キャリア Vol.590

平成生まれの経営者は「幸せ」をどう定義する? U-29が語るシェアリングエコノミーの重要性

ミレ二アル世代は、所有することに幸福を感じない」と言われることは多い。実際に、物・サービス・場所などを、多くの人と共有・交換して利用する「シェアリングエコノミー」という概念が、20代を中心に急速に拡大している。

2018年9月7日開催のイベント『SHARE SUMMIT 2018』では、シェアリングサービスを提供する20代経営者たちが集まり、これからの「幸福な社会」についてのトークセッションを行った。平成生まれの経営者たちが考える「幸せ」の定義、シェアリングエコノミーの重要性とは何なのだろう。

株式会社SCOUTERの中嶋汰朗さん、株式会社DogHuggyの長塚翔吾さん、ecbo株式会社の工藤慎一さんといった平成生まれの経営者3人と、シェアリングエコノミー協会の石山アンジュさんが登壇した『SHARE SUMMIT 2018』内のトークセッション「SHARE × FUTURE 〜U29シェアエコ経営者が考える未来」から紹介する。

シェアリングエコノミー

個人の能力が問われ、豊かさの概念が無数にある現代

石山アンジュさん(以下、石山):今はシェアリングエコノミーの概念が急速に拡大しています。

中嶋汰朗さん(以下、中嶋):僕はシェアリングエコノミーが拡大するに伴い、「超・能力格差社会」になると思います。実際に今でも、採用サービスを提供していると、若くて優秀な人材が多いことに驚きます。10代で1000万円稼いでいるエンジニアとかもいるんですよね。

石山:え、それって学生ってことですよね?

中嶋:そうです。弊社でも、16歳の高校生と業務委託契約を結んでいますよ。だから、これから時代が進んでいくにつれて、年齢を問わずスキルがある人がどんどん増えて、能力の格差が開いていくのではないかと思っています。

石山:会社で長く働いていることが、価値になる時代ではなくなるということですかね。

中嶋:そうですね。会社が伸びている過程では学ぶことも多いとは思いますが、安定すればするほど学べることって減っていく気がしていて。そこに物足りなさを感じる人も増えていくと思います。実際、僕の周りでは社会人3年目くらいで独立している友人も多いですよ。そのように、これからはどんどん個人の力が問われる時代になるのではないでしょうか。

石山:なるほど。長塚さんはいかがでしょうか?

長塚 翔吾(以下、長塚):僕はものごとを“シェアする”ことがステータスであり、当たり前の時代が来ると思います。自分の特技とかやりたいことを発信して、それを共有することって、僕らの世代では自然なこと。その理由としては、平成という時代背景が関係していると思います。不景気である一方、モノがあふれている時代に育ってきたからこそ、所有する欲求を満たすよりも、自分を認めてほしいという欲求に価値を感じる人が多いんです。だからこそ、他人とシェアすることに意義を感じるという。

石山:たしかに物理的な豊かさを知らないけど、私たち世代の幸福度は高いと言われていますよね。お金や社会的地位は私たちの先輩世代には劣る一方で、幸せだと感じる人が多い。ここのギャップはなぜ生まれるんでしょう。

長塚:幸せの尺度が一つではない、というのは大きいと思います。

工藤 慎一(以下、工藤):今の話にもつながってきますが、どんどん「豊かさ」の概念が変わると思います。所有することが豊かだとされていた時代に対して、僕たちは情報化社会が進んだことで、今まで気付かなかった豊かさに触れる時代を生きています。その無数にある豊かさを全て所有することはできないから、スポットごとに体験そのものに対価を払う人が増えていくのではないでしょうか。

「新しい価値観」を許容する社会をつくりたい

石山:そんな未来に対して、現在の課題は何だと思いますか?

中嶋:やはり固定概念だとか、前例がないことではないでしょうか。それでも、良いことであれば自然と変わっていくと思いますけどね。

例えば、今って複業を認めようという流れがありますが、別に「誰かが認めないと変わらない」ということではないと思うんです。優秀な人であれば自然と多くの会社から必要とされるし、そういう複業社員を雇わないと、企業は優秀な人には巡り合えなくなる時代がくるのかと。

長塚:「既成の壁」は僕も感じていますね。これから個人のエンパワーメントへシフトしていく中で、社会的に新しい価値観を許容する一歩が踏み出せていないのかなと思います。僕らのようなシェアリングサービスを提供する経営者は、そこの課題に目をそらさずに向き合わなければいけませんね。

工藤:そもそも「シェアの概念が、僕たちを本当に幸せにするのか」ということを考えた時に、個人的には幸せになっていくと信じているんですよね。でも、その考えが浸透しないのは、やはり僕らの力不足だと思います。もっと僕らのサービスが、幅広い世代に浸透する工夫をしなければいけないし、数字的にも実績を見せていくことで、バリューを証明したいです。

石山:話題を集める一方で、なぜ“サービスを使う一歩”が踏み出せないんでしょうね?

工藤:僕らデジタルネイティブと言われる世代から見たら使いやすいサービスも、全年齢層で見たらまだ使いづらさがあるのではないでしょうか。

中嶋:工藤さんのいう通りだと思います。例えば電話って、今や皆が使い方を知っていて、そこに能力は伴わないですよね。電話と同じで、使いやすかったら、全体に浸透していくものなんだと思います。僕たちはもっと頑張らないといけませんね!

幸せな“シェアエコ”が広がる未来に向けて、一人一人ができること

石山:これからシェアという価値観がどんどん広まって、幸福度を高めていくために、私たち一人一人ができることって何でしょうか。

中嶋:HRサービスを提供している僕としては、個人が会社を辞める時に引き止めるのではなく、背中を押してもらえるようになるだけでも大きな一歩だと思います。そうすることで、たくさんの人が個人のスキルを伸ばすチャンスを得てほしいですね。

長塚:実は、若い世代にしかシェアリングエコノミーが浸透していないわけではないんです。実際、弊社のサービス(※犬を預けたい飼い主とドッグホストのマッチングサービス『DogHuggy(ドッグハギー)』)のユーザーは40代女性が多いんですよ。使ってみて便利だって分かるとリピートしてくれる方、周りにおすすめしてくれる人が増えている感覚です。なので、頭で良い悪いを判断するのではなくて、まずは試してみて便利さを感じていただきたいです。

工藤:僕は、個人の趣味や嗜好を大切にしてほしいと思っています。きっと未来になれば、自分の趣味や特技がマネタイズされるようなインフラが整う世の中になるでしょう。ですから、自分の好きや強みを大切にして、それをシェアすることで幸せを感じてほしいですね。

シェアリングエコノミー

中嶋 汰朗(株式会社SCOUTER 代表取締役)
2014年に青山学院大学在学中に株式会社SCOUTERを設立。ソフトバンクアカデミア外部5.5期生。16年4月に『SCOUTER』をリリース。紹介免許がなくても人材紹介を副業にできる日本初のサービスとして、応募者は2年で10,000人を超え、審査を通過した約3,500人が転職支援を行なっている。17年までに累計3.3億円を調達。18年5月にはSaaS領域へ進出。小規模エージェント向けクラウド求人データベース『SARDINE』を始め、HRTechを中心に事業展開を進めている
長塚 翔吾(株式会社DogHuggy 代表取締役)
1996年生まれ。2015年に麻布大附属高校を卒業。高校で獣医学を学ぶなかで、日本のアニマルウェルフェア(動物福祉)の遅れに課題感を持ち高校在学中の2015年2月にDogHuggyを創業。同年5月に、犬を預けたい飼い主とドッグホストのマッチングサービス『DogHuggy(ドッグハギー)』をリリースした。日本をどうぶつ先進国にすることをミッションに、ペット領域で事業開発を手掛けている
工藤 慎一(ecbo株式会社 代表取締役社長)
1990年生まれ マカオ出身 日本大学卒。Uber Japan株式会社の立ち上げ時のインターンを経験後、2015年6月に ecbo株式会社を設立。オンデマンド収納サービス『ecbo storage』β版を運営。17年1月にはカフェ、美容室、郵便局など多種多様な店舗の空きスペースを、荷物の一時預かり所にする世界初のシェアリングサービス『ecbo cloak』の運営を開始した
石山 アンジュ(シェアリングエコノミー協会 渉外部長)
1989年生まれ。国際基督教大(ICU)卒。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師。「シェアガール」の肩書で、シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案している。一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局渉外部長、クラウドワークス経営企画室など複数の名刺で活動。総務省地域情報化アドバイザー、厚生労働省委員も務める

取材・文・撮影/於ありさ


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