WeWorkが目指すオフィス改革「職場ではちゃんとしなきゃ、が日本の働き方をダメにする」
働き方改革が叫ばれて久しいが、長時間労働や非生産的な仕事の数々に飲み込まれ、働き方なんて本当に変わるのかと疑問に思う人もいるだろう。そこに「オフィス」という視点で切り込んだのが、ニューヨーク発のコミュニティ型ワークスペース『WeWork』だ。2017年7月に日本法人を設立し、2018年2月に初拠点をオープンした。
24時間365日オープン、入り口にはコミュニティエリア、コーヒーやビールが飲み放題のパントリーも完備。ソファーでくつろぎながら仕事をしてもよし、新しいビジネスや人々の交流を楽しんでもよし。グローバル規模で「生きがいを感じることができる環境づくり」を設計し続けている。
WeWorkの日本ゼネラルマネジャーの髙橋正巳さんに、「生きがいを感じることができる環境」とは一体何なのか、そしてWeWorkが日本の働き方をどのように変えていくのか、聞いた。
日本人には「課題設定スキル」が圧倒的に足りない
――髙橋さんはアメリカの大学を卒業後、シリコンバレーで働かれています。WeWorkにジョインし、日本人の「働き方」を目の当たりにした時、どう感じましたか?
これは日本の教育スタイルに起因しているかもしれないのですが、「与えられた課題や目の前のタスクをこなすことが仕事」だと考える人が多いように感じました。しかし、仕事は日本のテストのように、与えられた空欄を埋めていく作業だけでは進みません。
これだけ世の中が目まぐるしく変わっていく中で、これからは課題を自分で設定し、それを自ら解決していくスキルが求められます。
世間でやっと「働き方改革」が叫ばれるようになった今こそ、「そもそも自分は何のために働くのか」を考え直すタイミングでしょう。お金を稼ぐためなのか、何か成し遂げたいことがあるのか。自分の仕事で、世の中にどんなインパクトを与えたいのか。
もっと自由に、自分のスキルや想いが今の世の中にどう必要とされているかを考え直し、解決すべき課題を設定することが必要です。そのためには「決まった場所に、決まった時間に出勤して、いつも同じ人と決められた仕事をする」という従来の働き方から脱却して、いろんな人と意見を交わし、発想やクリエイティビティを開放すべきだと思います。
――「働き方改革」というと、まずは残業時間の削減など、制度改革に取り組む企業が多いのが現状ですが、髙橋さんはそれをどう思われますか。
もちろん制度も重要ですが、これから労働人口がどんどん減少していくなかでGDPを伸ばし続けるための鍵は「生産性の向上」です。そして生産性は、仕事に対する思い入れやパッションと強くリンクしています。本当に好きなことや情熱を持ってできることなら、高いクリエイティビティが生まれ、情報収集も活発になる。すると、個人の生産性は大きく向上していくはずです。
――確かに、好きなことにのめり込めば、高い成果は上げられると思います。一方で、熱中するあまりタスクが膨らんで、長時間労働になってしまう懸念はありませんか?
現代における生産性の向上とは、たくさんのタスクを短時間でこなすことではありません。ものごとをシンプルにして、価値あるものをたった一つ生み出すだけでいい。最近、商品ラインナップを削ぎ落として一つの商品で勝負しているメーカーや、メニューが一つしかない飲食店が爆発的にヒットすることって多いですよね。
そんな風に、今、一世を風靡しているサービスやプロダクトって、ボタン一つで何かをがらりと変えてくれるようなシンプルなもの。それって究極的にイノベーティブだと思うんです。
たくさんの作業をこなして複雑にする必要はなくて、シンプルにするためにいろんな工夫をしたり、課題を解決していく過程で、どんどん生産性も上がっていくし、少ない時間で大きな価値を生むことができるようになるのだと考えています。
AIは、人間の想いやパッションを効率化してくれない
――WeWorkでは、「日本人の働き方」の課題をどのように解決しようと思っていますか?
私たちが行っているのは、ピープルビジネスです。これからはAIやロボティクスが進化し、いつシンギュラリティが起こってもおかしくない時代。テクノロジーの力で徹底的に効率化が図れるところと、それではまかないきれないところの二極化が進みます。
その中で重要になってくるのは、テクノロジーでは効率化できない人の想いやパッションをすくい上げ、つなげる役割。そこを担うのが私たちです。全く違う業界の人たちが意見を交換し、刺激を得て、自由な発想やビジネスが生まれる環境をつくること、そして一人ひとりがやりがいや生きがいを持てる世の中を築くこと。それが私たちのミッションだと考えています。
空間、光、アイデア、ネットワーク。あらゆるものを最適化し、周りの人と共有できる環境を提供する。それによって働く人をよりオープンな気持ちにさせる。そういった気持ちや心を開放する感覚が重要だと思っています。
WeWorkのコミュニティエリアでは、毎週月曜日には週ごとにメニューが変わる朝ごはんが振る舞われるイベントや、平日の晩はサルサを踊るワークショップが行われることもあれば、ブロックチェーンや働き方の未来について語る真剣なビジネスセッションもあります。いろんな人に響く幅広いジャンルのイベントを行うことで、そこに集う人を増やし、会話や交流が生まれる仕掛けをつくっているんです。
今では、WeWorkに入居する企業やメンバー同士でランチをしたり、業務提携やサービス利用も生まれています。私たちがマッチングしなくても自発的にこういう化学変化が生まれるのが、理想としている姿ですね。
――日本で拠点をオープンして、特に印象的だったことは何でしたか?
日本人は、思ったよりもシャイじゃないということですね(笑)。いろんな人に言われるんですよ、「日本人ってシャイでしょう?」って。でも、WeWorkの初拠点をオープンした初日、その固定概念は打ち消されました。夕方6時頃にコミュニティエリアへ行ってみると、ビールやコーヒー片手にたくさんの人が集まり、ものすごく賑わっていたのです。でもよく考えてみたら、金曜日の夜って、新橋の飲み屋街では隣に居合わせた人同士が仲良くなって盛り上がったりしていますよね。日本にも、そういう土壌は充分にあるんだなと。
ただ日本人の多くは、今まで「職場では、ちゃんとしなければいけない」という暗黙のルールに強くしばられていたのではないでしょうか。年功序列の雰囲気、その会社独自の不文律、礼儀のような‟オフィスにはびこる暗黙のルール”から開放されることによって、想いやアイデアが活発にキャッチボールされるようになったのだと思います。
「Unlock」が個人のポテンシャルを引き出すカギ
――国をあげて取り組んでいる働き方改革も、急速に進んでいるとは思えない状況です。そのような現状をWeWorkは今後どのように変えていきますか?
実は今、ベンチャー企業ではなく大企業の入居が最も伸びているんです。大企業の場合、WeWorkに入っているのは、一部の部署であるケースが多いです。それでも、社内ミーティングでは他部署の社員がWeWorkへ足を運びたがる、ここで会議をすると生産性が上がる、採用面接をすると決定率が上がる、などの声を日本でもよく聞くんです。
そうやって、企業の意識が変われば従業員の考えも変わります。すると、社会は大きく動いていく。これまでの働き方とは違うことをしたい、それによって新しい何かを生み出したいという課題感は大企業こそ感じているはず。日本でもそこから大きな変化を起こしていけると思います。
――今後「働き方」が変わった時、日本はどんな世の中になるのでしょうか。
「いつどこで働く」という概念すらなくなり、自宅に一番近いWeWorkに半日だけ行って仕事をしようなど、もう少し柔らかい働き方が生まれるのではないかと思います。人それぞれ自分に合う働き方や、働く環境は違います。一人一人が自分にマッチした働き方ができるようになれば、自分のやっていることにもっと生きがいを感じられるようになるはずです。
今は会社やルールにとらわれて自分を制限している人が多いと思いますが、それを開放――英語では「Unlock」というのですが――「Unlock」することでいろんなポテンシャルが開けていくと思います。
――なるほど。最後に、髙橋さんの今後の展望を教えてください。
世界中のWeWorkメンバーをつないでいきたいですね。11月には横浜のオーシャンゲートみなとみらい拠点をオープンし、年内には大阪、福岡にそれぞれ拠点をオープンさせるので、日本のいたるところにWeWorkがあって、そこへいけばすぐコミュニティに参加できる状態をつくりたい。そしてそれを海外でも広げられるようにし、同じ思いを持つ人同士が、簡単につながれる世の中にしたいと思っています。
取材・文/石川香苗子 撮影/桑原美樹
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