抱えているかというと、幼い頃から「失敗した時に大人が責任を取ってくれない」世の中だったから。それまでは日本の社会全体に余裕があったので、若者が失敗しても大人がフォローしたし、いくらだってやり直すことができました。ですが今は、誰かが何かをしでかすと老若男女問わず容赦なく叩き、再起不能なまでに潰してしまう傾向があります。

とはいえ、いつまでも傷つかないままでは、日々に充実感を感じていない人を取り込もうとする詐欺めいたものや、「あなたには特別な価値がある」と耳ざわりの良いことを言う人に流され、騙されてしまうかもしれません。そうならないためにも、20代の皆さんは世の中に漂う「~すべき」、「~が正しい」と煽ってくるものへの耐性をつけた方がいいでしょう。

煽り耐性を付けるには、たくさんチャレンジして痛い目をみるほかありません。挑まなければ悪いことにも遭遇しないし、飛び抜けて良いことも起こらない。それなら、どんどん挑戦して、失敗してしまいましょう。そうすることで、煽り耐性や、いつの間にか思い込まされている価値観を疑い、新たな生き方を一から築いていく力が付くのだと思います。

取材・文/石川香苗子 撮影/大室倫子(編集部)


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